SPECIAL 01

ヒットコンテンツを育てる。

- 作家と作品のために -
ジャンプ編集長に聞く

1968年の創刊から半世紀以上。「週刊少年ジャンプ」(以下「ジャンプ」)は数々の人気作を生み出してきました。いまも『ONE PIECE』『僕のヒーローアカデミア』などの超巨大コンテンツを抱えながら、『Dr.STONE』『呪術廻戦』といった新たな大ヒットを生み出し続けています。「ジャンプ」とはいったいどんな場所なのか?中野博之編集長に話を聞きました。

2000年入社。『BLEACH』『魔人探偵脳噛ネウロ』『トリコ』などを担当。2017年より現職。

作家はもともとすごい存在。
支える編集者の役割は?

(右)創刊から50年超。毎週月曜日発売。

(左)『少年ジャンプGIGA』おもに新人の読切を掲載
する増刊。年4回刊行。

次々とヒット作が生まれる「ジャンプ」。
その編集者は新人作家とどう向き合っているのでしょうか?

まず「ジャンプ」には「こうしなければならない」というルールはありません。仕事の進め方も打合せの内容もすべて各編集者にまかされます。編集者は担当する作家に合わせて自分のやり方で進めるので向き合い方は「人それぞれ」としか言いようがないんですね。
ただ前提として、私たちはすべての作家がすごい才能を持っていると確信しています。というのも、マンガは描き上げるまでに大きなハードルがあるからです。私も昔、マンガを描こうとしたことがありましたが、完成させることができませんでした。だから描き上げて持ち込んだり賞に応募する作家は、すでに偉業を成しとげているんです。そんなすごい作家の才能を、どう磨いていくのかを考えるのが編集者の役割だと思います。

とくに決まったマニュアルがあるわけではなく、
作家によって様々なアプローチが
あるということでしょうか?

マニュアルはありませんが作家とのコミュニケーションが大切です。質より量というか、とにかく打合せを重ねて試行錯誤して、お互いの共有部分を増やしていく作業になります。とくに「どこがいいのか」を、きちんと言語化して伝えることが大切です。例えば絵だったりキャラクターだったり台詞だったり、あるいは作家自身の雰囲気だったり。自覚されていない方も多いので「ここがあなたのストロングポイントです」と伝え、それをふたりで共有できれば、作家はより成長できると思います。作家が内に秘めているすごい力を、編集者が引き出すイメージですね。

「ジャンプ」の新人作家の多くは
「増刊デビュー」→「本誌読切掲載」→「連載開始」という形でステップアップして
いくことが多いです。まず「デビュー」の段階で編集者はどう関わっていますか?

デビューのためには「手数を増やすこと」が大切です。マンガを1本描くことは本当に大変で、最初に面白い作品が描けても、次の2本目が描けなくなる場合があります。そこを描き続けてもらうために、編集者はどうアドバイスすればいいかを考えます。例えば初期は難しいテーマよりも作家の気分が盛り上がる好きなものを優先して描いてもらうこともあります。マンガを描くスピードが上がり完成させた作品が増えるほど作家の強みもわかってきます。そしてこれはデビュー後の読切を描く段階でも同じですが、ジャンプの新人は大ヒットを目指す方が多いので、自身のハードルが高く、それが足かせとなって描き上げられない方もいます。そこをきちんと「ここが面白い」「これがクリアできれば次のステップにつながる」と伝えて、完成まで導くことが編集者の役割です。最初から完璧なものを求めるのではなく、数年のスパンで考える。理解してもらった上で経験を積んでもらう。それが成長につながるんです。

読切を経て、いよいよ連載という段階での
編集者の役割は?

これまで培った作家の強みをふまえた上で、連載会議に向けて作品をつくっていきます。人気が期待できて、長く続けられそうな企画やキャラクターが求められるので大変です。デビュー前から積み重ねてきたものを、ここにどれだけ込められるか、が勝負になります。
連載会議には3話分のネーム(簡単な絵とセリフで描かれたマンガの下書き)を提出します。実は1話目より、2話目のほうが難しいです。1話目は「すごいマンガが始まった」「続けて読みたい」と思わせるわくわく感や、主人公たちキャラクターの魅力を描きます。
2話目は1話目よりもさらなる主人公の魅力を見せられるか、ストーリーの引きをつくれるか、がポイントです。連載継続を左右するのは2話目と言っても過言ではありません。
過去のアンケートで「これをやったら人気が上がった」「こうしたら落ちた」という事例を参考にするときもあります。しかしデータに沿ってつくるのか、それを超えて新しいものを考えるのかは作家と編集者が打合せして決めていくものです。

