著者インタビュー 若い読者が手にとりやすい「入口」を作る

本多孝好(ほんだ・たかよし)
1971年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業。94年『眠りの海』にて第16回小説推理新人賞受賞。99年、受賞作を収録した短編集『MISSING』で単行本デビュー。「このミステリーがすごい!2000年版」でトップ10入りするなど、高い評価を得る。
著書に『ALONE TOGETHER』『MOMENT』『FINE DAYS』『真夜中の五分前』『正義のミカタ』『チェーン・ポイズン』『WILL』『at Home』など

本多孝好さんメッセージ
今までの読者の方々へ。
皆様のご期待を裏切ろうと頑張りました。-本多孝好

『ストレイヤーズ・クロニクル ACT‐1』は誘拐監禁されている少年を主人公たちが救出するところから物語が始まります。映画のオープニングを思わせる冒頭ですね。

この作品では、娯楽性を重視しているということもあって、出だしから読者の気持ちをつかもうと意識しました。

その言葉通りテンポが良く、スピード感のあるアクション小説です。これまでの本多さんの作品でここまでアクション・シーンが多い作品はありませんでしたね。

いままでとは大きく違うものを書くことは最初からの決めごとでした。いままでと違ったことを違ったアプローチで書くことで、自分がどう変われるのか。それを期待しながら書いたという意識が強かったですね。

本多さんはデビューして今年で十八年。『正義のミカタ』(二〇〇七年)あたりから作風に変化が見られると思うのですが、ご自身では意識されていますか。

デビューからしばらくは、書きたいものを探す必要はなかったんです。そこにあるものでよかった。思いついたものを思いついた順に書いていくという創作方法をずっととってきたんですが、そのうちおっしゃるように『正義のミカタ』を書く前の頃だったと思いますがこのまま書きたいものをナチュラルに書いていくと二周目に入ってしまうなと思ったんです。つまり、これまで書いてきたことを繰り返していくことになるのでは、と感じたんです。

もちろん、ある程度長く作家をやっていれば二周目に入ってしまうのは止むを得ないことですし、それも成熟と言えるかもしれません。一周目よりもいかに上手に二周目を走るかということも、作家として一つの勝負だと思います。でも、そのときの僕は年齢的にもキャリア的にもまだまだ二周目に入っていい時期ではなかった。では、どこを走るのか。これまで走ったことがないところはどんなところなのか。新たに走る場所を探し始めたのがちょうどその頃だったんだと思います。

走る場所というのはたとえば題材でしょうか。『正義のミカタ』で大学生の間で起こるトラブルや事件を取り上げたように、本多さんの眼がより広く時代や社会に向けられるようになったと感じます。

そうですね。それまではどちらかというと自分自身を映した鏡を見ているような書き方だったと思うんですが、窓の外を見るようになったのかもしれません。いま、この時代に小説を書いている意味を意識的に考えるようになったことは確かです。

では『ストレイヤーズ・クロニクル ACT‐1』の場合はどうでしょう。特殊な能力を持った若者たちがある事件に巻き込まれていく物語ですが、これまでの本多さんの作品以上に娯楽性を強く感じました。

娯楽性はもちろん意識していますが、それ以上に読者にどうやって本を手にとってもらうかということを考えました。おそらく、いま小説を書いている作家の多くが感じていることだと思いますが、読んでみたら面白かった、ではダメなんですよ。読んだら面白いというのは最低条件であって、作家自身がどうやって読んでもらうかから考えないと。この作品ではその入口から考え始めました。

具体的にはどんな入口を考えられたのでしょうか。

手にとってもらいやすい娯楽小説を書こう。では、どんなものを? と考えると、僕にとってのエンターテインメントはまず第一にハードボイルドなんです。ヒーローがいて、アクションがあって、という物語世界を考えると。

本多さんは最初の単行本、『MISSING』から抑制の利いた文体でミステリをお書きになってきた。ハードボイルド的なアプローチはいわば自家薬籠中のものですね。

ただ、いまの時代、ハードボイルドは成立しにくいんです。

ハードボイルド小説は社会からはぐれた者の視点で批評的に時代や社会を描くわけですが、いまの時代のようにみんなそれぞれが異端になってしまった、異端者が集まっているような社会で、異端者を描くことはほとんど不可能なんです。だとすれば、ハードボイルドを成立させるためには主人公たちの「種」を変えるしかなかった。今回、主人公たちが特殊な能力を持つという設定にしたのも、ハードボイルドを成立させるために必要なことだったんです。

なるほど。文体もこれまでの作品以上にとてもスピーディです。

エンターテインメント作品にとってリーダビリティの良さ、スピード感は重要な要素だと思います。自分が書きたいものを書きたいように書いていちゃダメなんだ、というか(笑)。

衝撃的な発言ですね(笑)。しかし、それは新たな表現方法に挑戦したということですよね。

ええ。「小説すばる」に連載していたんですが、そのときから、あえて一回四十枚、八回で一部完結という縛りを設けたんです。実際に書いてみて四十枚ってこんなに短いのかと思いました。この長さではその一回に入れたい内容が入らないんですよ。結局、五十枚、六十枚書いてから、どこを削っていこうかという作業になりました。いくらでも長く書けるけど、削るのは難しい。そこはすごく悩みましたね。

ライトノベルなど若い読者が読んでいる小説を読むと、限られた情報量で想像力を膨らませている作品が多いようです。『ストレイヤーズ ・ クロニクル ACT‐1』も描写は少なくてもキャラクターは立っていますね。

今回は、いつもよりも読者に預ける部分を増やしてみたということはありますね。スピード感を出すためには必然的にそうせざるを得なかったということもあると思いますが。また、僕自身の読書体験を振りかえっても、十代の頃にはそれほど濃密な情報量は要求していなかったかなあ、という記憶がありますね。その頃の記憶を頼りに書いた感じもあります。