【梗概】

 高木志摩子、女優、四十八歳。五十三歳の夫は都内にある私立大学で美術史を教えているが、三年前のがんの手術後体調がすぐれない。二人のあいだに子供はいない。
 奥平正臣、作家、四十三歳。有名小物専門店店長の妻と小学生の双子の娘がある。
 志摩子が初座長・主演を務める舞台、『虹の彼方』の制作発表記者会見で原作者の正臣は志摩子に会いひと目ぼれをしてしまう。やがて、公演の打ち上げ、文芸誌の対談を通じて連日のように連絡を取り合うようになり、ふたりは激しくとどまることのない恋におちていく。
 仕事場でパソコンのキーボードをたたきながら、頭の中がすべて志摩子で占められている正臣。何をしていてもうわの空、仕事を減らしてまで正臣と会う時間を作ろうとする志摩子。
 ともに家庭がありながら、激情のおもむくまま密会を重ねるふたりだが、やがてお互いの配偶者が、異変に気付く。正臣の妻は、仕事場に泊まり込む日が増えた夫に不信感を抱き、志摩子の夫は明け方まで帰らぬ妻を寝ないで待つ。
 ついに週刊誌に密会場面を撮影され記事にされてしまう。正臣の妻は半狂乱になり、志摩子の夫は不気味なほど静かだった。
 周囲を混乱させ、世間を騒がせながらもふたりの恋は深まり、ついに、ふたりはすべてを捨てて上海への逃避行を決行する。
 現実を捨てて逃げてきた上海で、しばらくは二人きりの生活が続くが、やがて、二人の失踪が連日日本のマスコミを騒がせていることを知らされる。しかし、いつまでも逃げ続けることはできない。「いつも一緒。何があっても、一緒」と誓いあうふたりは、しかるべき制裁が待ち受けているとわかっていても、ともかく帰国して次に向かおうと上海を後にする。

 

【著者プロフィール】

1952年東京都生まれ。成蹊大学卒。
1989年『妻の女友達』で第42回日本推理作家協会賞(短編部門)、1996年『恋』で第114回直木賞、1998年『欲望』で第5回島清恋愛文学賞を受賞。著書に『無伴奏』『水の翼』『冬の伽藍』『狂王の庭』『瑠璃の海』『虚無のオペラ』『青山娼館』など多数。