西 『ワーカーズ・ダイジェスト』、めっちゃ面白かったです。私は、津村作品の魅力は「おもろい、かっこいい、シャイ」の三つが柱で、その土台にあるのが「優しさ」だと思っています。この『ワーカーズ…』も、まさにその三本柱の魅力が発揮されている作品だと思う。津村さんの作品はリアルタイムで全部読んでいるんですが、最初に読んだのが『君は永遠にそいつらより若い』で、この主人公の静かに怒ってる感じとか、ほんまかっこええなと思いました。それだけじゃなく、抑え目の笑いのセンスとか、身体的に身についている面白さが小説に滲み出ている感じがして、すごいファンになったんです。そしたら、あるトークショーでお会いするチャンスがあって……。

津村 2009年の7月ですね。

西 お会いしたら、作品と作者がまさに一致した。おもろくて、かっこよくて、めっちゃシャイな人やなと思って。私、シャイな人好きなんですよ。何か人間として信用できるような気がして。

津村 いやいや、私はほんまはすごい腹黒い人間やし。

西 『ワーカーズ…』は、働きながら生きるというテーマの集大成やなと思いました。別に特別な事件が起きるわけでもないし、そんなに特徴的な人物が出てくるわけでもない。言ってみれば、名もなき人たちで、のっぺらぼうになりがちな登場人物ばかりなんですね。そこを津村さんは、「ボケ、ちゃんと名前あんねん、顔あんねん、私はそれを見ているぞ」という優しいまなざしで一貫して書いている。その見てくれている感じに、私はもう泣けてきて。今もちょっと泣きそうなんですが、すみません、私ばかり興奮して喋っちゃって。

津村 どうもありがとうございます。とりあえず私がずっと書きたかった働く人の話はこれです、三二歳くらいの働いてる人って、こんなに疲れていて、すごいいろんな脅威にさらされています、ということを書きたかった。

西 その一つ一つの小さい場面のディテールが、めっちゃわかるし、面白い。たとえば、アラームの八分置きのスヌーズ設定とか。五分じゃなく、一〇分でもなく八分というのが、すごいリアル。あと、ごはんを食べに行く場面も、津村さんの思いがいっぱい詰まってるのがようわかる。大阪の人間なら必ずピンと来るんだけれど、友達と入る串カツ屋が、鶴橋やジャンジャン横丁ではなくて、パークスというのが、めちゃリアルで。

津村 妙齢になってくると、油が怖いとか言って誰も一緒に行ってくれないような、普通の食べ放題チェーン店。

西 主人公の奈加子が仕事の打ち合わせで大阪駅に出向いたときに、すきっ腹にカレーの匂いがぐさぐさ刺さって、帰りに絶対サンマルコのカレーを食べようって念じる。あれも大阪の人間からしたら絶妙で、ほんまにあの通りを歩いたら、暴力的にいい匂いすんねんな(笑)。

津村 そうそう、サンマルコを中心に、近くのマツキヨとか他の店にもカレーの匂いが広がっていて、あのあたり全部サンマルコの領地みたいなもんですよ。

西 そこで、もう一人の主人公、重信が注文するのが、なすびカレーになすびトッピング。

津村 実際に横にいたんですよ。そうやって、めっちゃうれしそうに注文してる人が。まあ確かに、なすびはおいしい。

西 おいしい。店の選び方も小洒落た店じゃないのがいい。読者にとっても、そやねん、これやという感じがあると思う。

津村 そういう大阪の地下街みたいな、別にそんなにピカピカしてないところをうごめく人たちが「オレハゲるんかなあ」とか、「なんで私は会社でこんなに雑に扱われてるんやろ」とか、いろんな気持ちを抱えて歩いてはる。そういうことを私は書きたかったんですね。



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▶「30代をしんどくさせる不毛なジャッジ」
つむら・きくこ●
作家。1978年大阪府生まれ。2005年「マンイーター」(単行本刊行時『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で太宰治賞を受賞。著書に『ミュージック・ブレス・ユー!!』(野間文芸新人賞)『ポトスライムの舟』(芥川賞)『八番筋カウンシル』等。

にし・かなこ●
作家。1977年イランのテヘラン生まれ、カイロ、大阪育ち。2004年『あおい』でデビュー。著書に『さくら』『きいろいゾウ』『通天閣』(織田作之助賞)『うつくしい人』『ミッキーかしまし』『ミッキーたくまし』『窓の魚』『炎上する君』『白いしるし』等。