『鬼滅の刃』担当編集者座談会『鬼滅の刃』
担当編集者座談会

大ヒット作の秘話多数!
『鬼滅の刃』歴代担当編集者がそれぞれの思考を語り合う。

「週刊少年ジャンプ」にて2016年2月より始まった『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴 ごとうげこよはる・著)は、TVアニメほか各メディアを巻き込んで記録的ヒットを飛ばし、2020年5月に人気絶頂のまま連載終了。その勢いはいまもとどまることがなく、10月には「劇場版 『鬼滅の刃』 無限列車編」も公開された。作品を支えた「週刊少年ジャンプ」担当編集者3名に、作品の裏側、そして編集者としての思考を語ってもらいました。

鬼滅の刃 1
EDITOR

大西恒平

2001年入社
週刊少年ジャンプ編集長(メディア担当)/
吾峠先生初代担当

髙野健

2016年入社 / 吾峠先生四代目担当

浅井友輔

2018年入社 / 吾峠先生五代目担当

稀代の新人・吾峠呼世晴との出会い

それではまず、初めて吾峠呼世晴先生と出会った頃の思い出を聞かせてください。

大西:「週刊少年ジャンプ」の「JUMPトレジャー新人マンガ賞」で吾峠先生が佳作を受賞されたことで、僕が担当させていただきました。

髙野:吾峠先生が4本の佳作の中のひとつだったそうですね。

大西:その回はかなりの豊作でした。新人作家さんに関しては若手編集者から優先的に担当につけるシステムになっているので、もうベテランだった僕は、通常だと担当できないはずですが、受賞者が多かったおかげで、吾峠先生を担当することができました。

はじめて吾峠先生の作品を読んだとき、どんな印象をもちましたか?

大西:ジャンプ志望の作家さんの中では珍しいタイプだと感じました。マンガ経験もあまりなかったようで、センスは感じたんですが、基本的なマンガづくりの基礎の部分がまだできておらず、今後この才能をどうジャンプで花開かせられるかだな、と思いました。

『過狩り狩り』。ジャンプコミックス「吾峠呼世晴短編集」より。

新人作家さんとはどのような接し方をするのですか?

大西:僕はまず「マンガという媒体において一番大切なことは何か」、という根本から伝えています。コマ割りや演出の細かなテクニックの前に、マンガを描くうえでの心構え、「何よりもキャラクターが大事」「主人公が魅力的に見えるように描く」といった大きな部分の話をします。

高野:そういう部分って、僕が吾峠先生と打合せをしていても感じました。先生の中に大西さんのアドバイスが生きていて。あとは先生の大西さん評が面白かった。「経済新聞みたいな人」とか言われてました(笑)。

大西:確かに先生には、「大西さんはネームを読んでいるときに、あまりに淡々とした表情なので、もしかしたらこの人はネームではなく、経済新聞でも読んでいるかと思った」と冗談を言われた覚えがあります(笑)。

新人作家さんとの接し方は、編集部の先輩から教えてもらうものですか?

大西:先輩に担当作家さんとの打合せを一、二度見せてもらい、「あとは自分で自由にやっていってください」と言われます。誰かに教えてもらうというよりは、自分自身でそれぞれのやり方を見つけていくしかないですね。

高野:ぶっつけ本番ですね。だから必ずしも上手くいくわけではありません。

浅井:あと新人編集者は最初、ベテラン作家さんを担当し、作家さんからマンガを学ばせていただくことが多いです。僕が吾峠先生の担当になったときも、そのような経緯で髙野さんから引き継ぐことになったのかなと思います。

大西さんが吾峠先生と作品をつくりはじめた頃について聞かせてください。

大西:他にも多くの新人作家さんを担当していましたが、吾峠先生は、群を抜いてネームを描くのが早かったです。毎月必ず1本は長編のネームを送ってくれました。はじめのうちは、ボツが多いので、そこで諦めてしまう新人作家さんもいるのですが、吾峠先生はダメ出しをされても、絶対に諦めず、何度も何度も新しいネームをつくってきてくれました。

新人の頃から「絶対作家になる」という姿勢が強かったのですね。

大西:受賞作の『過狩り狩り』から個性的で面白いセンスはありましたが、必ずしもそれが万人に届くものにはなってなかったと思います。ただ、たくさんのネームを描いていくことで、それが徐々に克服されていき、はじめての雑誌掲載作である『文殊史郎兄弟』のネームを見せてもらったときに、「化けたな」と感じました。

『文殊史郎兄弟』ジャンプコミックス「吾峠呼世晴短編集」より。

浅井:担当してから1年くらいですよね。それまでネームは5、6本くらいつくっていたんですか?

