SPECIAL 02

コンテンツの新しい価値を育てる。

「少年ジャンプ」とシャネルの
コラボレーション

MIROIRS –
Manga meets CHANEL
Collaboration with白井カイウ&出水ぽすか展

担当編集者×広告部担当者対談

「週刊少年ジャンプ」に2016年から2020年まで連載された『約束のネバーランド』(原作・白井カイウ、作画・出水ぽすか)。世界累計発行部数が3200万部以上を突破した、超人気作品だ。そしてこの作品に注目したシャネルが、作家チームとタッグを結成。2021年の春と秋に特別展覧会を開催し、描き下ろしマンガ『miroirs(ミロワール)』も発売。大きな話題を呼んだ。マンガ、アート展示、そしてラグジュアリーファッションブランド。異業種をつないでモノづくりを完成させた編集者と広告担当に、プロジェクトの裏側や、新たな試みを通じて感じたことを語ってもらった。

少年ジャンプ

2012年入社。政治経済学部卒。入社以来、少年ジャンプ編集部にて『トリコ』『ONE PIECE』のほか、白井カイウ・出水ぽすか作『約束のネバーランド』を連載立ち上げから終了まで担当した。現在は宮崎周平作『僕とロボコ』の連載担当。

広告部メディア
プロモーション第1課
係長

2005年入社。商学部卒。入社以来、広告部に所属。シャネルはじめ多くの企業を担当し、クライアント企業と各編集部をつなぐ橋渡し役として活躍。

CHAPTER 01プロジェクトが始まる
きっかけ

今回のスペシャルコラボはどのようにして誕生したのですか?

永井
最初はシャネルさん側からアイデアを投げられたのがきっかけです。そもそもシャネルと集英社は、女性誌の編集記事だけでなく、広告を通じても何十年もおつきあいを深めてきた実績があり、広告部はあらゆるご相談をいただくとても近しい立場です。ご存知のようにシャネルは、世界でも唯一無二のラグジュアリーブランドですが、同時にアート支援活動にも力を入れていて。日本での活動は、これまでは音楽、写真といったジャンルが中心でしたが「日本のマンガ文化をぜひアートとして支援したい」「集英社のマンガで何か一緒にできないか」というお話でした。

その段階では何か具体的なリクエストはあったのでしょうか?

永井
作家さんに作品を描き下ろしてもらうことと、東京と京都で特別展覧会を開催することぐらいでした。お話をいただいたのが2019年の秋。2021年の春には形にしたいとのことで、どの作家と何をつくるかは決まっていませんでした。

白井カイウ×出水ぽすか両先生の『約束のネバーランド』チームに
白羽の矢が立ったのはなぜだったのでしょうか?

永井
2019年末に、ジャンプ系4誌が合同開催している「ジャンプフェスタ」を、シャネルの方々にご覧いただきました。特にシャネル日本法人会長のリシャール・コラス氏や社長のギエルモ・グティエレス氏が、日本のマンガへ理解が深かったのは大きいと思いますね。「やはり集英社のマンガでお願いしたい」、「中でも『約束のネバーランド』の先生方にやっていただきたい」という話になりました。

フランスで出版された『約束のネバーランド』の特装版。発売の際には現地でイベントも行われ、熱狂的なファンも多いのだとか!

連載立ち上げから担当をしていた杉田さんは、
その話を聞いてどう思いましたか?

杉田
「ジャンプ作品とあのシャネルがスペシャルコラボ?」と驚きました。何しろこちらは少年マンガをつくっていて、ファッションの世界は門外漢。それがオートクチュールも手掛ける世界的な高級ブランドとコラボすることになるとは、思いもよりませんでした。
永井
そうですよね(笑)。ただ僕ら広告部としてはひとつ、勝算がありまして……。それは、マンガ編集者のなかでも杉田くんは「おしゃれな人」というイメージがあったんですよ。
杉田
え(笑)!? それは初耳ですね……。
永井
シンプルながら、自分なりに洋服を着こなしている印象があるので「杉田くんならば、アートやファッションの世界にも理解があるだろう」と。勝手に注目していました(笑)。
杉田
恐縮です……。でも僕はともかく、ジャンプ作品のなかからシャネルさんにご指名いただけてとても光栄でした。じつは、『約束のネバーランド』は日本でも人気ですが、海外、特にフランスの読者の方はかなり早い段階から応援をしてくださっていたんですよ。出水先生の耽美で繊細な絵、そして白井先生の流麗なネーム回しも、マッチしたのかもしれません。

世界的な大人気作品を連載中にオファーする流れとなりました。
担当編集として、スケジュール調整はどうしましたか?

杉田
それが実は、タイミングがぴったりだったんです。『約束のネバーランド』は2020年6月に完結予定でした。永井さんには「その後、約半年間でしたら、次回作制作前のタイミングなのでプロジェクトに参加できそうです」とお伝えして。
永井
シャネル側の「2021年の春に完成」という希望時期と重なったんですよね。
杉田
ご縁を感じる偶然でしたね。作家両名にとってもこのチャンスは得難い経験になると思い、受けさせていただきました。フランス取材へ行き、創業者のガブリエル・シャネルゆかりの地や、ブランドの最新コレクションを拝見する予定も決まり、楽しみにしていたのですが……。
コロナ禍により、
作品世界に新たな展開が!

