受賞作『かたづの!』中島京子

【梗概】

 慶長五年、一本角の羚羊(かもしか)は八戸南部氏第二十代当主・直政の妻、十五歳の祢々(ねね)と出会い、心を通わせあう。祢々は福、愛の二人の娘を産み、羚羊も妻を得て三子を儲ける。だが慶長十六年の三陸大津波で羚羊は妻子を失い、自身もその冬に息をひきとる。死してなお羚羊の意識を宿した角は祢々の許に置かれ、南部の秘宝「片角」として祢々を助けることになる。
 祢々は待望の嫡男・久松を産む。喜びも束の間、直政が突然逝去し、その初七日が過ぎないうちに久松までが亡くなる。どちらも祢々の叔父である南部宗家第二十七代当主・利直の謀略との噂が立つが、祢々は八戸の存続のために利直とかけあい、自身が女亭主になることを認めさせる。だが豊饒な八戸を狙う利直は家督を相続したばかりの祢々に、子飼いの家臣を婿養子にとらせようとする。片角の助けで策謀を知った祢々は逸早く剃髪し、清心尼となって阻止する。
 福姫は利直の希望で次男の花巻城主・政直に嫁ぐが、愛姫の夫には重臣の息子・直義を八戸領主に迎えることを認めさせる。直義はしばしば利直に呼び出され、政の中心は相変わらず清心尼だった。次々と策を巡らす利直は、八戸に遠野への国替えを命じる。山間僻地への移封に反対し、利直との戦を叫ぶ家臣たちを前に、清心尼は片角の力を借りて異貌清公──額に一本角を生やした異様な姿──となり、誰一人死ぬことなく生きる道を選べと迫り、遠野への移封を決める。
 ある日、遠野の清心尼の許に大蛇が現れて利直の死を告げる。前後して、八戸から遠野へ移った者たちと在来の武士の間で争いが起こる。今や南部宗家の筆頭家老となった直義は双方の中心人物を切腹させて収めるが、清心尼は二人を死なせずにすむ方法はなかったかと問い続ける。
 困難が降りかかるたびに、武力ではなく知力によって乗り切る方法を選んできた清心尼は、長年に及んだ金山騒動が無事に解決したのを見届けた後、五十九歳で大往生を遂げる。

『かたづの!』

【著者プロフィール】

1964年東京都生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。出版社勤務、フリーライターを経て、2003年『FUTON』で作家デビュー。2010年『小さいおうち』で第143回直木三十五賞を受賞。2014年『妻が椎茸だったころ』で第42回泉鏡花文学賞を受賞。2015年『かたづの!』で第3回河合隼雄物語賞、第4回歴史時代作家クラブ賞(作品賞)を、『長いお別れ』で第10回中央公論文芸賞を受賞。他の著書に『イトウの恋』『ツアー1989』『東京観光』など多数。