【梗概】

 山本紀子四十二歳、専業主婦。不用品処分が目的でスタートしたインターネットオークションだったが、お小遣いは入るし、何より落札者からの「非常に良い」という評価がうれしい。感謝されて自信が湧いてくる。さて次はなにを出品しようか。(「サニーデイ」)
 湯村裕輔三十六歳。十四年間勤めた会社が倒産し、妻が結婚前の職場に復帰することに。妻が働きに出る以上、家事は自分がやらねばならないと思った。みそ汁が作れるようになり、だし巻き卵にも挑戦。元の上司から新しい職場に誘いがあったが、まあいいか。(「ここが青山」)
 田辺正春三十八歳。子供無し。八年間連れ添った妻が、自分の家具を持って家を出た。必要な生活道具を買い回るうち、昔の趣味を思い出しオーディオ装置を買い揃えてしまう。部屋は次第に「男の隠れ家」の様相を呈し、同僚も会社帰りにやってきて常連と化してゆく。(「家においでよ」)
 佐藤弘子三十九歳、専業主婦。DM用の宛名をパソコンで入力するアルバイトをしている。発注元の地区担当がかわり、二十九歳のなれなれしい口調の図々しい男がやって来た日の夜、グレープフルーツの怪物に犯される夢を見た。(「グレープフルーツ・モンスター」)
 夫婦で晩御飯を食べているとき、夫の栄一が、品川駅前でカーテン屋を始めると言い出した。今の会社に転職してまだ一年。それも五つか六つ目の会社だ。春代は吐息をついた。夫は言い出したら聞かない。おまけに行動が早い。宣言したときは、すでに走り出している。(「夫とカーテン」)
 大塚康夫四十二歳、小説家。名のある文学賞受賞を契機に過去の小説も売れ始め、預金残高が一億円を超えたあたりで、妻が"ロハス"にはまった。玄米御飯に無農薬野菜。ヨガ教室にエコ洗剤。今日も近所のロハス仲間がわが家に集まった。(「麦と玄米御飯」)
夫と妻の心の機微を軽妙に描きだす、六つの物語。

 

【著者プロフィール】

一九五九年岐阜県生まれ。雑誌編集者、プランナー、コピーライターを経て、一九九七年『ウランバーナの森』で作家デビュー。二〇〇二年『邪魔』で第四回大藪春彦賞、二〇〇四年『空中ブランコ』で第百三十一回直木賞受賞。著書に『イン・ザ・プール』『町長選挙』『マドンナ』