vol.01 大ヒットマンガの裏側に迫る! vol.01 大ヒットマンガの裏側に迫る! vol.01 大ヒットマンガの裏側に迫る! vol.01 大ヒットマンガの裏側に迫る!

SPECIAL 01 SPECIAL 01

「怪獣8号」×「ゴールデンカムイ」

「少年ジャンプ+」で好評連載中の『怪獣8号』を担当している中路副編集長と
「週刊ヤングジャンプ」で8年間連載し、
今年4月に堂々完結を迎えた『ゴールデンカムイ』を担当した大熊編集主任。
編集歴15年以上のふたりに、編集者の役割、仕事の醍醐味をたっぷり聞きました。

中路靖二郎 Seijiro Nakaji

2004年入社。「少年ジャンプ」から「ジャンプ+」へ。担当作品に『ぬらりひょんの孫』『食戟のソーマ』『忘却バッテリー』『姫様“拷問”の時間です』『怪獣8号』など。

大熊八甲 Hakko Ookuma

2007年入社。「週刊ヤングジャンプ」で編集を務める。担当作品に『ワンパンマン』『干物妹!うまるちゃん』『九龍ジェネリックロマンス』『スタンドアップスタート』『ゴールデンカムイ』など。

中路靖二郎(左から)

集英社文庫(コミック版) 全12巻 / ジャンプコミックス 全36巻 /
ジャンプコミックス 1~14巻 / ジャンプコミックス 1~10巻 /
ジャンプコミックス 1~7巻

※2022年10月現在

大熊八甲(左から)

ジャンプコミックス 1~26巻 / ヤングジャンプコミックス 全13巻 /
ヤングジャンプコミックス 1~7巻 / ヤングジャンプコミックス 1~8巻 /
ヤングジャンプコミックス 全31巻

※2022年10月現在

CROSS TALK CHAPTER 01. CROSS TALK CHAPTER 01. CROSS TALK CHAPTER 01. CROSS TALK CHAPTER 01.
『怪獣8号』『ゴールデンカムイ』ヒット作の誕生秘話 『怪獣8号』『ゴールデンカムイ』ヒット作の誕生秘話

まずは、それぞれが担当している『怪獣8号』、
『ゴールデンカムイ』が誕生した経緯を教えてください。

中路

『怪獣8号』の作者である松本直也先生とは17年ぐらいのお付き合いになります。新人賞の応募作で動きがよくてかわいい絵柄に惹かれて担当させていただくことになりました。そこから「週刊少年ジャンプ」や「ジャンプ+」で何作か連載をして。連載終了後はいろいろな企画を考えては打合せ、という感じでした。2018年の年末か2019年の頭ぐらいに松本先生から「こういう作品を考えたのですが」とお聞きしたのが『怪獣8号』です。そのときにはストーリーの原型ができていたので、3話以降をどんな展開にしていくかを話し合って、少しの手直しで連載会議に提出しました。

大熊

『ゴールデンカムイ』の野田サトル先生とは前作の『スピナマラダ!』というアイスホッケーマンガで出会い、連載終了後1年間ぐらいは、新連載の題材を探しながら、どんな内容か、キャラか、題材か、ゼロからイチを生み出す最初の段階の打合せを繰り返すも、双方しっくりこなくて。参考までに、集英社文庫の作品をいくつかお渡ししたんです。その中に、老猟師と狼の戦いを描いた小説がありました。野田先生はもともと猟銃の免許にも興味がおありで、しかもその小説の主人公の名前が“二瓶”という、『スピナマラダ!』に出てくる主要キャラの名前と一緒で。野田先生はそういったゲンを担ぐ方なので、創作意欲が湧いたんですよね。しかも、野田先生のひいお祖父様が日露戦争の帰還兵で、それを題材にしたものも描きたいと前々から話されていたので、「それならふたつを合わせちゃいましょう」とできあがったものが『ゴールデンカムイ』なんです。

ヤングジャンプコミックス 全6巻

作品や作家さんとはどのように関わられているのでしょうか?

