著者インタビュー 若い読者が手にとりやすい「入口」を作る

本多孝好(ほんだ・たかよし)
1971年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業。94年『眠りの海』にて第16回小説推理新人賞受賞。99年、受賞作を収録した短編集『MISSING』で単行本デビュー。「このミステリーがすごい!2000年版」でトップ10入りするなど、高い評価を得る。
著書に『ALONE TOGETHER』『MOMENT』『FINE DAYS』『真夜中の五分前』『正義のミカタ』『チェーン・ポイズン』『WILL』『at Home』など

本多孝好さんメッセージ
今までの読者の方々へ。
皆様のご期待を裏切ろうと頑張りました。-本多孝好
本来交わるはずのない三つの世代が生み出すドラマ

主人公の昴たち四人は特殊能力を持つ若者です。彼らはフィクショナルな存在ですが、事件を通じて彼らの前に現れる人々は、家出してきた少女、ホスト崩れのスカウトマン、全共闘崩れの出版社社長の三井など、彼らとは対照的にリアリティのある「いま」を感じさせる人物たちです。

「ストレイヤーズ・クロニクル」を書き始めるときに、シリーズ全体を通して一つのテーマが欲しかったんです。それが、登場人物それぞれの世代が、自分たちが生きてきた時代を振りかえるということでした。実は、「ACT‐1」の実質的な主人公は三井なんですよ。昴たちは表に出てこないというスタンスで物語を作っていますから、事件に対して傍観者という立場です。結果的に、物語の中心で動いているのは三井なんですよ。もちろん、昴たちが魅力的に機能してくれなければ小説としてダメですが、同時に僕が時代を象徴させたキャラクターたちに動いてもらわなければならなかった。

入口としては若者たちが感情移入しやすい昴たちがいる。しかし、物語のなかに入ると、世代の離れた登場人物たちとも出会えるという構造が確かに作られています。とくに全共闘世代の三井というキャラクターは予想を裏切る行動を起こし、ほかの登場人物たちを翻弄します。本多さんはもともと先はそれほど厳密に決めずにお書きになるそうですが、三井の動きも即興的に作りだされたのですか。

今回もあまり先々は決めずに書いていたので、三井というキャラクターを計算して動かした感じはしないですね。しかし、三井の行動の先の読めなさは、むしろ、僕が彼らの世代団塊の世代と呼ばれている人たちに感じているわけのわからなさを投影しているのかもしれません。三井と家出した十代の少女、二十代のスカウトの三人に関してはここまでアクティブに動くとは予想できず、本来は交わるはずのない三つの世代が交わることで物語が広がってくれた感じがあります。そこは「たまたま」というほかはないですね(笑)。

なるほど、たしかに三井たちが物語世界の奥行きを広げていますね。若い世代を核にしつつ、読者層が広がっていく可能性を感じました。

そうなれば嬉しいです。僕個人としては、たとえば、三井と同じ団塊の世代の読者がどう読むかに興味があります。彼らにとって三井がどう見えるのか。彼らを見ている昴たちがどう見えるのか。

それは興味深いですね。世代に注目されるようになったのはいつ頃からですか。

最近ですね。自分が年を取ったからだと思います(笑)。許容できる範囲が広がってきたんでしょうね。ちょっと前までは三井のように青春時代に反体制運動をやっていたときのことを引きずっている人は苦手でした。でも、そういう見方だけでもないなと最近ようやく感じられるようになってきました。

昴たちの出生に関わっている政治家、渡瀬も印象的なキャラクターですが、彼は三井とは対照的に、若くして国政に出て成功している政治家です。彼は新しいタイプの権力者としてとても不気味な存在ですね。

昨今の政治家たちは小粒、官僚的と評されますが、いまの時代、無理からぬところもあると思うんですよね。権力がある種のロマンチシズムをまとっていたのは昔の話であって、いま、権力が理念や幻想を背負うと怖いことになる。そんなイメージから生まれたのが、渡瀬というキャラクターです。今後、シリーズを通して、彼の怖さがもっと出てくると思います。