大西:そのくらいだね。ダメなものも多くありましたが、『文殊史郎兄弟』が完成したときに「ああ、これでこの人は『作家』になれたな、あとは『売れる作家』になれるかどうかだな」と思いました。

髙野さんと浅井さんは、新人育成に方針はありますか?

髙野:僕らはそれぞれ自分のマンガ論を持っていて、「こういう主人公にしなければ」「こういう風に好感度を上げる」「こういう構成にして物語をつくる」と、ルールまでいかなくてもパターンがあるんです。でもそれを新人作家さんに伝えると「その通りに描かないといけない」と、ガチガチのネームになってしまう。そんな折に『悪魔のメムメムちゃん』の四谷啓太郎先生から「自由に描いたネームが多いほど、キャラが見つかる」ということを聞いてまずは自由に描いてもらうようにしました。ネームを描いていると「このキャラは面白い」「この描き方は面白い」といったものが出てくるので、そこを醸成していくんです。最近の育成方針は、「とにかく自由に大量に描いてもらい、そこから作家さんの魅力を探して伸ばす」ですね。

浅井:僕はまだその手前の部分です。自分の中にある程度「面白くするには、こうしたほうがいい」という方法論があり、新人作家さんはそれを身につけてほしいと考えています。そのうえでいろいろなことを描いてもらい、一緒にアイデアを探していこうと思いますが、最初の基礎の部分の伝え方で苦戦しています。

髙野:当然、作家さんにも適性があります。吾峠先生みたいにすごいアイデアや言葉の力を持つ方は、最初にしっかりと基礎を身につけると、本来持っている面白さがより伝わりやすくなる。逆にまだ目立った武器を持っていない新人さんは、言い過ぎるとその通りにして小さくまとまってしまう。相手次第ですね。

新人作家さんを発掘し、育てることの楽しさややりがいは何ですか?

大西:「週刊少年ジャンプ」は若い作家さんがたくさん投稿してくれる媒体です。それこそはじめてマンガを描いた方とつき合っていくことになるので、作家さんと編集者は「二人で一つのコンビ」のようなところがあります。新人作家さんは、キラリと光る才能を持ち、個性的なキャラクターや、面白い台詞を生み出せるんだけど、知らないこともたくさんある。逆に編集者は、一般的な発想しかできないけど、マンガなどにたくさん触れてきているので、基本的なストーリーづくりや、コマ割りなどの技術は教えられる。つまり「できないことがある人」同士が補い合う感じです。新人作家さんとは、互いに深く関わりあって一緒に作品をつくる感覚が強いので、それが報われたときのうれしさもひとしおです。

浅井:僕が立ち上げた『マッシュル-MASHLE-』(甲本一・著)の場合、確かに甲本先生と僕とではできることが違い、役割分担しています。僕の場合は、マンガへの理解を深めることが好きなのでそこを楽しんでいますね。マンガはとても難しい仕事で、ストーリーにキャラクターにコマ割りにカメラワークに台詞……と、多様な能力が必要とされる。ただ、それらをどのようにすれば良くなるか、解き明かすことができればマンガはより面白くなります。マンガについて作家さんと一緒に勉強して「カメラワークをこうしたら効果的」「めくったときはこうしよう」と、理解していく過程が楽しいんです。

高野:すごくいいコメントですね。「マンガが好きな人は、マンガを読めば勉強になる」みたいな感じで。

浅井:ただ吾峠先生を担当していたときは、先生のレベルが僕と圧倒的に違い過ぎていたので、僕が勝手に勉強させていただきました。

打合せで見えた、吾峠先生の独自性

吾峠先生とのお仕事で、とくに勉強になったことは何ですか?