そんな中で起こったのが、2020年からの新型コロナウイルスの
世界的なパンデミックでした。

杉田
はい。フランス渡航が不可能になりました。当初は「ガブリエルの伝記」的な物語をイメージしていたものの、現地の空気に触れられないとなるとそれも厳しいですし……。ガブリエルさんの逸話や功績はまるでマンガのように面白いものばかりだったので、それを描けなかったのは白井さんも僕もいまだに悔しいですね。

現場サイドとしてはピンチだったと思います。
ブランドとジャンプ編集部をつなぐ広告部としては、どんな思いでいましたか?

永井
そうですね。思わぬ情勢となってしまって心配しました。でも、プロジェクト発足当初からの「自由にやって欲しい」という、シャネル側の思いは杉田くん側に伝え続けていこうかなと。
杉田
「ガブリエルの伝記にしばられる必要はない」という話は、コロナに関係なく当初からあったんですよね。
永井
そう。シャネルは自社でもクリエイターを抱えるブランドですから、創作への理解の深さは抜きん出ています。むしろ「創業者を崇め奉るだけの作品は止めて欲しい」「既存の枠を超えた魔法を期待している」と。
杉田
ありがたいですが、とてつもない“腕試し”です(笑)。読みやすさを考えて、最初の部分だけガブリエルの伝記的なミニストーリーを入れようかとも思ったものの、それすら必要ないと。その上、フランスには行けないですし(笑)。僕も作家達も「どうしよう?!」という危機感を覚えましたが、それが逆に創作のエンジンを加速させることになりました。そしてブランドについて学ぶなかで、「シャネルの生み出したアイテムや精神が、現代日本でいかに息づいているか」という物語全体を貫くテーマが誕生しました。
永井
面白いアイデアでしたね。僕は先生方と杉田くんの進む方向を信じ、シャネルの方々との意思の共有を図る役に徹していました。

CHAPTER 02東京を舞台にマンガ制作、
そして展覧会の準備も同時に始まる

マンガ『miroirs(ミロワール)』は3つのお話からなっています。
主人公は3人とも日本人で、それぞれ「想像力の可能性」「自分らしい生き方」、
「自由」をモチーフに物語が展開されていきますが、どのようにつくり上げたのでしょうか?

杉田
先生方ももちろんですが、僕自身もガブリエル・シャネルについて、映画『ココ・アヴァン・シャネル』はじめ数々の公式書籍を読み、徹底的に学びました。シャネルの皆さんや本国のスタッフ、ガブリエルの当時のエピソードを知る方にお話を聞いたり、VRで彼女の住んだアパルトマンの中を探索したりもしましたね。集英社のモード誌「SPUR」編集長からのアドバイスも得るモノが多かったです。限られた状況でしたが、皆さんのご厚意で日本で出来る限りの取材ができて感謝しています。
そんななかで、女性が「お飾り」とされていた時代に、シャネルが起こした数々の衣服の発明と精神的な革命など、いまもブランドを貫く哲学を知り感動したんです。逆境の中で想像の翼を広げ、誰よりも自由に自分らしく生きた反骨の人、ガブリエルの強烈なキャラクターに強いインスピレーションを受けて、3つのモチーフが生まれました。

「現代の日本が舞台」というアプローチは
どうやってつくり上げましたか?

杉田
渡仏できず、限られた制作期間しかない。これではフランスを舞台にした物語を描くことはできないと判断し、「日本から見たシャネル」「シャネルと日本女性との関係性」を突き詰めて考えていくことにしました。白井先生は実際にお店へ足を運んで香水を購入し、それぞれの香り方の違いを試したり、出水先生はブランドが起用しているモデルさんや、愛用している方のInstagramをチェックしたり、僕自身もシャネル愛用者の知人を探して取材を重ねました。そうしたなかで「現代の日本の女性のなかに、いかにシャネルの哲学が息づいていて、シャネルが切り開いた価値観のなかで生きているか」ということに気づいたんですね。たとえば、肩紐によって両手が自由になるショルダーバッグ、黒一色のコーディネート、動きやすいドレス、など。どれもいまとなっては当たり前かもしれませんが、シャネルによって発明された、女性が自由で自分らしい生き方を応援するために生み出されたアイテムです。現在日本で、女性が社会で活躍する時代が来た陰にも、彼女の功績がある。そういった発見のなかから、物語のテーマが生まれていきました」

主人公たちが殻を打ち破り、新しい自分を手に入れる第3章。ブランドの哲学とマンガの表現が融合した作品に!

