受賞作『聖なるズー 動物性愛者、種も暴力も超えるセックス』濱野ちひろ

【梗概】

 本書の主人公は、ドイツに暮らす動物性愛者たちである。彼らは動物を愛し、動物とときにセックスをする。動物性愛者は、自らを「ズー」と称し、愛する特定の動物を「パートナー」と呼ぶ。
 2016年の秋と17年の夏、筆者はドイツを旅し、22人のズーたちに出会った。大型犬を「僕の妻だよ」と紹介する男性。7匹のねずみと「群れ」となって生活する男性。馬に恋する男性。車椅子生活のなかで犬をパートナーとして迎え入れ、ズーになっていった女性……。ときにはグーグル・マップでさえ確認できないドイツの片田舎を訪ね、個性豊かな面々と巡り会う。
 世間からは「変態」「病気」と揶揄されることも少なくないズーたち。その生活の実態を知るべく、筆者は彼らの住まいを転々と寝泊まりし、人々がいかにして身近な動物との関係を切り結んでいるのかを描写する。

 19歳から10年にわたってドメスティック・バイオレンスと性暴力に苦しんだ筆者の個人的経験を踏まえながら、動物と人間の性的関係という事例を通して、人間にとって愛とはなにか、また、セックスとはなにかを考察する。
 人間と動物という組み合わせは、人間と人間の関係や、セックスという行為を抽象化して示してくれるのではないか。極限的な事例を通して、より大きな問題を捉え直すことができるのではないか。筆者がこのテーマに取り組んだ動機はそこにある。
 共通の言語を持たず、異なった身体を持つ動物たちと、はたして人間は愛し合うことができるのか。ズーたちの語りにときに困惑し、動物との距離の近さに驚き、セックスや愛が作り出す複雑な迷路をさまよい歩いて、ドイツでの日々は続く。ズーたちは、人間と動物それぞれのセクシュアリティ、そして種を超えた関係性について筆者に再考を迫ってきた。
 ズーたちひとりひとりと時間をかけて向き合うなか、次第に見えてきたのは、身近な動物の性を人間はどう捉え、どう対応すべきなのかという問題、そして人間は愛する相手と対等でいられるのかという問いかけだった。


【著者プロフィール】

・氏 名

・略 歴

濱野 ちひろ(はまの ちひろ)

1977年広島県出身。2000年、早稲田大学第一文学部卒業後、フリーライターとして活動開始。雑誌、ウェブサイトなどでインタビュー記事やエッセイ、映画評、旅行、アートなどに関する記事を執筆。2018年、京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了。現在はフリーライターとして活動するとともに、同大学大学院博士課程に在籍している。文化人類学におけるセクシュアリティ研究に取り組む。