


クローズアップ
Special Contents 02
“かけあわせ”で広がる、進化する「SPUR」編集の仕事
ファッション誌編集者の仕事や企画のたて方とは? どんな人が向いている?
モード誌「SPUR」の編集部員2名のクロストークでお届けします。
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「SPUR」編集主任
2010年入社。新入社員で「SPUR」に配属され、15年在席。2022年7月~2024年2月に自己啓発休業を取得し、イギリスの大学院へ留学。Webやオンラインストア「SPURSHOP」も担当。
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「SPUR」編集主任
2012年入社。「Seventeen」に4年、「non-no」に7年在席し、現在「SPUR」3年目。モデルの写真集を担当した経験もあり。
Chapter 01
企画力が光る!
「SPUR」の“かけあわせ”テーマの裏側
日本発のモード系ファッション誌である「SPUR」。ハイエンドなファッションをそのまま紹介するだけではなく、カルチャーやエンタメなどの旬のテーマ・人物と、ファッションを“かけあわせ”たテーマが多いのが特徴的。ひとつの特集で幅広いトピックを楽しめる新鮮なページが、多くの読者を惹きつけています。
板垣
「SPUR」は、社会に対して開けた雑誌だと思います。「社会問題や、世界で起きていることに目を開こう」というフィロソフィーが編集部内で受け継がれています。例えば、6年前に担当した「AIに恋して」というファッションテーマ。当時話題になり始めていたAIに注目し、この先AIはどのように進化するのか、映画『her/世界でひとつの彼女』のようにAIと恋をする未来はあるのか、実際に研究者の方々にインタビューをしてページをつくったんです。

2019年10月号 「AIに恋して」 スペシャルムービーも公開中
6年前とは驚きです! ChatGPTが友だちや話し相手になっている現在を予言したようなテーマですね。
板垣
雑誌って、知識や好奇心の扉など、いろいろな扉を開けてくれると思うんです。最新のファッションを届けるだけでなく、読む人の世界を広げるお手伝いができたらいいなという思いがありますね。
門名
大河ドラマ『光る君へ』主演の吉高由里子さんを撮影・取材したときは、古典の面白さを再発見できるようなテーマにしたいなと。紅(くれない)、鶯(うぐいす)、橡(つるばみ)など、源氏物語をはじめとする古典から取り出したキーワードをたて、吉高さんがまとうファッションにも落とし込みました。吉高さんへのインタビューも古典に詳しい方にお願いしましたね。この企画のために古典を勉強し直したのですが、そのおかげで、学生時代は苦手だった古典の面白さに気づき、『光る君へ』をより楽しく観ることができました。自分自身の“好奇心の扉”も開けることができる、それも “かけあわせ”テーマの面白いところかもしれません。

2024年3月号 「吉高由里子と古典の世界へ」
何をかけあわせたテーマをやるのか、それは編集部内の会議で決まるのですか?
板垣
そうですね。会議前に編集部員それぞれが「こういうテーマをやったら面白いんじゃないか」という提案をA3サイズのプランシートにビッシリ書くんです。しかも手書きで!
門名
それが伝統なんですよね(笑)。ほかのファッション誌は、ファッションページと読み物ページで担当者が分かれていることが多いのですが、「SPUR」はファッションはもちろん、インテリア、音楽、映画、グルメ、ビューティ……全員が垣根を超えてあらゆるジャンルを担当します。
板垣
常に広くアンテナをはる必要があるので、私生活と仕事の境目がなくなってしまうことも。編集者が見つけた“ちょっといいもの”を紹介する 「スモールグッドシングス」 というWeb連載を編集部員全員でやっているのですが、いま身につけているものも、いままで行った場所やお店も、ほぼすべてそこで紹介しています(笑)。
門名
“遊び=仕事の情報収集”でもありますね。ある編集部員がオアシスのイギリス公演のチケットに当たり、「久々にUKロックが来ているんじゃないか」と、オアシスの曲名とファッションをかけあわせたテーマが生まれたことも。自分の興味のあることをフットワーク軽く楽しむことが、仕事にも繋がります。
板垣
グルメ、クラフト、カルチャーからエリアガイドまでまとめた『一歩先を行く、ソウル最前線』大特集では、編集部員5人が韓国に飛んで、現地在住のスタッフの方々のお力も借りつつ、自分たちで取材しました。

2025年6月号「一歩先を行く、ソウル最前線」 SEOULベストグルメ2025 68選
日本発のモード誌として創刊。
「SPUR」は2026年で37年目に

平成元年に創刊。スーパーモデル、ハリウッド女優、日本やアジアのスターなど、時代を象徴するファッションアイコンたちが表紙を飾ってきました。
Chapter 02
“かけあわせ”のアンテナを張りつづける
ファッション誌編集者の楽しさと大変さ
情報はいろいろなところにあると思うのですが、普段から意識してチェックしているものは?
板垣
以前、オカモトレイジさんを取材したときにおっしゃっていたのですが、“いまはインターネットがストリートになっている”ので、ネット上でもいろいろなものを見聞きするようにしています。ポッドキャストもYouTubeもニュースサイトも、海外のメディアに目を通すように心掛けています。
それは、もちろん英語で、ですよね?
板垣
はい、そうですね。
門名
板垣さんは、自己啓発休業という会社の制度を使ってイギリス留学をしていたんですよね。以前、世界中から大きな反響をいただいた企画に、プロバレーボール選手・石川祐希さんのミラノでのファッション撮影があって。とても素敵な現場だったのですが、私は英語がちょっと苦手なので、現地スタッフとのコミュニケーションに四苦八苦しました(笑)。
やっぱり、英語は話せたほうがいいですか?
板垣
集英社のほかのファッション誌と比べて、「SPUR」は海外のスタッフやモデルと仕事をすることが多いので、話せるとコミュニケーションが円滑になりますね。ファッションデザイナーのマーク・ジェイコブスさんに直接インタビューしたときは、たくさんいいお話を聞けたので、英語を勉強していてよかったなと思いました。でも、語学力は後から身に付きますし、まったくマストではないです!
ファッション誌の編集者は...
熱量 × 好奇心 × 優しさ