中路

基本的にはアイデアやストーリーについて打合せをします。作家さんによってやり方は異なりますが、松本先生とは毎話、毎話をどうするかにくわえ、大きなシリーズの構成を定期的に考えたり、演出面のアイデアを提供したり、という感じです。どこでどの要素を出すか、次の1話にはどれくらいのトピックを盛り込むか、など情報量のバランスをとるのも大切ですね。演出面で関わった具体的な例は2話目でカラーの絵を差し込んだこと。継続して読んでもらうためには2話目が大事です。1話目は怪獣8号の登場、2話目は怪獣8号が活躍する回という、絶対にみんなが楽しめる内容だったんですが、さらにそのうえで「ジャンプ+」というWeb媒体の強みを生かし、2話目で敵の怪獣を倒したあと血の雨が降るシーンをカラーにするのはどうかと提案しました。なんとか読者の頭にインパクトを残したいと思って。

第2話のクライマックス。
カラーページを任意の位置に挟めるのは
デジタルならでは

大熊

それは重要な演出ですね。僕の場合はまず、取材網の構築が重要でした。当時の編集長と一緒に北海道アイヌ協会へご挨拶に伺い、アイヌ語の先生を紹介していただいたり……。あとは繊細なテーマを扱っているため、まず作品と真正面から向き合う覚悟を決めました。誤解されて伝わることのないよう専門の部署とも相談をして、常に万全の体制を整えておきました。

中路

『ゴールデンカムイ』が始まったとき、そもそもの題材の難しさ、下準備の大変さが、同じ編集者だからこそ透けて見えて……。これは大変な仕事だぞと思い、驚いたんですよね。僕は自分が知らない世界に触れられる面白さがある青年マンガ誌がもともと好きだったんです。その中でも、『ゴールデンカムイ』は“リッチなマンガ”かつ“ド級のエンターテインメント作品”だなと思いました。リッチにするためには、自分が脳内に持っているものだけでなく、膨大な取材の他、様々な下ごしらえが必要。お金も手間も時間もかかっているんです。取材を必要とするマンガを担当してきた観点から見ると、この作品が成立する裏側にはどれだけの苦労や作業量があったのだろうと気が遠くなって(笑)。ひさびさにこんなボリューム感のある青年誌らしいマンガを見たなと驚愕しました。

大熊

ありがとうございます。

巻末の監修、取材、参考文献リストは
巻を
追うごとに膨大なものに。

CROSS TALK CHAPTER 02. CROSS TALK CHAPTER 02. CROSS TALK CHAPTER 02. CROSS TALK CHAPTER 02.
作品を世の中に広げるために 作品を世の中に広げるために

『怪獣8号』も『ゴールデンカムイ』もどんどん部数を伸ばし、
SNSでも話題になる人気作となっていきました。
その過程における編集者の役目はどんな部分でしょうか?

中路

『怪獣8号』ではプロモーションでも「ジャンプ+」の特性を生かした仕掛けを試みました。作品が掲載されるとコメント欄に感想をいただき、Twitterでいろいろ言及されますが、そうした数がいまは可視化され、多ければ多いほど雪だるま式に外に広がってくことに気づいたんです。それをふまえてたくさんの人に話題にしてもらえる仕掛けを考えました。まずコミックス1巻の発売日ですが、通常より少し遅らせて期待感を高めてもらったうえで、連載話が「ジャンプ+」で更新される金曜日に合わせました。そしてその回は松本先生と打合せのうえ、絶対に盛り上がる回にしていただいて……。コミックスと連載、両方で話題になるように。そしてこのころは『鬼滅の刃』が大ブームを巻き起こしていたタイミングで。じつは『鬼滅の刃』最終巻と『怪獣8号』1巻の発売日は同日なんです。ここ10年で、書店に一番人が集まるであろう日に合わせました。『鬼滅の刃』にスペースを取られてしまい、下手したら『怪獣8号』を置いてもらえない可能性もありましたが、これは賭けだなと思って(笑)。いろいろと調整が利き、SNSとの相性もいい媒体ならではの仕掛けでしたね。

