2023.02.15

シェア

3年ぶりに開催「第42回 全国高校生読書体験記コンクール」表彰式

“感想文”ではなく“体験記”である意味

2023年1月30日、「公益財団法人 一ツ橋文芸教育振興会」が主催する「全国高校生読書体験記コンクール」の表彰式が行われました。全国424校から7万6163編の応募があり、中央入賞に輝いたのは8名。全国から受賞者たちが駆けつけ、喜びを分かち合いました。

栄えある壇上での記念写真

栄えある壇上での記念写真

集英社は創業以来、若い世代をターゲットにした娯楽や漫画、エンタテインメントの書籍を多く手がけてきた歴史があります。創業50周年の1976年設立「一ツ橋文芸教育振興会」も、対象を高校生に絞り、「高校生のための文化講演会」と「全国高校生読書体験記コンクール」を主催してきました。

今回の入賞者発表冊子

今回の入賞者発表冊子

集英社代表取締役社長、一ツ橋文芸教育振興会理事長の廣野眞一は、表彰式で「このコンクールは高校生が読書体験を綴ることで自分の人生と書物との関わりを改めて見直し、本と向き合う時間の喜びや、自由に書く楽しさを発見していただくものです」と挨拶。

単なる“感想文”ではなく、読書をすることで受ける自分の内面や生活への影響、読後に起きたさまざまな変化を、自ら見つめ直し綴ってもらう“体験記”であることが、このコンクールの最大の特徴なのです。

選考委員には、辻原登さん(作家)、穂村弘さん(歌人)、角田光代さん(作家)らが名を連ね、言葉の奥深さを丁寧に掬う実作者ならではの視点を通して、集英社が主催する「すばる文学賞」や「小説すばる新人賞」「柴田錬三郎賞」などの文学賞と同様に選考会で討議されています。

図鑑、俳句、小説など幅広いジャンルが対象

対象とする本は文学作品に限らず幅広く、今年の入選作品のテーマも、図鑑、俳句、小説、ノンフィクション、ドラマのノベライズなど、バラエティ豊か。文部科学大臣賞を受賞した恒川凛太朗さん(三重県 鈴鹿工業高等専門学校)は、『図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか? 生きものの“同定”でつまずく理由を考えてみる』(須黒達巳 ベレ出版)をチョイスし、シダ植物に注目したことで、普段見慣れている景色が一変したことをみずみずしい筆致で綴っています。

恒川さんは「鳥類の図鑑を読み、鳥が常に人間で言う“つま先立ち”の状態であることを初めて知った」と、ユニークな視点で受賞の喜びを語りました。表彰式の答辞では、

「知ることこそが人生の醍醐味だなんて感性は、ごく一部の人が持つものだと思っていました。しかし、シダ植物を探したり、鳥がつま先立ちで歩くことを意識したりした自分は、知ることを楽しんでいたと言えるでしょう。知ることの喜びは、知ることによって加速していくのかもしれません。
私がシダ植物に興味を持ったのは、『図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか?』を書店で見かけたのがきっかけでした。もしもあの日あの書店にこの本がなければ、シダ植物に興味を持つこともなく、今ここにいることもなかったと思います。読書とは、そんな偶然の出会いの試行回数を増やせる強力な手段であると今は感じています。自分ひとりで生きているだけでは視えてこなかったものが視えるようになる、そのきっかけに本はなりえます。これも読書の大きな魅力のひとつなんだろうと思います」と述べました。

※答辞全文 http://www.hitotsubashi-bks.jp/contents/news/230210.html

原稿用紙5枚から感じる、言葉の持つ力の大きさ

コロナ禍による2年連続の中止を経て、表彰式は3年ぶりの開催。選考委員を代表して角田光代さんは、入賞した高校生たちを前にこんなエールを送りました。

講評を述べる角田光代さん

講評を述べる角田光代さん

「もう3年もパンデミックが続いていて、若い学生の方々は学校行事も制限されています。大人は『かわいそうだ』と言うと思いますし、私もずっとそう思っています。ただ、こうしてみなさんの体験記を読むと、こういう中でしかできない読書、こういう中でしかできない体験を、みなさんがたくましく、楽しんでやっているんじゃないかなと思いました。かわいそうなんて思うことはないと反省しました。高校生活の中でなされた読書体験は、今後みなさんの支えになっていくことと思います」

過去の入賞作の中には、親からの虐待を物語を通じて相対化した体験を綴ったものや、家族全員が聾者の家庭で育ち、健聴者のことを普通ではないと思っていた高校生による、「障害者」という言葉への問題提起など、読む人の心を揺るがす作品も。文字数はわずか、原稿用紙5枚。「全国高校生読書体験記コンクール」は、私たちに、改めて言葉の持つ力の大きさを示してくれる貴重な機会にもなっています。

本と向き合うパーソナルな時間は、自分の世界を広げ、好奇心や学ぶ喜びを高めてくれるきっかけを与えてくれるはずです。これからも高校生たちと良き本との出会いがたくさんあることを願っています。

記念写真は明るい表情で。おめでとうございます!

記念写真は明るい表情で。おめでとうございます!

 

 

写真撮影/相馬徳之

一覧に戻る