浅井:ひとつは、先生もご自身でおっしゃっていたのですが、マンガ家はアーティストではなく、ある意味、技術者だという印象を受けたことです。作品とは技術を積み上げてつくられるもので、すべての要素には作家さんの意図や計算があります。それまで僕は、作品とは作家さんの「才能」という不思議な能力から生まれるものだと漠然と考えていました。しかし、吾峠先生の姿勢を見て、エンタメや物語はゼロから自分で組み上げるもので、だからこそ、その過程を言語化することができれば、その面白さにも再現性があると、自分のスタンスを固めることができました。逆にそれが自分で信じられないと、マンガは自分の力では面白くすることができない、つまり不確かなもののために頑張ることになります。自分の仕事の指針となる、本当に貴重な勉強をさせていただきました。

高野:僕が思う吾峠先生のすごさは、圧倒的な思考の質量ですね。吾峠先生は感覚やセンスで描かれるタイプと思っている方も多いと思いますし、実際に天才的なセンスもあります。しかしそのうえで、「それをどう人に伝えるか」をものすごく考えているんですよ。打合せで「ここまで考えるのが作家なんだ」と驚かされました。浅井くんに近いですが、アーティストというよりアスリートという印象です。面白さには理由があり、最大限に伝えるにはこういう方法をとる……ということをきちんと逆算して描いている。例えば『無限列車』のエピソードですが、最初に「炭治郎たちが夢の中で戦うんですよ」と聞いて、僕は不安しかなかったです(笑)。

夢が舞台だと何でもありで、緊張感を出すことが難しそうですね。

高野:普通、編集者だったら絶対に面白くならないと思いますよね。でもそれは僕の思考が足りていないだけでした。吾峠先生の中には波乱の展開とか、光る小人や無意識領域の設定とか、他では絶対に出てこないようなアイデアがありました。おそらく「夢の中での戦い」を最大限に面白く見せるため、僕らが想像つかないほど多くのことを考えられていたんです。

ジャンプコミックス『鬼滅の刃』7巻より。©吾峠呼世晴/集英社

作家さんとの打合せでは、編集者はどれくらいアイデアを出すものですか?

高野:僕に担当が替わった頃、まだ『鬼滅の刃』はそこまで大ヒット作品というわけでもなかったので、編集部の先輩方からは「引きはこうしてください」「キャラはこう描いてください」といった注文もありました。打合せではそういった意見や、他の作家さんから聞いた話などをお伝えしていましたね。吾峠先生はそういった話をすぐ吸収するんです。具体的な作品のアイデアを出すことは、とくにありませんでした。僕が話を聞く時点で既に面白いので。

大西:吾峠先生はマンガに対してすごく真摯な方で、打合せでも本当に細かい部分まで追求されました。例えば僕が「マンガはキャラが大事」と言うと、「いつどこでどのようにキャラは大事なんですか、そもそもキャラとは何を指しているんですか」と。さらに僕がそれについて説明すると、「では、それは具体的にはどのように描けば読者に伝わりますか」と、より深く質問してくださるんです。そうやって二人で一緒に思考を深めていって、「正解」を見つける作業をやっていたように思います。また吾峠先生に限りませんが、作家さんは意外と自分の良さに気づいていないことが多くて、例えばスポーツマンガに向いているのに、ファンタジー設定のものばかり描いてしまったり、カワイイ女の子を描けるのに、ヒロインがまったく出てこなかったりします。吾峠先生の場合だと、僕は先生の一番の武器は台詞やキャラの面白さだと思っていたので、たとえばバトルシーンでは、常にキャラに敵と会話をしながら戦って欲しい、という要望を出したりしていました。

人気が爆発したアニメ化、その舞台裏

『鬼滅の刃』のアニメ化が決まった頃は髙野さんが担当でしたが、その頃のことを聞かせてください。

高野:当時の『鬼滅の刃』はアンケートの票も取っているし面白いけれど、ここまでのヒット作になるとは思われていませんでした。ただアニメーション制作がufotableさんに決まり、最初のPVができた頃には「これは他とは違うぞ」という確信が生まれましたね。マンガの『鬼滅の刃』はそこまでアクション描写に比重を置いていませんが、ufotableさんは逆にそこを得意とするスタジオです。面白いストーリーワークとキャラクターはマンガが担い、ものすごいアクションと綺麗な映像はアニメが追求してくれる。このふたつが合わさったからこそ最強のアニメになったのだと思います。

そのとき、担当編集者はどのような仕事をするのですか?