作品を育てるために。
そしてさらに大きくするために。

いよいよ始まった作品を
ヒット作に育てていくための秘訣や
方法論はありますか。

それは私が教えて欲しいです(笑)。ヒット作品とは「読者や時代に求められているもの」と言うこともできますが、それは狙って描けるものではありません。
「こうしたら売れるだろう」という予測で描かれた作品よりも「これが描きたい」「思うがままに描いたらこうなった」という欲や業が前面に出ている作品のほうが、最終的にヒットになりやすいと思います。ただ好きなものばかり描くと読者が離れるし、読者に合わせると好きなものばかり描けない、そのバランスを取るのはとても難しい。しかしごく稀に読者と作家の欲が100%合致する作品があります。それこそが大ヒットするのだと思います。そのためにも作家は、自分の描きたいものは譲らないで欲しいですね。もちろん「好きなものを描いていればいつか時代に合うかも」ということではなくて、好きなものを読者に届けるための戦略やテクニックが重要ですが。

編集者ができることはなんでしょうか?

編集者はアンケートを見て考えることが多いので、データを元に「これでは人気が取りにくいです」とか、作家を型にはめがちなところがあります。しかしそれだとさきほど挙げた、作家が描きたい本当の面白さが削られるので、作家の核をどう守り、傷つけずに読者に届けられるかを考える必要があります……が、難しいですね。まるで柔らかい豆腐を崩さず運ぶような感じです。アンケートは様々な分析の角度があるので、単純に人気だけを見ればいいというものでもなくて……。データは見つつも、そればかり気にしても面白いマンガはつくれないと思います。よく「『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴・著)は王道だから子どもにも受け入れられて大ヒットした」と言われますが、必ずしも王道だけの作品ではないんですよね。王道と言われる普遍的な部分を持つ反面、台詞や絵柄、キャラクターには「いままでのジャンプにはなかった」新しさが備わっていたのだと思います。

(右)ジャンプコミックス 全23巻

(中)ジャンプコミックス 現在『週刊少年ジャンプ』連載中

(左)ジャンプコミックス 現在『週刊少年ジャンプ』連載中

「鬼滅の刃」のお話がでましたが、
編集者と編集部はヒットに向けてどのような後押しをしていますか?

安定した人気を得られるまでは作家と担当にまかせています。アニメ化などのメディア化が決まると「メディア担当」がついてふたり体制で監修業務を進めていきます。マンガの連載は担当編集が主導しますが、アニメの脚本やグッズの監修、コラボプロジェクトなどのかじ取りは「メディア担当」が担い、作家の考えを代弁します。さらに副編集長もひとり加えチームをつくります。例えば『呪術廻戦』(芥見下々・著)だと、これまでの担当編集に加え『ハイキュー!!』(古舘春一・著)でメディア化経験の豊富な編集が「メディア担当」としてついています。彼らが中心となって、いかに仕掛けていくかを考えるんです。
『呪術廻戦』のヒットの一因はアニメツアーでの先行配信があったからだと思いますが、そこですさまじいクオリティのアニメをお見せできたので、スタートから大きな話題をつくることができました。私が新入社員の頃はマンガで人気さえ取れたら、メディア化さえすればヒットするという構図がほとんど。しかしいまはそう単純ではなく、メディア化後も作家、社内外を交えてトータルで作品をプロデュースすることが求められます。編集長の私も製作委員会に出席してプロジェクトに関わっています。大変な仕事ですが、プロジェクトが機能すると、かつての比ではない広がりが生まれます。『僕のヒーローアカデミア』もその好例です。率直に言うと利益自体はいまのほうがずっと大きいですね。

(右)JUMP j BOOKS 作中の女性キャラクターを取り上げた短編小説集。

(左)集英社ムック 『ONE PIECE』をとことん楽しむ エンターテインメント・マガジン

編集部以外の集英社各部署はどのような
関わり方をしていますか?

社全体の連携は昨今、非常に強くなっています。
『ONE PIECE』を例にあげると月に1回「ONE PIECE社内会議」があり、ジャンプ編集部はもちろん、jBOOKS、Vジャンプ、最強ジャンプ、ライツ、コンテンツ事業部、宣伝部、販売部、広報部、デジタル事業部……と、様々な部署から30人くらい出席します。

「ONE PIECE熊本復興プロジェクト」の一環として設置された。

そこでコミックスの発売やメディア展開を全部共有して、広報リリースや今後の予定を立てています。『ONE PIECE』というタイトルに、社内だけでもこれだけの人数が関わっているんです。
そしてそのかじ取りをしているのが編集部の作品担当・メディア担当です。まだ年次の浅い若手が、社外を含め何百人も関わる『ONE PIECE』をどう広げていくのか? アニメも映画も宣伝もタイアップ企画もSNSも熊本の銅像まで、全部把握してコントロールするんです。もちろん上司もチェックしますが、大きな予算を配分して責任を持つことになります。
『ONE PIECE』はあまりに大きなコンテンツなので、マンガ担当とメディア担当の他に「マンガのメディア担当」というスタッフもついています。コミックスのカバーの仕掛けや「ONE PIECE magazine」の制作などを担当しています。いまはその三人の担当が密に連携して、尾田先生との会議も毎週やっています。そこで尾田先生のご意向を細かく確認するんです。

メディア化が決まっていない作品に編集部、
会社としてどのようなバックアップをしているのでしょうか?

