神保町にある古書店「泪亭」二階の貧相な部屋に下宿する美女、白井沙漠。とても美しいのに、どこか現実感がない雰囲気で、「お金」がかかわると目の色を変え、初めて会った相手でも体を預ける。同じく学生時代に泪亭に下宿していた四十代の男、翻訳家の吉野解は、そんな彼女と偶然出会い、訝しく思いながらも強く惹かれる。何度か体を重ねたある日、沙漠はブランド品で身をかためた解に「三百万円、貸して」という。しかし実は、解も高学歴ワーキングプアで債務者。大学で非常勤講師として働いていても、妻の実家から援助されている状況だった。時は二〇〇九年秋。翌年六月からの改正貸金業法の施行を目前に、借金による破滅から逃れようとする彼らの間で、欲望がぶつかりあい、すれ違い、ついには殺人が起こる。
なぜ彼らは「お金」に追い詰められ、悲劇へと向かわされるのか? 
九〇年代末からの「消費者金融」全盛の時代を生きた登場人物4人の視点から、リアルな「現代の欲望」と、その末路が、緻密に複雑に描かれる。
1999年「夜空に、満天の星」(『AD2015年隔離都市 ロンリネス・ガーディアン』と改題)で第1回ファミ通エンタテインメント大賞に佳作入選。03年開始の〈GOSICK〉シリーズ、04年刊行の『推定少女』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』などが高く評価され、注目を集める。06年に刊行した『赤朽葉家の伝説』で第60回日本推理作家協会賞、08年『私の男』で第138回直木賞を受賞。近著に『荒野』『ファミリーポートレイト』『製鉄天使』『道徳という名の少年』『伏 贋作里見八犬伝』などがある。