第16回柴田錬三郎賞
『秋の猫』・藤堂志津子
梗概
フリーライターの筆者は、オーバーステイの外国人労働者の取材過程で、十年以上日本で働いているバングラデシュ人のカン兄弟に出会う。
 弟、ベラルは六本木のクラブを解雇され、彼らのような外国人労働者を支援する組織の力を借り、係争中。事態はもつれ、会社側の人間が彼らの家に押し入り、警察に通報、弟は不法滞在で逮捕されてしまう。兄、ハニイフは、自分にも逮捕の危険が及ぶのを恐れ居を移す。著者はそんな兄弟たちを家、拘置所と追いかけながら、取材を続ける。不当解雇に怒り、不法滞在逮捕に怒る弟と、最初に働いた工場で経営者や周囲の環境に恵まれたためか、温和で日本での自分たちの実態を淡々と受け止める兄。
 弟の裁判を追いかけながら、著者は日本における外国人労働者急増とバブル経済の関連、バブル崩壊後の模様などを、この兄弟に投影してみる。裁判で会社側の謝罪と補償金を獲得した弟は、日本を後にバングラデシュに帰国する。
 著者が訪れてみたバングラデシュで目撃したのは、長い日本滞在のせいか、旧来の慣習になじまないで、周囲を困惑させ続ける弟ベラルの姿だった。十五年もの間、日本で働きつづけ、半ば日本人的思考方法に染まってしまったものの、日本に安住を許されず、戻った母国では職がなく大変な状況のなかで立ち往生してしまう。
 二つの国の間のエアポケットに落ち込んでしまった彼らとの交流は、取材を超えて暖かい。筆致はあくまでも淡々として、彼らの哀歓が伝わってくる。視点の暖かさは著者自身が日本に住みづらくモンゴルに脱出してみたが、居場所を見つけられず帰国した体験があるせいか。
著者プロフィール
本名    駒村康孝(こまむら・やすたか)
現住所   東京都練馬区
略歴    1968年(昭和43年)長野県生まれ。
      新聞記者を経て、1999年より取材・執筆活動。
 

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