SPECIAL CONTENTS
#5

販売部門は、集英社から刊行される出版物を全国の書店に届けるフロン
トセクション。「出版営業」ならではの醍醐味と日々の業務について、若手
スタッフから聞きました。

コミック販売部コミック販売第2課

五十嵐 拓嵩 (いがらし・ひろたか) HIROTAKA IGARASHI

2018年入社。書籍販売部を経て、コミック販売部へ。現在の担当業務は「別冊マーガレット」「ウルトラジャンプ」の本誌&コミックス、「マンガMee」のコミックス、書店向けフェアの企画・運営など。趣味は、草野球や書店巡り、アニメ、ゲームetc...

書籍販売部書籍販売第1課

吉田 柚衣 (よしだ・ゆい) YUI YOSHIDA

2020年入社。現在の担当レーベルは、集英社文庫、集英社オレンジ文庫。休日は友人に会ったり、たっぷり寝たり……とのんびり過ごしています。抹茶スイーツを食べることやボードゲームが趣味です。

雑誌販売部雑誌販売課

小尾 拓馬 (おび・たくま) TAKUMA OBI

2020年入社。現在の担当誌は「週刊プレイボーイ」「non-no」「MORE」「MEN'S NON-NO」「すばる」「Seventeen」「Duet」。休みの日は、会社チームでのサッカーやジム通い、海外サッカー観戦、ラーメン店巡りなどをして過ごしています。

集英社の紙媒体を扱う販売部門は「雑誌・書籍・コミック」と3つにわかれています。それぞれ、日常的にはどんな業務をしていますか?

小尾:

雑誌販売部は、「non-no」や「週刊プレイボーイ」「すばる」など女性誌・取材誌・文芸誌を扱っています。雑誌は特集やコンテンツによって、欲しいと思う人や売れる地域、売れる量が異なりますから、適切な部数を適切な書店さんにお届けするのが私たちのおもな仕事です。朝、出勤したらまずPOS(※1)の実績データを調べます。13時にもデータが更新されるのでチェックしつつ、発売3日目、7日目にわけて自分が担当している雑誌の売上をとりまとめ、編集部に報告します。次号以降の部決(※2)のため、他誌・競合誌の調査も行ないます。 ※1:POS(Point of Sale)販売時点情報管理…全国の書店から、どんな本がどんなお客様に売れたのか、レジを通して収集されたデータが1日2回集計され、出版社まで届く。 ※2:部決(部数決定)…本は、各部門が集まって発行部数と価格を決定する。適正な数量と値付けが利益の要。

五十嵐:

コミック販売部では、2023年の組織改編によって、ひとりの販売担当が「コミック雑誌」と連載作の「コミックス」の両方を担当することになりました。コミックスはレーベルごとに発売日が決まっているので、日々のルーティンというよりは、月の初旬は部数決定のための資料づくり、中旬は売れ行きの調査……という具合に業務内容が変化していきます。業務範囲が多岐にわたり、コロナ禍以降在宅勤務も増えたので、コミック販売部では情報交換もかねて、午前中に15分程度のオンライン朝会をしています。それぞれが抱えている課題や悩みを相談できますし、僕はミーティング中に「今日1日でやるべきこと」を整理するのが日課になっています。

吉田:

書籍販売部は、小説やノンフィクション、児童書などの単行本や文庫を担当します。新刊の部数決定や配本先の管理がおもな業務ですが、書籍は雑誌とちがって長く売れるものなので、「既刊の売り伸ばし(※3)」も大きなミッションのひとつです。集英社文庫では、「ナツイチ」というフェアで新旧の名作をラインナップし、宣伝部や編集部と相談しながら宣伝物や購入特典をつくったりします。今年は「ナツイチ」も好調で、新刊だけではなく、ロングセラー作品の掘り起こしにも成功しているように思います。 ※3:売り伸ばし…企画やプロモーションにより、刊行からしばらく経った本に注目を集め、実売につなげること。

学生時代に「販売部」の業務は理解されていましたか?

五十嵐:

僕はあまりピンと来ていなかったかもしれません(笑)。就職活動の本を見ても、出版社って編集しか説明されないことが多いので……配属されてみて「おお! こんな感じか」と。

吉田:

私は営業部門志望だったので、やりたかったことができているなと感じています。

小尾:

仕事をしてはじめてわかったことですが、販売は社内で最も読者に近い部門ですね。売上を立てるうえでの最前線というか……川の流れにたとえると、つぎつぎにつくられる本をどれだけ「読者」という大きな海につなげられるのか考える部門なんじゃないでしょうか。

販売部ならではの業務、「発行部数と価格の決定」について教えてください。

五十嵐:

雑誌やコミックスは、発売から結果が出るまでのスパンが短い商品です。3日目のPOSによって、残酷なほど総売上が見えてしまいます。予測以上に売れると重版になり、忙しいながらもうれしいのですが、自分の思っていたように売れないと非常に悲しいです。とはいえすぐに新刊が発売されるので、結果を踏まえながらも、気持ちを切り替えて今後の予測を立てていきます。

吉田:

書籍でも初速は重要ですが、長く売れ伸びる比率が高いので、何十年も前の作品を重版することもあります。自分が読んで面白いなと感じ「売りたいな」と思った作品がちゃんと売れてくれるととてもうれしいです。

小尾:

雑誌は、特集によって売れる層も売れる数も異なるので、株のトレーダーのように数字を読んでいます。定価を高くしすぎると売れないですし、安くしすぎると利益は出ない。とくに特集号やムックでは、薄利多売の商品なのか、少し価格が張っても価値を見出してもらえる商品なのか見極める必要があります。

職場の雰囲気は?