高野:アニメ、ラジオ、グッズ、イベント、舞台……と、各種メディアが立ち上がるタイミングで、原作者の代弁者として調整していきます。アニメでしたら脚本をチェックして必要があれば修正してもらい、オーディションやアフレコに立ち会って「このキャラはこういう演技をしてほしい」と希望を出したり。ほとんど原作担当である僕とアニメのプロデューサー二人の三者で決めていきました。大事なのは初期方針を立てることですね。プロモーションに関しての「作品をこういう風に盛り上げていきたい」「作品をこういう風には扱わない」といったことですね。作品の世界観に対してどこまでやるべきか、編集者としてNGラインを引くことです。

集英社からは髙野さん一人だけですか?

高野:基本は一人です。これは集英社の面白いところですが、とにかく編集者一人の裁量が大きいんです。担当編集者にすべてを任せるところがあり、上の人たちはあまり口出ししません。もちろん、本当に問題になりそうなときはフォローしてくれますが。だからガツガツ働きたい人にはいい環境だと思いますよ。一人のほうが意思決定が早く、アニメの委員会でもその場で決定できる。そのスピード感はいいです。

アニメ放送開始の頃にその一人の担当が浅井さんに変わったんですね。

浅井:僕が『鬼滅の刃』を引き継いだのは、入社2年目の初めくらいでした。髙野さんは「当時はそれほど大きくはない」と言いますが、プレッシャーはありました。個人的にものすごく好きな作品でしたしufotableさんも知っていたので、アニメ化したら大変なことになるという予感が当時からありました。そしてそういった作品を若い人にポンと渡すことができる土壌があるのだと、驚きつつも、うれしくもありました。

高野:その頃は吾峠先生があまりに忙し過ぎて、きちんと引き継げていないところがありましたね。しかもこちら側もメディア展開で忙しくて。アニメの委員会や脚本会議はある程度の枠組みができていましたが、一気に作品が盛り上がって、浅井くんは大量の仕事を処理しなければならず、大変そうでした。

浅井:確かにやることは多かったのですが、編集部は全員忙しいので、僕だけが大変だったという感じはありませんでした。とはいえ『鬼滅の刃』は他に動いているイベントも商品監修もあり、ファンブックもあり……とにかく物量がすさまじかったですね。

大西さんは現在、メディア担当として『鬼滅の刃』に関してはどのような仕事をされていますか?

大西:商品のデザイン監修などをやりつつ、「劇場版 『鬼滅の刃』無限列車編」関連の仕事を多くこなしています。アニメ、映画、イベント、商品や関連本といった『鬼滅の刃』に関するすべてのものを僕がチェックしています。またそれらに対して、吾峠先生の意見を伺い、原作者の代理人として動いています。

大西さんは『ONE PIECE』『銀魂』などの劇場版も担当されてきましたが、映画ならではの醍醐味はありますか?

大西:映画は一作一作が全く違うプロジェクトになり、関わるメンバーも変わってくるので、毎回新しいことにチャレンジできます。そうしてこれまで培ってきた経験や人脈を生かして、新しい宣伝方法や、新しい展開を試すことができるのは、映画の醍醐味です。また「興行収入」という数字がはっきりしているので、成功か失敗かが分かりやすいです。昔担当した『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』(2009年公開)では尾田栄一郎先生をはじめ、スタッフの皆さんの協力のおかげで前作の何倍もの興行収入をあげられました。もちろん、そこがはっきりしているというのは、強いプレッシャーもあるんですが、だからこそ成功したときの達成感も大きなものがあります。

