『櫛挽(くしひき)道(ち)守(もり)』 木内昇 受賞作

【梗概】

 幕末の中山道木曽山中の藪原宿。名産品「お六櫛」は華やかな飾り櫛ではなく、一寸幅に三十本も挽かれた歯で髪や地肌の汚れを梳る質実な櫛である。櫛挽の名人吾助の長女・十六歳の登瀬は幼いころから父を尊敬しその技に魅せられてきた。父に許され修業を始めた登瀬。跡を継ぐ弟・直助が十二歳で急死。母・松枝は悲しみの中に沈み、一つ下の妹・喜和は女としての生き方に背を向けたような登瀬に反発するようになり、家族関係がきしみ始める。女の櫛挽職人を認めない町で一家に対する風当たりが強まる中で登瀬は父の技を身につけようと励むのだった。
 旅籠の男衆から、生前直助が草紙を書いていたと知らされた登瀬は残された草紙を探す。直助と一緒に草紙を売っていた色街育ちの源次を知り、弟を思うように心を寄せていく。
 新たに弟子入りした実幸は圧倒的な才能を持っていた。藪原の伝統にない塗櫛を作り、問屋との付き合い方まで変えていく実幸。登瀬は反発と不信を深めるが、二人の婚礼が決まってしまう。
 和宮様御降嫁の行列が藪原に差しかかる。志士と通じ、この世を変えたいと願っていた源次は、行列を止めようとした罪で捕らえられ、獄中で命を落とす。父が病みつき、不安を覚えながらも櫛挽を続ける登瀬。その腹の中には実幸との子が宿っていた。
 天狗党の残党の少年が藪原に逃げ落ちてくる。少年は直助が残した草紙ひと巻を大事に持っていた。草紙には家族と櫛挽への深い愛情と未来への希望が込められていた。弟の思いを受け止めた登瀬は、長年理解できずにきた実幸が抱える思いにも気づいていく。やがて出産。三十二歳で母となった登瀬は、娘に直と名付け、実幸と共に今日も櫛を挽くのだった。

『櫛挽(くしひき)道(ち)守(もり)』

【著者プロフィール】

・本 名
・略 歴

木内 昇(きうち・のぼり)
1967年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業。2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。2009年、第2回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。2011年『漂砂のうたう』で第144回直木三十五賞を受賞。2014年『櫛挽道守』で第9回中央公論文芸賞、第8回親鸞賞を受賞。他の著書に『新選組裏表録 地虫鳴く』『茗荷谷の猫』『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』などがある。