いまは「ジャンプ」で人気の作品だから、すべての人が知っているという時代ではありません。面白いマンガをどう知ってもらうかにも力を入れています。一番わかりやすいところだとSNSの活用ですね。「ある程度続いている作品はメディア化以前の作品でもTwitterのアカウントをつくる」とルール化しています。ツイートの頻度や内容、それによってどう広がっていくかなどを研究しています。
あとは動画です。YouTubeの「ジャンプチャンネル」では、連載第1話や読切をボイスコミックにして公開しています。マンガを読むことは思っている以上にハードルが高く、とくに若い人だと短い動画の方が手軽で好まれる場合が多い。なのでファーストタッチのハードルをいかに下げられるか取り組んでいます。ただ動画はマンガの魅力を100%知ってもらうツールとしてはまだまだ工夫の余地がありますね。YouTubeは友達感覚の番組が人気ですが、公式にやるとどうしても宣伝みたいに映ってしまう。とはいえジャンプも10年間テレビ番組をやってきた知見があるので、次の一手を探しています。

ジャンプの風土
編集者の育ち方

何か新しいことをやるときは担当から
アイデアが上がってくるのですか?

担当が企画を立ち上げたり、上からアドバイスをすることもあります。とはいえ企画書みたいなカッチリしたものではなく、雑談や相談から「こういうことをやってみたいんです」「じゃあ、一度やってみなよ」と進むのが「ジャンプ」の文化です。失敗したら「上手くいかなくて残念だったね」くらいで、トライ&エラーを大切にする風土があります。

「ジャンプ」編集部が一番大事にしているものはなんでしょう?

ずっと掲げている「新人主義」「アンケート主義」です。これが「ジャンプ」の強さを支えていて、スタッフ全員が大事だと思っています。新人の新連載が一番の企画であり、それが爆発したときこそ雑誌もパワーアップするということは、これまでの歴史が証明しています。そして何より新人作家と打合せを重ねてマンガをつくるのは楽しい仕事で、それを一番に考えていい土壌は本当に素晴らしい。結果が必ずしも伴わないところは難しいですが(笑)。

「アンケート主義」というと競争が激しそうな
イメージもあります。

同じ雑誌をつくっている仲間でありつつ、その中で人気を奪い合っているので競争意識はあります。ジャンルが近い作品同士で対抗心を燃やしたり、同期に先に新連載を獲得されて悔しくて「アイツの担当作品に勝ちたい」と神社に神頼みに行ったり(笑)。しかし「人気」という明確な基準があるので、「面白いマンガをつくったら勝ち」という誰もが納得できる競争です。そこにはギスギスした派閥や上下関係はありません。

競争意識が強い中、マンガをつくるための情報共有はされるのでしょうか?

これまで蓄積してきたアンケートや売上などのデータは、編集スタッフ全員が見ることができます。それ以外の口伝というか、「昔はこういうものが面白かった」といった歴史の共有が課題ですね。コロナ禍の状況と時代の流れもあり、飲み会で先輩・後輩が語り合うこともできませんし。いまはスタッフのLINEグループを活用しています。
昔は先輩は後輩に何も教えず「黙って盗め」という風潮がありましたが、いまはきちんとノウハウを教えています。あとは去年から始めた「ジャンプの漫画学校」も大きかったと思います。これは新人作家にレジェンド作家や編集部が持つ技術をお伝えして、少しでも自分のマンガに役立てて欲しいという施策です。我々編集者自身の成長にも役立っています。さらに副編集長の齊藤が主導してつくった入門書『描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』も同じような流れで生まれました。

実際に配属された新入社員はどのように指導されるのでしょうか?

ジャンプは基本的に4~5つの班単位で動いています。毎号の目次ページで編集後記を書いている3~4人がその週の進行を担当する班です。仕事は班の先輩に教わるので自然と連携が強くなっていきます。それぞれ班長がいますが、班員たちにとってはそこが最初の壁になります。というのも、掲載したい読切や連載のネームはまず班長に提出するんです。OKであれば会議に回されますが、レベルに達していないと班長が判断すると差し戻されます。そこで意見やアドバイスも受けながらマンガのつくり方を教わっていくんです。ただ、いまは在宅作業が多く、以前のように隣の机で細かく教わることが難しい。そこをどうフォローしていくかが課題ですね。

連載を担当するのはいつごろですか?