面白さを目指す、編集部の戦友たち

編集部内の雰囲気や若手、後輩との関係性について聞かせてください。

大西:マンガのアドバイスをすることもありますが、いつも言うのは「僕が言っていることは唯一の正解ではなく、あくまでひとつのやり方に過ぎない。だから参考になると思ったら使えばいいし、そう思わなければ使わなくていい」ということです。マンガの正解はひとつではないうえに瞬間瞬間に変化していく。だから先輩の言うことを聞き過ぎるのは絶対によくないんです。他人の言うことは、あくまで参考にとどめて、正解は自分自身で見つけていって欲しいと思っています。ジャンプでは昔からいい意味で「上の言うことを聞いちゃ駄目」という文化がありますね。

高野:あとはマンガ論を語りたい先輩が必ずいるので、その話を横で聞いたりしています。参考にしたり、自分で思うことがあれば考えたり。

大西:どこか職人みたいなところがありますよね。教わるのではなく、先輩の仕事を見て盗むというか。少なくとも何かひとつのマニュアルがあって、それに黙々と従うような仕事ではありません。もしそういうマニュアルがあったとしても、作家さんにこちらが言いたいことが伝わるかどうかはまた別の話ですしね。

浅井:でも、それはよいことですよね。いろいろな作家さんがいて、いろいろな作り方があって、いろいろな正解があって。最初に配属された頃は何も分からず、周りの先輩全員にお願いして、それぞれの打合せに1回だけ同行させてもらいました。

いま、後輩に対して何か指導をされていますか?

浅井:いえ、何もしていないです。ただ、全員手ごわいライバルだと思っています。

高野:僕も浅井くんのこと、とくにかわいがっているわけじゃないし(笑)。でも『鬼滅の刃』で同じ苦労を分かち合っていると、ちょっと心の繋がりが出てくるので、もしかして少しは優しいのかも。

大西:比較的静かな部署もあるみたいですが、ジャンプ編集部はみんなよく会話しているし、いつもワイワイしてて賑やかです。結局はみんな、作家さんと一緒によい作品を生み出すことだけを考えてる、そういう同じ目的を持った「戦友」みたいなものなんだと思います。

高野:仕事の話もよくしていますしね。僕は他人の担当作品の感想も結構話すんですよ。「今週のあれ、めっちゃよかったですよね」とか。そういうマンガの意見はお互いに勉強になります。

浅井:それはありますね。『マッシュル-MASHLE-』の票が苦戦したとき、「盛り上げるにはこうしたほうがいい」とか、普段あまり話さない先輩たちが急に教えてくれたりして……。本当にありがたかったです。

高野:もちろんライバル心も常にあるんですよ。「あいつより売れてやろう」みたいな。だから『マッシュル-MASHLE-』が調子いいとムカつく(笑)。とはいえ僕が担当作家さんから『マッシュル-MASHLE-』の助言をいただいたとき、「これは絶対に教えてやらない」と思っていたのに、疲れている浅井くんの顔をみるとつい教えてしまったりして。

浅井:あれは本当にありがたかったです……。すごく勉強になりました。

それぞれの『鬼滅の刃』の思い出

浅井さんに伺いますが、『鬼滅の刃』が最終回を迎える頃、吾峠先生とどんな話をしましたか?

浅井:やることは決まっていたので、それに向けて淡々と進めていく感じでした。最終回の原稿取りは歴代担当全員で「お疲れ様でした」とご挨拶に伺う計画でしたが、ちょうど4月の緊急事態宣言下で直接伺えず……。原稿取りもバイク便になってしまい残念でしたが、無事に連載を終了することができて、ほっとしましたね。

新型コロナウイルスの問題を受けて、編集者として気づきや考え方が変わったことはありますか?

