書誌情報

ダッシュエックス文庫

貴方がわたしを好きになる自信はありませんが、わたしが貴方を好きになる自信はあります

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著者

著者:鈴木 大輔イラスト:タイキ

あらすじ・概要

反響続々! 吸血鬼をめぐる[年の差]×[異種族]ラブストーリー!
仮に、世の中の人間をふたつの種類に分けるとしたら。
あなたなら何と何に分けますか?

「吸血鬼とそれ以外、だな」
「いいえ。運命の人に出会えるか出会えないか、です」

ようこそこの本を手に取ったあなた。この物語はわたしが好きな男性とひたすらいちゃいちゃするだけの話です。そういう話が嫌いな人はそっとページを閉じてください。残念ながらお呼びじゃありませんので。
……いいですか?
……いいですね?
では本題に戻ります。この物語の主な語り手はわたしじゃなくて、わたしの好きな人です。彼はとてもシャイなので、わたしの解釈とはまるで違った物語をつづるかもしれません。ですが心してください。この物語はあくまでもわたしと彼がいちゃいちゃするだけの話。途中でどんな回り道をしようと、どんな危機的展開になろうと、必ず最後にはハッピーエンドにたどり着きます。それをここでお約束しましょう。
ではどうぞ選ばれたあなた。安心してページをめくってください。めくるめく愛の物語がこの先に待っています。

引き金を引いた。
命中。さらに発砲。命中。
すでに重いダメージを食らっていたそいつの身体が瞬きする間に飛び散っていく。腕がもげ、脚が吹っ飛び、内臓をぶちまけ、ついには首から上だけが路地裏に転がり、そこでようやく俺は発砲を止める。
生首の視線がこちらに向く。
瞳をしっかと見開き、だらしなく剥き出した舌を垂らし、水槽から飛び出した金魚みたいに口を開け閉めしている。肺と声帯がまだ繋がっていれば、さぞかし恨みがましい遺言を聞かされていただろう。
「そんな目で見るな」
生首を拾いあげて俺は顔をしかめる。
「今日はたまたま俺が生き延びた。明日は我が身だよ」
首から上が残っていれば公安のデータベースに照合できる。つまり、今や生首だけになったこいつが吸血鬼だと証明するには十分。事後の処理は別の業者が担当する。俺の仕事はここまでだ。
自己紹介が遅れた。
俺は神谷誠一郎。二十八歳。職業はバーテン。池袋の横丁でバーを経営している。趣味はアンティーク時計の収集と修理。カウンター席が六つしかない店の稼ぎは雀の涙だが、ぼちぼち食えていける程度にはやっている。
そんな俺がこれから語るのは、とある奇妙な物語だ。
20XX年の冬に始まった、残念ながら現在進行形で、しかもどうやら世界の命運が掛かっているらしい、壮大なくせにちっぽけな物語。こいつが果たして悪夢で終わるか、語り継がれる英雄譚となるか。それは各々で確かめてもらうとしよう。
……否。
ここは素直に白状する。正直言えば俺にもよくわからないんだ。俺は、俺の身の上に降りかかっているこの物語を、どう扱っていいものか途方に暮れていて、だからこうして誰かに語ろうとしている。
物語は、俺がひょんな成り行きから、とある家出少女を拾ったところから始まる。