「仮想儀礼」篠田節子 受賞作

【梗概】

 作家になる夢破れ家族と職を失った正彦と、不倫の果てに相手に去られホームレス同然となった元編集者・矢口は、9・11で、実業の象徴、ワールドトレードセンターが、宗教という虚業によって破壊されるのを目撃する。長引く不況の下で、大人は漠然とした不安と閉塞感に捕らえられ、若者は退屈しきっている。宗教ほど時代のニーズに合った事業はない。
 ──信者が三十人いれば、食っていける。五百人いれば、ベンツに乗れる──二人は古いマンションの一室を使い、借り物の教義と手作りの仏像で「聖泉真法会」という教団を立ち上げた。ホームページをネットで公開した途端、相談のメールが次々と送られてくる。集会場には悩みを抱えた若者も、年寄りもやってくる。一人一人の悩みを聞き、丁寧に対応するうち、次第に教団は大きくなっていく。
 信者が増え、支部も各地に出来た頃、ある新興宗教の教祖から宗教法人を買わないかと持ちかけられる。もちろん宗教法人にはなりたいが、うさんくささを感じて断る。そうするうち、その新興宗教絡みのスキャンダルが持ち上がり、「聖泉真法会」も巻き込まれてしまう。
 出入りの美術商の死。新興宗教の教祖の殺人容疑での逮捕。連日のマスコミのバッシング。カルト宗教の烙印。国税局の査察。そして教団は財産を失ってしまう。
 確固たる主張を持たずに利益優先で成長してきた、まがい物の宗教の抱えた潜在的な矛盾が、今になって頭をもたげてきたが、残った信者の抱える闇は、ビジネスの範疇を超えていた。家族から無視され続けた主婦、愛人としてホテルで飼われていた少女、実の父と兄から性的虐待を受ける女性……居場所を失った女たちが集う教団は、次第に狂気に蝕まれてゆく。
 二十一世紀の黙示録的長篇サスペンス。


 

【著者プロフィール】

篠田節子(シノダ・セツコ)
一九五五年東京都生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。一九九〇年『絹の変容』で第三回小説すばる新人賞を受賞。一九九七年『ゴサインタン―神の座―』で第十回山本周五郎賞を、『女たちのジハード』で第百十七回直木三十五賞を受賞。ほかに『聖域』『カノン』『弥勒』『コンタクト・ゾーン』『讃歌』『夜のジンファンデル』『純愛小説』『転生』『Χωρα(ホーラ)―死都―』『薄暮』など著書多数。