2021.05.21

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マンガ文化を後世に残すプロジェクト 「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」

10年以上蓄積したマンガのデジタルアーカイブを生かす

「マンガを、受け継がれていくべきアートに」というビジョンのもと、2021年3月1日にスタートした新事業「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE(集英社マンガアートヘリテージ)」。最良の印刷技術とマテリアルでマンガ原画を再構築した「マンガアート」をエディション化し販売することができたのは、10年以上にわたるマンガデータのアーカイブ資産が存在したからでした。

集英社では2007年より、マンガ本文の印刷用データと、カラー原画の高解像度データをアーカイブする「Comics Digital Archives(CDA)」を運用しています。海外での出版や、当時増えつつあったフィーチャーフォンでの配信に対応するためにも、コミックスの製版データや、原画データを保管し、適切に運用する必要があったからです。

そうしてアーカイブを進めていくうち、マンガ作品が持つ絵画としての可能性の大きさに気づくことになります。アーカイブされた画像データには、紙に描かれたものも、デジタルで作画されたものもありますが、読者が手にする雑誌やコミックの印刷では伝わりきらない密度や魅力を持つものが多く含まれていました。

10数年にわたるデジタルアーカイブを生かしながら、マンガの新しい可能性を引き出し、「アート」としての価値を持たせるプロジェクトとして立ち上がったのが、「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」でした。

 

 

受け継がれていくべきアートとして成立させるための技術開発
[FINE ART PRINTING QUALITY]

マンガを「受け継がれていくべきアート」として成立させるためには、どうしたらいいのだろうか──。まず掲げたのは「FINE ART PRINTING QUALITY」というコンセプトです。

アート作品には、色彩やディテールの再現性はもちろんのこと、長年にわたる鑑賞に耐える保存性が必要です。キャラクターの体温やマンガの世界での空気を感じられるような色彩とディテール…。それらを永続性のある形に定着させる。これまでの出版印刷では使ったことがない様々な紙や印刷技術を試し、誕生したのが「REAL COLOR COLLECTION」シリーズと「THE PRESS」シリーズです。

例えば1970年代に描かれた『ベルサイユのばら』のような作品は、紙の劣化や退色が進みはじめていますが、高解像度デジタルカメラを使って取り込んだ原画を、描かれた当時の資料をもとにデジタルレタッチし、作画当時の状態への復原を行なっています。
また『ONE PIECE』を含む作品のカラー原画は、染料系のカラーインクで描かれていることが多いのですが、このインクは紫外線に非常に弱く、退色が進みやすい特性を持っています。よりよい状態の時に撮影されたデータをもとに、こちらも適切なデジタルレタッチを行なっています。
一方『イノサン』はデジタル作画による作品ですが、これは出版印刷より広い色域を持つデータで、作家本人による再調整が行われることになりました。
こうして仕上げられたデータを、美術館収蔵作品にも用いられるコットン100%のファインアート紙「Velvet Fine Art Paper」に耐光性インクでプリントしたのが「REAL COLOR COLLECTION」シリーズです。“リアルな色の表現”と“長期収蔵にも耐えうる品質”を両立させました。

(左)エプソンスクエア丸の内 エプサイトギャラリーでの坂本眞一「イノサン」展風景
(右)坂本眞一「イノサン」Real Color Collectionより

紙に描かれた『ONE PIECE』や『ベルサイユのばら』は、原画原寸と拡大プリントをセットにして販売。原画原寸ではその緻密さを、拡大プリントではその迫力を味わっていただけるようになっています。またデジタル作画作品では、描きはじめのドローイングをセットにするなど、描いた履歴が残るデジタルならではの展開を行なっています。

一方、マンガ表現が発展する歴史のうえで欠かせない活版印刷という技術に敬意を払い、印刷機や印刷技術とともに後世に残していきたいという思いで取り組んだのが「THE PRESS」シリーズです。現在では希少となっている大型の活版平台印刷機(1960年代製ハイデルベルグ活版平台印刷機)を用い、コットン100%のアート紙「グムンドコットン マックスホワイト」に強い印圧でプレスした同シリーズでは、リトグラフやシルクスクリーンといったほかの印刷手法では表現できない独特な風合いを実現。物理的にもインパクトのある作品となりました。

作品が持つ空気感までを伝える印刷、経年変化が少ないと言われるマテリアルのセレクト、原画のポテンシャルをさらに引き出す拡大プリント、残していくべきと信じる印刷技術とのコラボレーション──これらを実現することで、マンガを「マンガアート」に昇華できたのです。

「The Press」活版平台印刷風景。協力:蔦友印刷株式会社 共同印刷グループ

世界のアート市場へ参入するためにも必要な作品の来歴情報
[ART BLOCKCHAIN NETWORK GUARANTEED]

世界のアート市場で認められるためには、品質はもちろんですが、「エディションがきちんと管理されていること」と「来歴が追えること」も必要です。

そこで「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」では、スタートバーン株式会社のブロックチェーン証明書発行サービス「Startbahn Cert.」を採用。正規品であることの証明や来歴を追うことを可能にしました。来歴情報を永続的に記録することは、作品の価値を次の世代へと引き継ぐためにも非常に重要であると考えています。

第一弾は尾田栄一郎『ONE PIECE』、池田理代子『ベルサイユのばら』、坂本眞一『イノサン』の3作品を扱っていますが、これから様々な作品を発表していく予定です。

貴重な原画を次世代に継承するための連携
[WITH NATIONAL MANGA ARCHIVES]

紙の原画を次世代に残すためには、どのように整理し、保存、運用していくのかも非常に大きな課題です。未整理のままの原画がダンボールに入れられ、作家の事務所や自宅に置かれていることも多いと考えられますが、美術館や博物館の方々とお話をすると、「中に何が入っているか分からない状態では、寄託や寄贈の相談も受けにくい」とのこと。

そういった状況を変えていくために、集英社は紙の原画の保存について、文化庁連携事業であるマンガ原画アーカイブセンターや学術機関・美術館とも連携し、その成果を報告・共有していくことにしました。

現在進めている研究では、原画の劣化を防ぐために、原画を1見開きずつ特注のクリアファイルに入れ、劣化をひきおこしにくい封筒や箱に入れる作業をおこなっています。トレーシングペーパーが貼られている場合には、はがして別にファイリングします。“原画保存キット”のようなツールが開発できれば、そのノウハウを漫画家や他の出版社、美術館などに共有することで、原画の整理が進み、その結果として適切な保存が進むのではないかと考えています。

 

マンガをアートにするための技術開発、アートとしての価値を保証するブロックチェーン証明書、マンガ文化を次世代に引き継ぐための美術館や学術機関との連携。これら3つのコンセプトを軸として“マンガを受け継がれていくべきアートにしたい”──集英社では、そのための活動を今後も続けていきます。

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