新入社員は4月に入社すると2か月ほどの研修を経て6月に配属されて編集部の業務を覚えていきます。すぐに持ち込みも受け始めるので新人作家の担当になるのはあっという間です。そして10月頃になると、いよいよ連載中の作家を先輩から引き継ぎ担当することになります。

(右)ジャンプコミックスDIGITAL 全13巻

(左)ジャンプコミックス 全74巻

新人編集者はベテラン作家につく場合が
多いのですか?

それはケースバイケースです。ただトップ作家の担当になると仕事の流儀やマンガへの意識とか、編集者が得るものは膨大です。その仕事ぶりに触れるだけで必ず成長します。私が初めて担当した作家は『世紀末リーダー伝たけし!』の島袋光年先生で、その次が『BLEACH』の久保帯人先生でした。この両先生に鍛えていただきました。

若手編集者の時代に、特に役に立った、
あればよかったと実感している知識やスキルはありますか?

役に立ったスキルはあまりありません。足りないと思ったのは既存作品のインプット量ですね。学生時代はそれなりに本もマンガも読んでいたつもりでしたが、もっと読んでおけば、作家にバリエーションのある具体的なアドバイスができたのではないかと。いまはネットで古今東西、様々なコンテンツに触れられる時代です。若いうちは「必読本」を探すよりも、乱読でいいので大量にインプットするといいと思います。作家は連載を始めるとインプットする時間がないので、そこを編集者に補ってもらいたい。流行っている作品、最近の面白い作品の情報だけでも作家に知っていただくんです。少しでも作家の脳の肩代わりができるといいですね。

良い編集者の資質とはなんでしょう?

「丁寧であること」だと思います。仕事でも人付き合いでも、常に丁寧にする意識を持ちたいですね。あとは我々出版はエンタメ業界なので、エンタメを愛することです。それは作家だけではなく、作品に関わっているすべての人をリスペクトすることでもあります。そうやって人を愛して自分も愛されるレジェンド編集者が先輩にいっぱいいます。いい編集者は作家や作品を愛しているから、自分も作家たちに愛されるのでしょうね。

集英社文芸単行本
市井の人々の姿を通じて、人生の尊さを伝える傑作長編。

仕事のやりがい、楽しさ

入社した際、特にやりがいを感じたことは
何ですか?

飲み会の幹事でしょうか(笑)。自分でも好きだし、右に出るものはいないと思っています。さすがにいまはそういう時代ではありませんが。少し前に読んだ宮本輝先生の『灯台からの響き』(集英社刊)で「就職一年半でわかったことはねぇ、雑用仕事ができないやつは大きな仕事もできないってこと」という言葉があり、当時の自分もそういう気持ちだったのだと思います。
仕事はチームでやるもので、集英社というチーム、編集部というチーム、作家と二人三脚のチーム……と、様々なチームでものをつくっていきます。その際、全員が同じ能力である必要はありません。チームの中で自分の役割は何なのか、自分だからできることは何なのかを見つけると、それがやりがいになっていくのだと思います。集英社はひとつのコンテンツを会社全体で盛り上げていくスタイルなので、どの部署にいても作品に関わる仕事ができます。さらに編集部に入ると早々に担当を持つので、若い内から大きな仕事を任されます。このやりがいも集英社の仕事の魅力ですね。

ではジャンプ編集部としての魅力も教えてください。

先程も言いましたが、新人作家とマンガをつくることは本当に楽しく、そこにパワーを使うことが認められていることですね。しかもありがたいことに、ジャンプは多くの新人作家が目指してくれる雑誌なので、より多くの新しい才能に出会うことができます。そこでヒット作品を生み出すことができたら、きっと人生で一番の成功体験を味わえると思います。

出版業界を目指す就活生にメッセージをお願いします。

私が面接をして感じるのは「皆さん、出版社を受けるのに意外と本を読んでいないのかなぁ」ということです。なので本をいっぱい読むことが出版社に入る近道だと思います。私が集英社を受ける際は、当時流行っている本やマンガを「面接ではこの作品のことを言おう」と読んで、それが対策になっていたと思います。自分が好きなものを読んで、それを熱く語れる人はこの業界に向いていると感じますね。
私としてはもちろん、皆さんに出版社を目指していただけるのが一番うれしいですが、出版に限らずエンタメ業界は本当に楽しいです。作家やクリエイターとともに何かを生み出すことは、歴史に残るものに自分も関わる気持ちよさがあります。ぜひエンタメ業界で活躍していただき、いつか一緒に仕事をしましょう。