【梗概】

 十八歳で出産、子供を連れて再婚、あげく虐待死させる。この若い夫婦はどんな環境でどんな風に育てられ何を考え感じて生きてきたのか。なぜ子供を殺してしまったのか。その背景と心情の軌跡を非情なほどに淡々と、執拗に追う。(「ふらんだーすの犬」)

「親の家」を、面倒な男から逃れるための口実に使ってきた幸月が家を出た。「結婚も、仕事も」求める欲深女だったはずの知勢子は男とあっさり別れた。一方晶菜は二股を二度もかけられた男と懲りずに付き合ってしまう。「なんでもない」二十六歳という年齢にからめとられながらも「自由」を希求している3人のOLたち。(「ごはん」)

「私お母さんが大好きなの」という夏子の突然の告白にとまどうアオイ。女の十九歳は問題が多い。女≠ニいうどろどろした変なものが突然剥き出しになる、未熟≠ニ成熟≠フ間のひと時が浮かび上がる。(「ほおずき」)

 定年を迎えたばかりの夫が、散歩中に若い男と喧嘩をして殺された。自分が結婚していた夫という人間を、今、一人になって初めて考えた静子は、背広を着てネクタイを締めた遺影の中の夫しか知らないことに気づく。(「浅茅が宿」)

 自分に何が似合うかをはっきり知っている娘の瑠衣。その選択眼を誇りに思っていた加穂子は、「金魚がほしい」などとねだる瑠衣にとまどう。同居の姑初子の趣味に違いないと嫌悪し孤独を感じる。しかし初子は加穂子を上回る孤独を抱えて生きていた。(「金魚」)

 毎年白菜の漬物を送ってくる母が倒れたと知り、孝子は長い間疎遠にしていた故郷に帰る。そこには寂れた田舎の風景があり、母、そして自分の、忘れたままにしてあった「老い」を目の当たりにする。(「白菜」)

日本人が未解決なまま置き去りにしてきた負の部分を、緻密な感情描写で見事に描ききった短編集。

 

【著者プロフィール】

1948年東京都生まれ。東京大学文学部国文科卒業。在学中からイラストレーターとして活躍。1977年作家に転身、同年『桃尻娘』で講談社小説現代新人賞佳作入選。
以後、小説・評論・古典の現代語訳・エッセイなど、様々なジャンルで執筆活動を行なう。1996年『宗教なんかこわくない!』で第9回新潮学芸賞受賞。
2002年『「三島由紀夫」とはなんだったのか』で小林秀雄賞受賞。
近著に、『双調平家物語十二』(中央公論新社)、『ひらがな日本美術史6』(新潮社)『嘘つき映画館 シネマほらセット』(河出書房新社)『上司は思いつきでものを言う』(集英社)など。