【梗概】

 これほど、交通機関が発達し、情報網が世界を駆け巡る時代になっても、日本に暮らす我々にとって、アフリカは遠い。欧米諸国には、強烈な関心を示す日本人なのに、アジア諸国の現状に関しても疎く、9.11のテロ以前にはアラブ諸国に対しても何の好奇心も抱いてはいなかった。そしてその驚くべき「無関心」の最たる対象がアフリカ諸国である。

 一般の日本人と同様、アフリカ諸国には無知だった筆者が、特派員として5年半取材活動を続けるうちに出会ったアフリカの普通の人々を、書き残したいという情熱に駆られて綴ったのが、本作品「遠い地平」である。貧困のひと言で片付けられてしまうアフリカの人々の言葉を、風に乗る砂塵のように消えていく人々の生涯を、残さなければといういたたまれないような筆者の思いが、随所に感じられる。

 この作品は、南アフリカ、ルワンダ、モザンビーク、ギニアなど、それぞれ違う国違う環境に生きている名も無きアフリカの人々の半生をオムニバス形式で追っている。自分も息子も炭鉱で働き、そして自分は働き通したことを何よりの誇りとしている老人、スペイン人との混血故にダイヤモンドの仲買人の立場に置かれた古老、ゲバラが植えつけた革命の種に翻弄された生涯、ピュリッツァー賞を受賞したカメラマン。これらの物語は、一見ばらばらのように見えるが、その底流には、「無知、貧困、被差別」が横たわっている。筆者は、「本当の差別とは何か・・・」を、自身の体験と照らし合わせながら、また、南アフリカ出身のノーベル賞作家J・W・クッツェーのメッセージを引きながら、解き明かしていく。

 ブランドと飽食とに流される日本に中にあって、アフリカの人々の賢者ぶり、自分をわきまえた控えめさ、国家にも世間にも縛られない「個」の強さに、むしろ圧倒される。彼らは、意図せずして我々に、「生きること」の意味を問いかけてくる。

 

【著者プロフィール】

・本 名  藤原 章生(ふじわら・あきお)
・現住所  メキシコ メキシコシティ
・略 歴  1961年生れ。福島県出身。
      北海道大学工学部卒業。
      毎日新聞記者。現メキシコ市支局長。