吉田:

書籍、雑誌、コミックで部はわかれていますが、同じフロアに全員います。書籍はその中でも比較的真面目というか……落ち着いた方が多いかも。

五十嵐:

コミックは何でしょう……同じ船に乗るクルーみたいです。特定の作品になぞらえている訳ではないのですが(笑)、「売る」という目的に向かってそれぞれが自主性をもって自由に働いているように思います。あと、コミックに限らず販売部は全体的に年齢層が若めです。嵐が来ることもありますが、皆で力を合わせて乗り越えています。

小尾:

雑誌販売部は現場に3人しかいないので、僕は2020年の6月に配属されてすぐ部決会議に出席していました。編集長から「もっと部数増やしてよ!」と言われても、数字的に見込めない場面では、きちんと意見を述べるのが販売部の仕事です。僕も緊張しながら自分の考えをお話ししていましたね。逆に、「Duet」という雑誌の創刊以来はじめての重版を決めたのもその時期でした。そもそも雑誌で重版をかけるのはイレギュラーなことなのですが、何も知らなかったから「販売って重版をするのが仕事だよな」と(笑)。

五十嵐:

いきなり編集長クラスと仕事をするのは驚くよね。他の部門だとその時期、まだ見習いだったりするもんね。

小尾:

あと、配属されたとき「こんなに本がつくられているんだ!」という事実に驚愕しました。書籍・雑誌・コミックを合わせると、月に100点以上ありますからね。

五十嵐:

販売部は書店と向き合う部門で、「売れる瞬間」に立ち会える……それこそ『ONE PIECE』なら尾田先生や担当編集よりも先に実際の売れ行きや反応が聞けて、重版をかける決定権も持っています。その分、責任は重大です。

小尾:

一方で、いろいろな現場に携われるのも魅力のひとつです。僕、入社する前はファッションにまったく興味がなかったんですが、「この時期はブーツだ!」とか言えるようになりました (笑)。ムックの立ち上げ時には、企画会議や制作部門との会議にも同席して、仕組(仕様)を決めることもあります。そこから部数と価格を決め、きっちり利益を確定させるまでつき合えるのも、販売部門ならではの醍醐味かなと思います。

最近担当した、印象的な仕事について教えてください。

吉田:

私は文庫担当なので、群ようこさんの『姉の結婚』という小説にかけた、特別な帯(写真右)を持ってきました。

帯というよりも、カバーのように見えますね。

吉田:

カバーよりほんの少し天地が短いんです。基本的に通常の帯(左側のカバーの上にかかっているもの)は編集部主体で制作するのですが、時々こうして販売部主導で仕掛けることがあります。この帯では、自分でキャッチコピーを考えてPOPなどの拡材(※4)もつくりました。書店にもこの仕掛けをPRし、注文を取ってもらって……。『姉の結婚』は初版が1995年の作品ですが、売り伸ばしに貢献できた仕事だったかなと思います。 ※4:拡材…「拡張材料」または「拡大販売材料」の略。商品の販売促進を図るために作成するポスターやのぼり、POPなどのこと。

こうした掘り起こし施策の対象作品は、どのように選ぶのでしょうか?

吉田:

POSデータの動きはもちろん、書店の方の声や営業担当、部内のスタッフ、編集部と相談して決めます。電子書店のランキングが急に変動したことがきっかけ、ということもあります。調べてみると、著名人がSNSやテレビで紹介してくださっていた、なんてことも……。

様々な発端があるのですね。それでは小尾さんいかがでしょうか?

小尾:

僕は「週プレPREMIUM 2023上半期グラビア傑作選」の翻訳版です。
「雑誌」は、書籍に比べると定期的に購入する方が多い媒体です。だからこそ、売り伸ばしていくためにはいままで買っていない人にアピールする必要があります。この「傑作選」は週刊プレイボーイ編集部が半年に1回制作していて、部数はだいたい10万部ぐらい。グラビアファンの間では人気のコンテンツです。編集部がイベントなどでYouTubeを活用する機会が増えたので、週プレチャンネルの登録者を調べてみたら、半分以上が外国の方だということがわかりました。ちょうどこの夏は入国規制緩和でインバウンドが盛りあがるという予測だったので、これまで「週プレ」を購入していないであろう海外の方に「傑作選」を売ってみたいと考えました。
まず、韓国語と中国語と英語に翻訳した見本誌と販売台を作成し、売れそうな立地の書店さんに置いてもらいました。僕は「海外の人に本を売りたい」という気持ちで集英社に入社したこともあったので、チャレンジできてうれしかったです。

感触はいかがですか?

