受賞作『雪の階(きざはし)』(中央公論新社刊)奥泉 光

【梗概】

 昭和十年、春。女子学習院高等科に通う華族の娘・笹宮惟佐子(いさこ)は、親友の宇田川寿子(ひさこ)と、ドイツ人ピアニスト・カルトシュタインの演奏会の後、花見の約束をしていた。だが寿子は演奏会に現れず、富士の樹海で死体で発見される。寿子は妊娠2か月で世間は情死と見たが、「できるだけはやく電話をしますね」と死後、惟佐子の元に仙台消印のハガキが届く。富士の樹海で発見された寿子が、なぜ仙台からハガキを出したのか? 惟佐子は幼少期の遊び相手だったカメラマンの牧村千代子に、事件を調査してほしいと願い出る。
 一方、カルトシュタインは、惟佐子の伯父・白雉博允(はくちひろみつ)とドイツで交友があったことを漏らした。変わり者の伯父はドイツで「心霊音楽協会」なる怪しげな組織に属し、アーリア人種と日本人種の祖先は神人(ゴットメッシュ)だと言い、さらに混血したヤマト人や天皇は純粋日本人種に非ずと主張していた。
 惟佐子の周辺で続く不可解な死、兄で陸軍大尉の惟秀(これひで)の影、そして台頭する軍部と忍び寄る戦争の足音……。そしてとうとう昭和十一年二月、純白の雪のなか、すべてが白日の下にさらされる。


【著者プロフィール】

一九五六年山形県生まれ。国際基督教大学大学院修士課程修了。一九八六年「地の鳥 天の魚群」でデビュー。一九九三年『ノヴァーリスの引用』で第一五回野間文芸新人賞、一九九四年『石の来歴』で第一一〇回芥川龍之介賞、二〇〇九年『神器―軍艦「橿原」殺人事件―』で第六二回野間文芸賞、二〇一四年『東京自叙伝』で第五〇回谷崎潤一郎賞を受賞。他の著書に『「吾輩は猫である」殺人事件』『シューマンの指』『ビビビ・ビ・バップ』など多数。