第16回柴田錬三郎賞
『秋の猫』・藤堂志津子
梗概
 1998年サッカーW杯フランス大会を観戦した著者は、帰り道にミネラルウォーターを配るアルジェリア系フランス人のボランティアに出会う。排外主義を煽る政治家ル・ペンへの抗議と「W杯の成功」を願う彼らの姿に、在日コリアン三世である著者は日本における自分の立場と同質な苦悩を見出し、サッカーという切り口からも多民族の社会統合に取り組むことができると気づく。
 本原稿では、帰化した新井将敬代議士の自殺や日韓共催の舞台裏、自分史などに触れながら在日コリアンの実情を浮き彫りにする一方で、ブラジル、アルゼンチン、中国、南北コリアなど、日本に定住する外国人たちが草の根の2002W杯ボランティアを立ち上げ、お金や運営に苦労する様子が語られる。そこで描かれた経過と顛末は差別という問題の解決を模索する著者のやわらかな提案と、「多文化共生」実現への静かな迫力が読み取れる。エピローグの独白は、自らを国家と国家にまたがる「越境人」と位置づける著者から日本人へ向けたラブコールに他ならない。
 単一民族神話のはびこる日本において、ほとんど議論されることのない「多文化共生」や「社会統合」のあり方をイメージ豊かに示唆するルポである。
著者プロフィール
本名    鄭 誠治(チョン・ソンチ)
現住所   埼玉県川口市
略歴    1957年(昭和32年)山口県生まれ。
      早稲田大学卒。文筆業
 

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