高野:世間のエンタメの幅が狭まったので、言い方は悪いですがマンガにとってはチャンスでもありました。イベントがないし、家にいないといけない。映像媒体だけだと飽きるので、マンガに手を伸ばす人も増えてきました。僕は『ONE PIECE』も担当しているから、それは強く実感していましたね。

大西:マンガは一番シンプルで手に取りやすいメディアなので、お家で楽しめるものとしてとくに小さいお子さんたちが楽しんでくれている印象があります。マンガの持つ大きな可能性を改めて感じました。映像に比べると地味な印象があるかもしれませんが、十分これからも成長していける媒体だと思いました。

これまでを総括して、『鬼滅の刃』もしくは吾峠先生の担当として、一番思い出に残っていることを聞かせてください。

大西:吾峠先生がまだ新人作家の頃なんですが、初掲載が決まったので、私がその掲載誌を届けにいきました。渡したら、先生がページを開いた途端、ポロポロ涙を流されて。それまで頑張っていた姿を知っているだけに、そのうれし涙も十分に理解できました。

髙野:やはりアニメの1話を観たときです。先行上映会の会場で自分は号泣していました。そこに至るまで様々な問題や失敗がありましたが、素晴らしい映像と音楽と、キャラクターがさらに生き生きしている姿を見て感動しました。その映像を吾峠先生に送ったら、長文の感想とともに「素晴らしいものをつくっていただきありがとうございます」と言われて。それまでは自分自身では、『鬼滅の刃』にそれほど寄与しているとは思っていませんでした。そのとき初めて、吾峠先生のためになる仕事ができたと実感してうれしかったです。

浅井:僕は吾峠先生の作家としての覚悟というか、圧倒的な思考量が印象に残っています。アニメの脚本で吾峠先生のご意見をいただくときは、「こういう意図でこう描いているから、こう動かしてください」という根拠が絶対にありました。『鬼滅の刃』は、吾峠先生が技術を積み上げてつくられた作品であることを知れたのが一番ですね。

ジャンプ編集者としてのやりがい

編集者という仕事で、一番やりがいを感じることは何ですか?

高野:やはり才能に寄り添えることだと思います。こんなに才能が集まる媒体はそうはありません。日本中のエンタメの才能がここに集い、メディア化されたら、素晴らしいクリエイターと仕事をすることができる。この編集部にいる最大の価値はそこにあると思います。

大西:先ほども話しましたが、「週刊少年ジャンプ」は作家さんと編集者が本当に二人三脚で作品をつくっています。ですので、そうやって生まれた作品をヒットさせることができれば、それは作家さんと共に生み出した「新しい価値観」が世の中に認められたということにもなります。それに勝るやりがいって、世の中になかなかないように思います。

「週刊少年ジャンプ」の編集者にとって必要な能力は何だと思いますか?

浅井:僕はジャンプとは新しいものを貪欲につくる雑誌だと思っているので、そのための能力が必要だと考えています。過去の名作からいま流行っているものまで、面白いものを「なぜ面白いか」分析して、そこから別の面白いものをつくれるのではないか、と仮説を立てて実践するという。「発見・分析・仮説」を繰り返して、アイデアまでつなげる能力ですね。

大西:「この能力があればOK!」みたいな唯一の正解があるわけではないと思います。 ジャンプの編集者のタイプもみんなバラバラで「マンガを大量に読み込んでいて知識が膨大にある」、「お喋りが上手で話が面白い」「前向きな性格でいつも元気づけてくれる」「細かな部分に気を遣ってくれる」など様々です。 ただ共通して言えるのは、作家さんと良好な関係を築けなければならないということです。作家さんも一人の人間なので、いくら正しい理論を言われたところで、その編集者のことを嫌いだったら、話なんて聞いてくれません(笑)。普段から良好な関係が築けていればこそ、共に話し合って、一緒に頑張ることができるんです。

高野:ジャンプは、最大の商業誌でもあるので、読者の視点を見失わないことですね。自分たちをクリエイターだと思ってしまうと、絶対に失敗します。

大西:いかにも「クリエイターです」みたいな髪型しているくせに(笑)。

高野:これは「ONE PIECE公式チャンネル」でYouTuberもやっているので、このフィールドに頑張ってあわせてみたんです! YouTuberぽくありませんか?(笑)とにかく読者を想定することですね。いまの読者が何を面白いと思っているのか、きちんと追いかけることが大事です。

学生のときに身につけておくといい経験やスキルはありますか?