永井
第3章は男の子が主人公の話でしたが、あれは結構苦労したのでは?
杉田
はい(笑)。ガブリエルは20世紀に女性の解放という偉業を成し遂げました。ただ、白井さんと話す中で「次は男性が男性らしさという檻から解放される時代なのではないか?」という話になったんです。女性向けブランドとのコラボですが、少年ジャンプですし、少年が主人公の話を入れたいよね、という趣向もあり。難しくてかなり苦労したテーマですが、その分、思い入れのある一編になりました。
永井
なるほど。
杉田
通常のマンガ制作は、作家がすでに持っている描きたいテーマを広げていきます。しかし今回は「まず与えられたテーマから書きたいものを探し、掘り下げる」という、普段ジャンプで行なう創作とは全く別の試みで、実はとても難しいんです。そんななかで貪欲に取材を重ねて物語のかけらをすくい上げ、これだけの物語をつくった白井先生、出水先生の凄みには感服しました。マンガ家の底力って計り知れないと思いましたね。
同時並行した展覧会。こちらにもこだわりが。

コミックス発売の時期には銀座のシャネル・ネクサス・ホールで展覧会も開催されました。

永井
作品制作と展覧会の準備は同時進行だったので、スケジュールは厳しかったですね。広告部としてはひたすらハラハラして待つばかりで……(笑)。
杉田
先生方にとっても意欲作。ギリギリまで粘ってしまってすみませんでした(笑)。
永井
シャネルの皆さん、展示のプロデュースをしてくださった方々とマンガ制作の進行状況を逐一共有しながら臨機応変に進めていました。展示チームのアイデアにも感動しました。三話からなるお話に合わせて3つのブースに区切って、鏡(miroir)を配し、シャネルのパリ本社から手配した数々のアーカイブ品とともにマンガを見せる趣向でした。春の展覧会は銀座の都会、秋の京都は町家が会場になり、同じ日本のマンガでも、アートとして趣の違う見せ方となったのも斬新でした。

展覧会からさらに新たな発展もあったとか?

永井
僕の仕事は契約を含め、集英社の作品をビジネスとして具体的に広げる部分も担います。展覧会やコミックスの好評を受けて、出水先生が描いたキャラクターが、シャネルビューティのLINEスタンプ(2021年9月18日~12月10日まで配信)で無料配布が決まったのはうれしかったですね。シャネルでは世界初の試みだそうです。

シャネル・ネクサス・ホールで開催された展覧会。ブランドとマンガの世界観が見事に調和された展示が評判となった。

「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」にも出展。伝統的な京町家の土間や蔵を舞台にした展示は、好評を博した。

CHAPTER 03プロジェクトを振り返って。
ラグジュアリーブランド
×マンガという
新しい価値の創造

結果として意義あるプロジェクトだったと思います。お二人はどう感じていますか?

永井 顧客を絞り込むラグジュアリーブランドと、ユーザーのすそ野が広いマンガは相容れないように思えますが、「ストーリーがある」という点では共通項も多いんです。ビジネスとしてもまだいろんな可能性があると思います。それにマンガの編集者が、こうした部署横断のプロジェクトにも意欲的だとわかったのもうれしかったですね。

杉田
広告部からチャンスをつないでもらい、ファッション誌の協力も得ることで、ハイコンテクストな一冊ができました。おそらく、マンガだけの会社、ファッション誌だけの会社だと、こういった強烈な化学反応を起こす作品は生まれることはなかったと思うし、作家さんにこんな貴重な体験を提供することもできなかったですね。結果、読者の皆さんに楽しんでいただけるコンテンツづくりができましたし、総合出版社ならではの醍醐味を味わえたプロジェクトでした。
永井
そう言われるとありがたいです。出版社内の広告営業って、就活生からは「何をしているところ?」と思われることも多いので。社内のカルチャー同士をつなげ、クライアントと協働しながら次世代に向けて新しい価値観をつくり出す。最終的に、編集部もクライアントもwin-winの形にできる。こういう創造性もある仕事だと、興味を持って志望してもらえたらうれしいですね。
杉田
今回、永井さんから「自由に」というプロジェクトの理念を共有し続けてもらえたおかげで、コミックスの仕様にも、ひそかな試みがたくさんあるんですよ。
永井
え、そうなの?
杉田
実はこの本の中にはシャネルにとって特別な数字である「5」を色んな所に隠しているんです。N゜5、そしてガブリエルの愛称である“ココ”(55)の5。発行日は特別に5月5日にしました。ガブリエルは数秘術など魔術的ジンクスを願掛けとして使っていたそうなので、この本でも同じように数字で験を担いでみたんです。
永井
まさかの!
杉田
さらに、5ページと55ページのノンブルは金で印刷しています(笑)。金はシャネルのブランドカラーのひとつなんですよね。また、コミックスにかけてある帯の縦の幅は55ミリ。これも「ココ」の名にかけての遊び心です(笑)。
永井
いやあ、驚きました。自分ではかなり読み込んだつもりでいたんですが。さすが「杉田くんはどんな場所でもクリエイティブな仕掛けを楽しめる人だ」と、前々から目をつけていただけあります(笑)。

細部までこだわったコミックス。作中の色使いはフランスにあるコミック文化、バンド・デシネの風合いも意識。その上でマンガ好きだけではなく、幅広い人々に親しんでもらえる一冊に。

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