『漠の青がとける夜』 中村理聖 受賞作

【梗概】

 東京で雑誌編集をしていた瀬野美月は、姉の菜々子が亡き父親から譲り受けたカフェを手伝うため、京都に移り住んだ。
 淡々と日々を過ごす美月の心によぎるのは、東京での仕事と不倫相手の記憶だった。飲食店を紹介する記事を書いている頃の言葉へのわだかまり。別れを告げた不倫相手から送り続けられる「愛してる」とだけ書き連ねられたメール。美月はどちらとも向き合えず、受け流すだけだった。
 そんな美月の前に、どこか現実感がなく不安定さを帯びた準という中学生の男子が現れる。準は、大人びた物静かな少年だったが、美月にはあどけなさを見せる。
 二人が少しずつ親しくなっていったある日、準は「世界が重なり合って見える」と美月に打ち明ける。時折、人の発する声に別人の声が重なって聞こえ、その声から人や人でないものが立ち上がり、動き回るのが見えるのだという。「準だけに聞こえ、見える世界」の話を聞くうちに、美月は自分の現実感が揺らぐ不安を覚える。
 不安や無力感に悩まされる美月だったが、準の発する言葉を聞き、声に出すうちに「いるはずのない人」を感じる瞬間が訪れた。
 自分の日常と、声と色彩に満ちた準の世界が重なり、美月は準の存在を確信する。東京で抱えていた葛藤が消え、自分の中に新しい言葉が生まれるのを感じたのだった。

『砂漠の青がとける夜』

【著者プロフィール】

・本 名
・生年月日
・現住所
・出身地
・職 業
・最終学歴

中村理聖(なかむら・りさと)
1986年(昭和61年)6月7日
京都府京都市
福井県福井市
会社員
早稲田大学第一文学部卒業