大熊

『ゴールデンカムイ』は連載終了の7か月ぐらい前に、このあたりで終わるという見通しを立てられたので、最終回に合わせたプロモーションをいろいろと考えることができました。野田先生とは「週刊ヤングジャンプ」の表紙の号で終わらせられるように、と綿密にお話しして。それでも2回ぐらいズレてるんですけどね(笑)。

中路

雑誌とコミックス、両方を見据えての完結のタイミングは難しいですよね……。

大熊

そうなんです。仕掛けとしては、まず2021年の夏に“最終章突入”と打ち出して、連載最新話までを含む全話無料公開をやったんです。最終章ですから全話規模くらいしないとインパクトが出ないと思いました。「ヤングジャンプ」のWeb、アプリチームとの連携もうまく運び、非常に手応えを感じました。それもあって、最終回直前カウントダウン、最終回を含む全話無料公開を満を持して行なうことができたんです。ただ、最終回という一番売れるものを無料で公開するわけですから、それを了承してくれた編集部をはじめ社内の関係各所、販売店の方々、何よりも野田先生には感謝しています。さらに野田先生からもファンの方へのメッセージで「一緒に終わりに向かいましょう」と言っていただけたことも大きかったです。我々も販売店さんもファンの方々も奮い立ちました。制作サイド、販売サイド、そして読者の方々、すべて巻き込んできちんと終わらせる流れをつくれたことが話題となった要因だと思います。これは偶然の産物ですが、最終回が延びたことで、連載完結記念の『ゴールデンカムイ展』の開催期間ともマッチして。

展覧会開始日は、連載最終話掲載の
「ヤングジャンプ」の発売日。大きな話題に。

中路

偶然だったんだ。すごいなーと思ってたのに(笑)。

大熊

2回くらいズレているので(笑)。そうした幸運にも助けられて、より注目していただくことができました。

CROSS TALK CHAPTER 03. CROSS TALK CHAPTER 03. CROSS TALK CHAPTER 03. CROSS TALK CHAPTER 03.
過去の経験を今の仕事に活かす 過去の経験を今の仕事に活かす

作家さんが素晴らしい作品を生み出される裏で、
編集者が様々な仕掛けを施しているんですね。
編集の仕事・役割とはズバリなんだと思われますか?

中路

担当する作家さんによって関わり方は大きく異なりますが、意識しているのは作家さんの強みを見つけて、その部分を際立たせること。演出がうまければ演出がより際立つように、キャラがよければキャラがさらに目立つように、総合力が高ければノイズとなる部分を除去して、その作家のよさがもっと見えやすくなるように、という感じですね。

大熊

あるときは愛読者であり、またあるときは、プロモーターであり、助監督であり、友人であり、コンビニエンスストアでもある(笑)。そんな中で一番しっくりくるのは、才能という“不定形な力”をできるだけ多くの人の“共通言語”にする翻訳者であり、通訳者なのかなと思います。

中路

僕は紙媒体の「週刊少年ジャンプ」から、Web媒体の「ジャンプ+」に異動したので、紙での経験がデジタルに活かされているなと感じることもあります。ジャンプ本誌の場合、1話19ページと、ページ数が限られている。だから、その回の中で目立たせる部分、山場と次回への引きをつくるために、余分なところを削る作業が必要で、自然と取捨選択する技術が身についていたんです。ただ、「ジャンプ+」だとページ数の制限がないので、いいアイデアを残したいと思うとどんどん長くなり、一つひとつのネタは面白いけど、全部足した結果、ぼやけてしまう可能性がある。そこは注意するように、後輩には口酸っぱく言っています。読者に受け取ってもらえるものには限りがあり、「ここがこのマンガのいいところですよ」というものを絞って出さないと、理解されないし、なかなか広がっていかない。そうした意識は紙媒体での経験によるものが大きいと思いますね。

大熊

中路さんが編集されるマンガには美しさを感じます。構成の美しさというか、必然性に満ちているんですよね。

ふたりがこれまで携ってきたマンガは、作品のテイストがどれも違いますが、頭が混乱することはありませんか?

