2022.03.15

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集英社刊 2021年度文学賞受賞作品紹介

 

2021年度も、集英社は良質な文芸作品を数多く刊行してきました。幅広い方が楽しめるエンタテインメント作品から気鋭の作家の意欲作、中堅やベテランの力作などさまざまですが、今回は栄えある文学賞を受賞した作品の中から5作を、担当編集のコメント共にご紹介します。

第6回 渡辺淳一文学賞
『透明な夜の香り』 千早茜

透明な夜の香り

2020年4月3日発売
1,650円(10%税込)

【担当編集コメント】

ほんのり暗い森の中にたたずむ古い洋館。その洋館では、天才調香師の小川朔が、オーダーメイドで客の望む「香り」を作っている。人並みはずれた嗅覚を持つ朔のもとには、さまざまな依頼が届く。幼女の香りを作ってほしい、亡き妻の髪の匂いを再現してほしい、漫画のキャラクターの体臭を創造してほしい、など。そこにはあらゆる欲望が渦巻いていた。元・書店員の若宮一香はそんな朔のもとで働き始める。そして、彼の天才であるがゆえの「孤独」に気づき――。
 「香り」をフィーチャーしたこの作品は、ページをめくるたび、読者を不思議な香りの世界へと誘ってくれる。香りに敏感で繊細な感覚を持つ千早茜さんだからこそ描けるこの神秘的な嗅覚の世界。嘘の匂いまでも嗅ぎ取るという朔とともに、香りの深淵を覗いてみてほしい。新たな知覚の扉が開くかもしれない。
 「小説すばる」で連載中の『赤い月の香り』は『透明な夜の香り』の続編。一香の後に働き始めた満が、朔とかかわることで自らに巣くう大きな闇と向きあうストーリーで、さらに研ぎ澄まされた香りの世界が繰り広げられている。あわせて読んでみていただきたい。

詳しくはこちら
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-771703-7

第55回 吉川英治文学賞
『風よ あらしよ』村山由佳

風よあらしよ

2020年9月25日発売
2,200円(10%税込)

【担当編集コメント】

「村山さんに、伊藤野枝を描いていただきたいんです」
「小説すばる」の担当者と共にご相談にあがったのは、2016年のこと。今考えると、登っていただく山の高さも道の険しさも何一つ分かっていないからこその無鉄砲なご提案でした。けれども、一作一作、道を切り拓かれている村山さんと、28年間の短くも鮮烈な生涯を駆け抜けた「わきまえない女」野枝が放つエネルギーはどこか呼応するように思えて仕方なかったのです。
思いつきのままにご提案してしまったものの、初めて過去の時代を舞台とし、初めて実在の人物を描き出す――その挑戦のため、村山さんが目を通してくださった資料は途方もない数になりましたし、そこから物語を立ち上げていくために、さらに大変な労力を重ねてくださいました。
長い準備期間を経て、ついに第1回の連載原稿を拝読したときの興奮は忘れられません。今から100年前、関東大震災発生直後の野枝やパートナーの大杉栄が、その息遣いや汗の匂いまで感じられる姿で立ち上がってきたからです。
100年前の日本で、命の限り、自由のために闘い抜いた一人の女性がいたこと。どうか、あなたの目にも焼き付けてください。

詳しくはこちら
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-771722-8

第9回 河合隼雄物語賞
『水を縫う』 寺地はるな

水を縫う

2020年5月26日発売
1,760円(10%税込)

【担当編集コメント】

本書の編集作業が佳境だったのは2020年の春。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて書店さんの休業が相次ぎ、この先どうなってしまうのだろうと不安でいっぱいの時期でした。けれども、『水を縫う』のゲラに向き合っていると、不思議と気持ちが落ち着いたのを覚えています。それはきっと、この物語が地に足の着いた成長小説であることと無関係ではないと思います。
主人公の一人、刺繍が好きな高校生の清澄は、そのことをからかわれて以来、クラスで浮いた存在になっています。だからといって、自分の「好き」を曲げることなく、クラスメイトの「好き」も否定することなく、姉のウエディングドレス作りに失敗したら立ち止まり、間違ったらやり直し、自分にできる最善を尽くす……。そうやって一歩一歩、進んでいく清澄の清々しさが胸を打ちます。
いま『水を縫う』は大きく版を重ね、清澄世代の読者はもちろんのこと、お母さんのさつ子さんやおばあさんの文枝さん世代の読者にも愛読される物語となりました。刊行時期は偶然ですが、コロナ禍が続くなかで多くの読者の方々に届いていることは、決して偶然ではないと思っています。

詳しくはこちら
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-771712-9

第34回 柴田錬三郎賞
『類』朝井まかて

類

2020年8月26日発売
2,090円(10%税込)

【担当編集コメント】

『舞姫』『山椒大夫』『阿部一族』……今なお読み継がれる名作の数々を生み出した明治の文豪・森鷗外。その末子として明治44年に誕生した森類(るい)をご存知でしょうか?
優しい父と美しい母志げ、姉の茉莉、杏奴とともに千駄木の大きな屋敷で何不自由なく暮らす少年時代でしたが、父の死後、生活は一変。大きな喪失を抱えながら自らの道を模索する類は、姉の杏奴とともに画業を志しパリへ遊学します。
帰国後、画家・安宅安五郎の娘・美穂と結婚。しかし、画業では芽が出ず、戦争によって財産が失われ困窮した彼は、心機一転を図り東京・千駄木で書店を開業します。多忙な日々のなか、身を削り挑んだ文筆の道で才能を認められていきますが……。
特別な父を持ち、特別な家で育ち、けれども苦闘の果てに「何者にもなれなかった」人生。類さんは果たして不幸だったのでしょうか? それとも幸福だったのでしょうか? その答えは、ぜひ本書でお確かめください。
なお、今作の装画は森類さんが描かれた作品を使わせていただきました。緑が薫る美しいタッチにもご注目ください。

詳しくはこちら
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-771721-1

第166回 直木三十五賞
『塞王の楯』今村翔吾

塞王の楯 

2020年10月26日発売
2,200円(10%税込)

【担当編集コメント】

「絶対に破られない石垣」と「絶対に打ち破る鉄砲」がぶつかれば、一体どちらが勝つのか――。『塞王の楯』は近江・大津城を舞台に、職人同士の対決を描いたエンタメ戦国小説です。
主人公の石垣職人・匡介は、幼い頃に落城を経験し、そのとき家族を失いました。そこで「最強の楯」となる石垣を作れば、戦をなくせると考えています。
一方、宿敵である鉄砲職人の彦九郎もまた、戦で父を亡くしています。彼は「至高の矛」となる鉄砲を作り、それで一度だけ大量に人を殺せば、戦をしようと思う人はいなくなると考えているのです。
目的は同じなのに真逆の手段を選んだ二人の対決、というところが切なくも熱いです。
本作のすごいところは「どうしたら戦争をなくせるのか」という重厚なテーマでありながら、物語はエンタメそのもので、手に汗を握りながら一気に読めるところです。石垣を使って攻めたり、かつてない形状の石垣で敵の行方を阻んだりなど、驚くようなギミックの連発! 胸が熱くなる傑作です。

詳しくはこちら
https://lp.shueisha.co.jp/tatexhoko/

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