著者インタビュー 若い読者が手にとりやすい「入口」を作る

本多孝好(ほんだ・たかよし)
1971年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業。94年『眠りの海』にて第16回小説推理新人賞受賞。99年、受賞作を収録した短編集『MISSING』で単行本デビュー。「このミステリーがすごい!2000年版」でトップ10入りするなど、高い評価を得る。
著書に『ALONE TOGETHER』『MOMENT』『FINE DAYS』『真夜中の五分前』『正義のミカタ』『チェーン・ポイズン』『WILL』『at Home』など

本多孝好さんメッセージ
今までの読者の方々へ。
皆様のご期待を裏切ろうと頑張りました。-本多孝好
あのときしか書けなかった『WILL』

今回、挿画が入っているのも、本多さんにとっては初の試みですね。しかも描き手は人気漫画家の田島昭宇さん。二つの個性が手を組んだかたちになりますが、これは本多さんの希望だったんですか。

本作りの段階からいままでとは違うものを作りましょう、ということでこうなりました。イラストを入れることで本の見え方が変わるはずですし、価格も抑えて、と提案しました。

田島さんのイラストはいかがでしたか。

さすが! という感じですね。この本ではないんですが、続く「ACT‐2」の連載中に、描写になかったのに眼鏡をかけている登場人物がいたんですよ(笑)。眼鏡をかけてるのか、本文でもかけさせちゃおう、と文章のほうを直したことがありました。

イラストも作品の力にしてしまおう、ということですね。

田島さんがそうイメージしたならそれを膨らませてみるのも面白いだろう、と思ったんです。

ビジュアルの力を自分の作品に取り込むという発想も、これまでの本多さんの作品にはなかったことではないでしょうか。

いままでは小説にしかできないことをやるんだ、という気持ちが強かったと思います。ビジュアルに対する反発もなくはなかった。でも、新しいエンターテインメントをめざすなら、そんなことにこだわっている場合じゃない、と今回に関しては思いました。使えるものは何でも使っていこう、と思ったんです。

「ストレイヤーズ・クロニクル」シリーズは本多さんにとって新たな試みとして重要な位置を占める作品になりそうですね。そのタイミングで、『WILL』が文庫化されるという偶然も興味深い。『WILL』は若くして葬儀屋を継いだ女性、森野が死者にまつわる謎に向き合っていくミステリです。本多さんにとっては『MOMENT』から続く代表作の一つでもあり、ファンにとっても本多ワールドのド真ん中の作品だと思いますが、文庫化にあたって気づかれたことはありますか。

文庫になるときにはいつも思うんですが、いま、これを書けと言われても書けないな、と。『WILL』はとくにそれを強く感じましたね。単行本から三年経っているんですが、この三年間でいろいろなことが変わったなと感じました。

とくにどのあたりがですか。

主人公の森野が、いまは離れて暮らす神田くんを求める、あの他者の求め方。あの秘めた思いはもう書けないなと思いますね。たぶん、自分がそういうふうに他者を求めなくなってきているからなんでしょうけど。

本多さんのこれまでの作品には、そのときどきに感じていたこと、そのときの状態が反映されているということですか。

そうだと思います。エンターテインメント作品でどこまで作者自身を出すかは難しい問題ですが、無意識的にせよ、自分自身を反映してしまう部分はあるでしょうね。

先ほど「鏡を見ているような書き方」とおっしゃっていた部分ですね。

ええ。そう言えば、『WILL』を書いていたとき、こういうことを書けるのはこれが最後だろうな、となんとなく思っていたことを思い出しました。

青春の終わり、ですか。

そうだと思います。もしもこれからこういう場面を書くとしても、それは記憶のなかの思い出として書いているんだろうな、と。

「ストレイヤーズ・クロニクル」もいまの本多さんの状況を反映しているとしたら、どんな部分でしょうか。

プロのエンターテインメント作品の書き手として、いま、どんな小説を書けるのか、という意識でしょうね。その課題に取り組んでいるという状況そのものがどこかに反映されているはずです。

「ストレイヤーズ・クロニクル」は「ACT‐3」で完結の予定だそうですが、続く「ACT‐2」以降は特殊能力を持った者同士のバトルがいよいよ本格化しそうですね。

そうですね。昴たちとアゲハたちの対立がより鮮明になっていくと思います。とはいえ、いま「ACT‐2」まで書き終えたところですが、「ACT‐3」がどうなるか、僕にもまだわかっていません(笑)。僕自身も続きを書くのが楽しみですね。