大熊

個人的には、ジャンルの幅が広いほうが面白いなと思っています。それを編集できるかどうかでいうと、“わかる”かどうかが大事で。その“わかる”には共感力と理解力の二種類あり、共感わかるは自分の“好き”に近いから、感情で推したくなる。理解わかるのほうは、作品の構造やウケている理由がわかるということ。そのどちらかを見つけ出せれば、担当できるなと思っています。とはいえ、作家さんが描きたいものというのが前提なので、あとは寄り添うだけ。僕が大好きな藤子・F・不二雄先生は「作者の描きたいものと読者の読みたいものが幸運に一致した結果がヒットだ」とおっしゃっていて。その幸運の一致を必然の一致にするために大事なのが、作家さんとの打合せなんですよね。

CROSS TALK CHAPTER 04. CROSS TALK CHAPTER 04. CROSS TALK CHAPTER 04. CROSS TALK CHAPTER 04.
マンガ編集の楽しさ マンガ編集の楽しさ

編集者の醍醐味や仕事をしていて楽しいと感じるのはどんなときですか?

中路

狙いがハマったときですね。先ほどお話したような自分からの提案やプロモーションなども含めてコミットしたものが世に出て、その反応がダイレクトに返ってくる仕事ってなかなかないと思うんです。しかもありがたいことに、多くの方が読んでくださって。それを味わった瞬間は本当に気持ちいい。この仕事をする原動力にもなっています。

大熊

編集者は作家さんの一番近くの伴走者として、作者の人生を懸けた勝負が報われたときの喜びを一緒に味わえる。そして、自分の“面白い”が肯定される快感というのは、推しがメジャーデビューしたような気持ちに近いと思っています(笑)。

中路

『食戟のソーマ』というマンガを2012年に立ち上げたのですが、作画担当者からアイデアを聞いたときに「これは面白そうだ」と、ピンときたんです。そこから原作者を探して、料理がテーマの作品だったので、監修の方もつけたり。企画成立の段階から関わった作品なので、達成感も大きかったです。実は会議に連載用のネームを提出したときは連載は決まったものの、かなり強く修正するように言われて……。作家さんに直してもらったのですが、全然面白くならない。これはダメだと直さずに掲載する決断をしました。結果的にそのままだった1~3話は狙い通り多くの人に楽しんでいただけたので、印象に残っています。

大熊

自分が面白いと思ったものを信じぬく気骨を感じますね。気持ちがいいのは、作品が広がっていく過程。作家さんと編集者のたったふたりという一番小さいチームで始まり、脳内にある不定形なものが形になって、雑誌に載って、コミックスが発売されて、面白いことがどんどん世に証明されていく。アニメ化や実写化といったメディアミックス展開されれば、チームの人数もさらに増えていくわけですよ。源流にあったひとつの情熱がどんどん広がっていく過程を見るのは気持ちがよくて、病みつきになりますね。

『食戟のソーマ』1巻より。魅力的なキャラクターと
シズル感あふれる料理描写で大人気。

どんどん広がり、仲間が増えていくのは、マンガの展開とも似ていますね。『怪獣8号』しかり、『ゴールデンカムイ』しかり、どちらも主人公の周りに仲間が増えていって、世界観も広がりを見せていく……。

大熊

そうですね。マンガを読んだときのような快感原則がある仕事ってことなんでしょうね。ドーパミンがめっちゃ出る仕事だと思います。

中路

うちは子どもが大きくなり、マンガも読めるようになってきて。『怪獣8号』や『姫様“拷問”の時間です』など、担当作品を楽しそうに読んでくれているのを見ると、単純にうれしいというか(笑)。改めて、いい仕事だなと思いますね。

『姫様“拷問”の時間です』1巻より。
“拷問”は目の前で美味しいものを食べること。

CROSS TALK CHAPTER 05. CROSS TALK CHAPTER 05. CROSS TALK CHAPTER 05. CROSS TALK CHAPTER 05.
それぞれの媒体だからこそできること それぞれの媒体だからこそできること

新人作家さんの発掘における苦労や意識されていることはありますか?

