第16回柴田錬三郎賞
『秋の猫』・藤堂志津子
梗概
 虎山。それはロシア沿海州の、文字通り虎の棲む山であり、今なお原初の自然が奇跡的に息衝いている。
 ここに1996年〜97年にかけての約一年、TV局のカメラマンである著者は、業務で三度にわたって取材に行く。まだ、誰も撮影したことのない絶滅寸前の幻のシベリアタイガーに会うために。
 すでに五十四歳、初老の域に達している著者は、人間社会になじめず不器用にしか生きられないロシア人レンジャーのヴィーチャに導かれるようにして、しだいに大自然の神性に目覚めていく。刺されれば数十パーセントの確率で死ぬという赤ダニの洗礼、熊に襲われ顔に傷を負い、心を閉ざす猟師の息子デニスとの出会い、母親を密猟者に殺され、野垂れ死ぬ小熊。シベリアの過酷な自然が織り成すドラマをカメラにおさめていく著者の回想が、一種映像美とも呼びたくなるような、ゆったりとした格調ある文体で綴られる。
 特に三度目の取材は、零下30度にもなる激寒の季節。密猟者が虎に喰われたとの報に、予定を繰り上げての取材である。もはや体力の限界をはるかに超え、永遠に続くかと思われた追跡行の果てに、ついにカメラは二頭の虎を捕らえた。気づかれ襲われれば、命は無い。次の瞬間、虎は著者を睨む。しかし、二頭は踵を返し森に去った。猟を終えて満腹だったことに救われたのだ。そして今でも、虎とその棲む森は、都会の喧騒に生きる著者に、ある懐かしさをもって胸にせまってくるのだった。
著者プロフィール
本名    平岡泰博(ひらおか・やすひろ)
現住所   奈良県生駒市
略歴    1942年(昭和17年)大阪府生まれ。
      大阪府立大学工業短期大学卒業。元関西テレビカメラマン
 

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