高野:「相手を褒める能力を持つ」「自分自身に過剰な自信を持たない」あとはインプットを多くするのは当たり前なので、「いろいろなメディアに触れる」ですね。少なくとも中高生が好きなものを知り、それより面白いものをつくらないといけないので、最低限TikTokとYouTubeは押さえて欲しいです。とくにTikTokはよくできていて、何のストレスもなく面白いものがどんどん入ってくる。マンガというストレスがかかる媒体がこれに勝つには、まず読者に「面白いという確証」を与えないと。なので作品の力ももちろんですが、宣伝の力も相当必要です。読者は「このマンガは面白いらしい」という確証があれば、ストレスがかかっても読んでくれます。なければ無料でも読んでくれない。ただ「面白いマンガさえつくっていればいいんでしょ」だと埋もれてしまうんですよ。

浅井:編集者は、面白くするためにどうするかを作家さんにアドバイスしなければならないので、この面白さはどこからきて、どうすれば再現できるのか、それを具体的な言葉にできたほうがいいです。配属されるやいなや、それを求められ、ときには大御所の作家さんにも向き合わなければいけません。個人的にはその訓練を、もっとしておけばよかったと毎日後悔しています(笑)。

浅井さんは就活のとき、どんな準備をしていましたか?

浅井:僕は基本的に「自分が好きなものを明確にして、それのどこが好きで、面白くするとしたらどうすればいいのか」を用意して、面接でも答えられるようにしていました。

大西:それは意識高いな……(笑)。

高野:真面目だなぁ……。僕は就活のとき、面接で『ワールドトリガー』が好きなことをアピールしていましたが、面接官とすごい議論になって(笑)。『ワールドトリガー』がどう素晴らしいのか、滅茶苦茶バトルしていました。

大西:個人的には、学生の間に準備しておくべき、絶対的なスキルのようなものはとくにはないと思っています。ただ入社して求められるのは、明確なマニュアルがない世界で、自分一人で考えて正解を見つけていくことなので、そういう意味では、「なんとなく」ではなく意識的に、自分自身で考えて成し遂げた経験があるといいのかもしれませんね。

大西さんは就活の思い出はありますか?

大西:そもそも僕は「少年ジャンプ」志望でもなく、「週刊プレイボーイ」などに入れたらいろんなことできそうで面白そうだな、くらいのフワッとした感じでした。つまりそんな曖昧な感じでも入社できたということです(笑)。個人的な意見なんですが、集英社は何か面白いと思ってもらえるところがひとつでもあれば、採用してくれる懐の深い会社なんだと思います。就活生の皆さんには自分の魅力を素直にアピールしてもらえればいいのではないかなと思います。

それでは最後に、「自分も『鬼滅の刃』のような大ヒット作をつくりたい」と意欲を燃やす就活生へアドバイスをお願いします

浅井:僕は『鬼滅の刃』のヒットは、そのまま吾峠先生の努力の結果だと思っています。そういう意味では先ほども言った通り、「面白さ」とは技術と努力でつくることができると信じ、そこにたどり着けるように自身を高めていくしかない。それは作家さんも編集者もそうですし、それをやり通す覚悟が必要だと自戒を込めて思います。

高野:『鬼滅の刃』はある種、偶然の産物です。吾峠先生という究極の才能、ufotableさんという素晴らし過ぎる制作会社、声優さんたちの腕、プロデューサーたちの慧眼、様々なものが奇跡的に合わさってできています。いろいろな人が関わっているので、我々ができるのはとにかく手を打つこと、読者が何を考えているか思いを巡らすこと、そこで妥協をしないこと。エンタメの領域が広がっている昨今、クオリティに妥協すると読者には絶対にバレてしまいます。『鬼滅の刃』がその中でチャンスをものにできたのは、関わったすべての人が妥協を許さなかったからです。だからヒットをつくるためにどうするかより、その場に置かれたときに、とにかく熱意を持ち続けることが大事だと思います。そして大体のことは熱量でカバーできます。「頑張る」という熱量を常にキープし続けることが大事だと思います。

大西:集英社は、本当に若者が自己実現できる環境が整っていると思います。非常に優秀なクリエイターの皆さんが集まってくれる土壌があると思いますし、その方たちを応援するシステムもしっかりあります。大ヒット作品を生み出してみたい、やる気のある就活生の皆さんは、ぜひ集英社を志望してもらえればうれしいです。