中路

少年ジャンプ編集部は4~5班で編成されています。毎月、ジャンプに応募してきた作品の中から新人賞を決めるのですが、それを班ごとに担当するんです。まず、班の中で一番若手の編集者が募集記事や進行管理など賞にまつわるすべての仕事を任されるので、大変なんですよ。そのぶん、その若手から一番いい作品、ドラフト1位の作品を指名できる。気に入った作家・作品を最初に取れる見返りがあるので、大変な作業も頑張れるんです(笑)。あとは作品の持ち込みもありますし。3年目ぐらいまでは、そうしたなかで出会った作家さんと一緒に作品をつくっていくケースが多いです。

大熊

ヤングジャンプに作品を持ち込まれる方はどこかユニークな部分があるんですよね(笑)。変わった才能なので、わかりづらい希少性を持った人を翻訳するのは大変なんですが、そのぶん、やりがいもありますし、希少価値が高いほど、面白いものができるのかなーと。メガヒットって、タブーだったり、目新しいものから生まれると思うので、そういった意味では新たな才能と出会う気持ちよさも格別なのかなと思います。

中路

ユニークな才能が集まる青年誌は、マンガの可能性を広げてくれる場だなと思っています。どんな素材でも切り口次第でエンタメにできる。中でも「ヤングジャンプ」はエンタメ志向が強く、面白いものをつくろうという気概を感じます。少年誌では扱えないような素材×エンタメ感の組み合わせが秀逸で、読み応えがとてもある。可能性を感じる媒体ですよね。

大熊

そう言ってもらえるのはありがたいです。エンターテインメントのバランスを取りながら挑戦できる雑誌でありたいというのが編集部のモットーでもあるので。

集英社では、新人作家の発掘はもちろん、編集者の育成も積極的に行なわれているのでしょうか?

マンガ家志望者に向けての講座に編集者も登壇。
2022年秋に第3期を開催。

詳しくはこちら
中路

7~8年ぐらい前に、編集技術を若手に伝えるための社内勉強会を開催したことがありました。そのあと、「ジャンプの漫画学校」というマンガ家志望者向けの講座でも講師を務めることがあり、そこで自分の仕事内容を客観視することができたんですよね。自分はコミットしてつくるタイプなので、アイデアや演出などの足し算の作業をおもにやっていると思っていたら、「ここはやめておこう」、「今回はここまでにしておこう」といった引き算の作業が9割ぐらいを占めていたんです。編集の仕事を伝えながら、そんな気づきもありましたね。

大熊

その勉強会には私も伝える側で参加したのですが、各々の編集者がこれまで培ってきたものを伝える様子を見て、編集者は作家さんに対する興味や関心は大きいけど、もっと他の編集者に対しても関心を持ったり、改めてわれわれの仕事を洗い出し、編んで集めなおす、“編集の編集”が必要だなと感じました。そういうムーブメントが年々、社内でも高まってきているので、いま入社したら、先輩や上司からいろいろ教えてもらえると思います。とてもいい会社ですね(笑)。

CROSS TALK CHAPTER 06. CROSS TALK CHAPTER 06. CROSS TALK CHAPTER 06. CROSS TALK CHAPTER 06.
就活中の方たちへ 就活中の方たちへ

ご自身の就職活動についてもお聞きしたいのですが。どんなことを意識して就活に臨んでいましたか?