小尾:

京都や銀座、空港など外国人の方が集まる場所では売れ、そうでないところでは売れませんでした。意外だったのが、江戸川区の葛西周辺で売れたこと。この地域は、インド系のコミュニティがあるんですよね。「普段買っていなかった方が買っていかれました」と書店さんから教えていただきました。

五十嵐:

僕は、「ナツコミ」という夏のコミックスフェアを今年担当しました。専用の拡材や購入者に配布する特典を制作し、書店にお送りするのですが、参加書店数は4000店にのぼり「業界最大級のフェア」と言われています。今年の購入特典ステッカーは、見た目は二つ折りの雑誌風リーフレットですが、中面は描き下ろしイラストを使用したステッカーになっている、という仕掛けです。『呪術廻戦』『僕のヒーローアカデミア』『SPY×FAMILY』『【推しの子】』など、人気作が目白押しで、社内でも欲しがる人が続出しました(笑)。

   

「ナツコミ」期間中は、書店さんの「フォトコンテスト」も実施します。独自に飾り付けた売り場を、書店さんから応募していただき、Web上で公開。読者の皆さんにイイネをつけてもらうことで、書店さんを応援してもらおう、という企画です。
気合いの入った売り場を見ると、自社の作品・商品がこんなにも愛されているんだなと実感できます。夜ひとりで仕事しながら「あぁ~~うれしい」と嚙みしめることも(笑)。

とても凝った売り場が多いですね。

五十嵐:

全部手描きでつくり上げてくださった応募作もあり、毎年バラエティ豊かな売り場写真をお寄せいただいています。こうした売り場づくりのおかげでお客様の目にとまり、新しいファンが生まれることも多いので、書店員さんには頭があがりません。だからこそ「書店は楽しいよ、書店員さんはすごいよ」ということをこうした企画を通して読者に届けられればよいと思います。

販売部の皆さんから見た、リアル書店の魅力を教えてください。

吉田:

やはり、自分が推したいと思っていた作品に書店員さんが手描きPOPをつくってくださっているのを見るとうれしいものです。また、発売前の作品のゲラをお送りして、お話を伺うこともあります。書店員さんはその道のプロなので、率直な感想をいただけるのがありがたいです。編集担当もうれしいと思いますが、私たち販売担当も喜んでいます。

小尾:

書店は、それぞれ個性があって売れる商品も客層も異なります。当然、売れ行きや書店員さんから得られる情報も異なるので、とても勉強になります。書店員さんからの声をうまく聞き取って、売りやすい商品を生み出すのも自分たちの仕事のひとつであるはずです。リアル書店でないと売れないタイプの本もありますからね。

「これから挑戦してみたいこと」はありますか?

吉田:

私はまだまだいまの仕事を打ち返すので精一杯の部分はありますが、プラスアルファの要素として、業務の効率化や連携についても考えていけるようになりたいと思っています。

五十嵐:

知見を共有することで、更なる一歩が踏み出せるような気がします。いままで、様々な販売施策をやってきていますが、キチンとした効果測定の記録が残せていないんですよね。結果、打合せの精度が低くなっている気がするので……。とくに、実施した企画と紐づけた売上データをリアルタイムで編集部や宣伝部と連携できるようになると、フェア企画などの精度もあがっていくんじゃないかと思います。あと、僕が担当している「ナツコミ」に関しても、以前はもっと多くの書店さんに参加していただいていたのですが、リアル書店が減っている現状もあり……「書店で本を買う」という行動自体のハードルが高くなっているんですよね。書店さんもブックカフェなどで空間や体験を売る方向にシフトしていますが、僕たち出版社側も、店頭で本を買うことにこれまで以上の価値を感じてもらえるように、いろいろな分野のトレンドを追いかけながら取り組んでいきたいです。

小尾:

雑誌も「定期的に買った経験がない」人が増えてきています。そんな若者が、雑誌を手に取ってくれるような機会を生み出したいです。高校、大学に入るころに雑誌の面白さに気づいてもらえれば、そこから50年以上楽しんでもらえる可能性がありますから。「知っている人にだけに売る」のではなく、新しく裾野をひろげる仕事がしたいですね。

最後に、就活生の皆さんにひと言ずつお願いします。

吉田:

本が好き、という理由で出版社を目指す方が多いと思うのですが、販売は好きなものをより世の中にひろげていける部門なので、本好きにはお勧めしたいです。

五十嵐:

確かに。編集者で自分が関わった本を年に何十冊も出す人って、ほとんどいないと思うんです。コミック販売では新刊だけで年に200タイトル前後、既刊も含むと1,000点以上担当することになるので、好きなものが多ければ多いほど販売の仕事は楽しいかもしれないですね。

小尾:

「自分の好きなものを売れる」って、すごく楽しいことですよね。営業職は本来、自分が興味ないものでも売らなきゃいけない仕事ですけれど、本は読めば理解できるし、好きになれる。そして、いろんな人に刺さる。日本だけの市場と考えても、1億人がターゲットの仕事ってなかなかないと思いますよ! ぜひ販売部門も視野にいれていただけるとうれしいです。

本日はありがとうございました。