【2017年9月10日】新宿の居酒屋にて不動産ファンドで働く友人から地面師詐欺事件について詳しく教えてもらう。事件の背景にある不動産開発の構造的な問題と、「本人確認」という営為の根源的な難しさについての解説が非常に面白く、飲み会の途中で新庄耕さんにLINEをする。
【翌9月11日】渋谷のセルリアンタワーのラウンジで、新庄さんと打合せを行なう。「地面師が主人公のクライムノベルを書いてください」というこちらの依頼を快諾いただく。1時間半ほど話し合い、その場で新庄さんがA4の紙に万年筆で、物語全体の構造とキャラクター配置のラフを書き上げる。「主人公のイメージは誰?」と新庄さんに訊かれ、「綾野剛さんはどうでしょう?」と答える。
【2018年1月16日】霞が関で不動産業者向けの「地面師対策セミナー」を新庄さんと共に受講。以降、複数の不動産のプロフェッショナルや、実在の大物地面師と対面した経験のある人物などへの取材を重ねる。
【2018年4月23日】『地面師たち』連載初回の第一稿が届く。冒頭の場面の迫力と推進力に感嘆し、新庄さんの代表作になることを確信する。
当時のメモや記録を読み返し時系列で書き出しましたが、連載立ち上げ時には社会現象と呼べるほどの大ヒットになるとは想像だにしていませんでした。
編集者の業務内容は、アイデア出しや入稿作業はもちろん、裁判の傍聴に同行、取材旅行のコーディネート、専門家へのアポ取り、参考文献の収集などなど、多岐にわたります。「作家さんと一緒に面白い作品をつくり上げる」という目的のために、自分ができること・やるべきことをすべて遂行する――というのが仕事の実態です。目的を果たすために手段を選ばない作中の地面師たちと、その点では似ているかもしれませんね。