大熊

この会社、この業界でなくてはダメ! ということはなく、それぞれに対して行きたい理由を考えて出版以外にも新聞、テレビ、広告代理店、証券会社やメーカーも視野にいれていました。ひとつに絞らず幅広くモチベーションを持つことで比較的リラックスして楽しんで就活に臨んでいましたね。

中路

僕のときは就職氷河期真っ只中で、関西の大学から東京のマスコミに入れるなど露ほども想像できず、食品メーカーを中心に就活していたんです。が、何社も落ち続け、第1希望の会社にも落ちたときに、どうせ落ちまくるなら本当にやりたいことに挑戦してみようと思い、編集者になりたいという気持ちがフツフツと……。調べたら集英社はまだ間に合うタイミングで。ただ、エントリーシートのほかに作文もあって、これがとても長くて心が折れかけて……。でも当時付き合っていた彼女が「とりあえず書いてみたら?」と背中を押してくれて。そしたら意外といいものが書けたんですよね。それがいまの妻です。

大熊

それ、めっちゃいい話ですね!

おふたりはどんな人と一緒に働きたいと思いますか?

大熊

原則的には作者=表現者でありピッチャーなので、聞き上手なキャッチャータイプの方ですかね。人の話をちゃんと受け止めて聞ける人。キャッチャーミットを広く持っている人がいいのかなと思います。編集って、誰かにやってもらわなければ成り立たない業務なんですよ。作家さんだったり、カメラマンさんだったり、ライターさんだったり……。いろんな人たちが携わってできあがるものなので、自己をコンテンツ化することに長けているより、このコンテンツは面白いと勧めることに喜びを感じるタイプの人のほうが向いているのかもしれない。でも、幅広い仕事なので、どんな人でも楽しめる職業だと思います。

中路

仕事内容は本当に多岐にわたりますからね。だから自然と自分の興味の幅も広がっていく。こだわりや好きがあるのはいいことですが、興味の対象を固定しないほうがいいなと思っています。スポーツ観戦や映画に誘っても「僕、興味ないんで……」となってしまう人もたまにいますが、それよりはフットワークが軽く、なんでも楽しめるタイプのほうがいいのかなと。

大熊

「名刺1枚でどこにでも行ける」と入社1年目のときに言われるんですけど、楽しもうと思ったら最大限楽しめる会社であり、職業だと思うんです。だったら楽しまないのは損かなーと。僕も取材であちこち行きました。『M-1グランプリ』の予選に出たこともあります(笑)。

M-1出場はどんな理由で?

大熊

僕が最初に担当した作家さんが森田まさのり先生で、漫才をテーマにした作品『べしゃり暮らし』の取材として出場したんです。森田先生に「M-1に出て感想を聞かせてほしい」と言われ、編集部のフリースタッフの方と組み、当時の連載作品のネタをお借りして出ました。1回戦敗退でしたが(笑)。

中路

すごい! 体張ってるねー(笑)。

大熊

でも、全然イヤではなかったですよ。あまりに緊張しすぎて、いざ先生から肝心の感想を聞かれても「何も覚えてないです」で終わってしまったのが残念なんですけど(笑)。森田先生はしっかり取材をされる方なので、自分の経験値を上げてくれる方でもあったなと思いますね。

ヤングジャンプコミックス 全20巻

最後に、出版業界や集英社を目指す就活生にメッセージをお願いします。

大熊

歩んできた道筋にはその人だけのオンリーワンの価値があるので、その道に自信を持って、着飾ることなく、伝えてほしいなと思いますね。自分が編集をやってきて感じたのは、自分の“面白い”を信じ続けた作家さんの筆には説得力が宿るということ。だから、皆さんもこれまでの人生に自信を持って、表現していただければと思います。

中路

「自分がやってきたこと、好きなこと、これからやりたいことを自分の言葉で話してほしい」と思います。就活モードではなく、熱を持って伝えてもらえたら、こちらにもその人の魅力が伝わってくるので。いま、マンガ業界は活況でエキサイティングです。媒体も枠も増え、世に出せる作品が増えていますし、これから編集を志す人たちは、いろんな経験ができて楽しいだろうなと。少しでも興味があれば、そこに飛び込まないのはもったいない。かつての自分のようにどうせ無理……と思わず、多くの方に集英社を受けてほしいです!

SPECIAL