好奇心があれば、なんでもぐんぐん吸収できる。大変なことも多々あるけれど、情熱を持って本気で向き合えば、すべてが覆るくらいに楽しくなります!
ファッションデザイナーに会えたり、コレクションや展示会で最新のトレンドに触れることができたり、ファッション編集者だからこそ経験できることもたくさんあるのでは。
板垣
コレクションを生で見られるのは貴重だなと思います。コレクションって、服だけでなく世界観や空間含めての総合演出。モデル、ヘア&メイク、音楽はもちろん、会場の椅子の配置にも意味があるんです。ぎゅうぎゅうに椅子を詰め込み人を密集させることで高揚感が生まれたり、あえて席をゆったり離し、限られた人だけを招くことでオートクチュール感を出したり……それもデザイナーやクリエイティブディレクターが目指す世界観を表現するための、パッケージのひとつなんです。
門名
コレクションは「ファッションは服だけではなく、360度の総合芸術である」ことを実感できる場所。その世界観を体感することで「こういうメッセージを伝えたいんだな」と、コレクションの解像度もぐんと上がるんです。

2025年7月号 「2025-‘26AWコレクション 『主張するエレガンス』の正体」
ファッション誌の編集者に向いているのはどんな人だと思いますか?
板垣
熱量と、好奇心と、優しさを持っている人でしょうか。忙しくはあるので、好奇心を持って本気でやったほうが面白い。さらに「SPUR」は、社会と人に優しいまなざしを注ぎ続けることを志している雑誌。私はそれが誇れるところ、素晴らしいところだと思っていますが、ファッションにはサステナビリティの面での様々な問題も。ファッションが抱える矛盾を認めたうえで、よりよい未来を「諦めない」ということをずっと目指していきたいです。
門名
矛盾があるなかでも自分が信じる方向に舵を切る、世界がよくなることを諦めない強さを持つ、その心の強さや体力は大事かなって思います。それに加えてときめきも必要かな。「これは好きじゃない」「これはできない」と思い込まず「気になるかも」「面白いかも」「やってみたら新しい扉が開くかも」と心のフットワークが軽いほうがきっと楽しい。あと、ポジティブな柔軟性も大事ですね。「こういうページをつくりたい」と思っても、打合せを重ねてどんどん変わっていき、考えていた通りにはならないことがほとんどなので(笑)。でも、だからこそ、雑誌づくりは面白くもあるんです。
ファッション雑誌の編集者として「楽しい!」と一番感じるのは、どんな瞬間ですか?
門名
現場でいい写真が撮れているときは「最高!」とテンションが上がります!
板垣
「こういうビジュアルをつくりませんか」とスタッフの皆さんに伝えて話し合い、力を合わせてつくっていく。ときに大変なこともありますが、やっぱり楽しいですよね。ひとつのテーマを終える頃にはみんなが仲よくなって、その後食事に行ったりして。
ファッション誌の編集者は...
熱量 × 好奇心 × 優しさ

好奇心があれば、なんでもぐんぐん吸収できる。大変なことも多々あるけれど、情熱を持って本気で向き合えば、すべてが覆るくらいに楽しくなります!
ファッション誌の編集者は...
ときめき × 柔軟性 × 体力

私は「雑誌が好き」という自身の原点も大切にしています。そのエネルギーはなかなか消えない火種となり、それを拠り所に心を燃やし続けることできるから!
Chapter 03
フィールドは雑誌以外にも。
“かけあわせ”て拡大する「SPUR」の現在地
紙の雑誌以外にも、「SPUR」はWeb、YouTube、Instagram、TikTok、オンラインストアなど、いろいろなものと“かけあわせ”ながら発信の場所を広げています。板垣さんはオンラインストア「SPURSHOP」も担当しているんですよね。
板垣
集英社には「リーマルシェ」「エクラプレミアム」など、雑誌にひもづいた通販サイトがいくつかあります。「SPUR」も同様に、通販サイト「mirabella」内で「SPURSHOP」を2024年にスタート。バイヤーと一緒に展示会をまわり、販売するアイテムをセレクトしたり、デザイナーさんとお会いして「SPURSHOP」限定品を製作したりしています。雑誌の編集とはまったく違う仕事なので、新しい発見がたくさんあります。営業の方とシビアな目線で“物を売ること”について話し合ったり、普段見えないものが見えてくることも多いです。
SPUR × Web
エディターのWebリレー連載も大人気

ファッションだけでなく、カルチャーにグルメや旅行まで、エディターが日常で見つけた“ちょっと素敵で役に立つお気に入り”を紹介する連載は、ヒット記事多数。
門名
最近は、“雑誌をつくって終わり”ではなく、“つくったものを届ける”までが編集者の仕事になっていますね。SNSで情報を拡散したり、YouTubeでオリジナル企画を行なったり、メディアとしてのタッチポイントを広げ、雑誌の読者以外の層にも届けることも、業務の一環に。紙の雑誌のほうが“作品をつくっている”感は強いのですが、WebやSNSは、反響を数字で可視化しやすいため、当たったときの喜びはあります。
板垣
「SPUR」はイベントを開催することもあり、イベント会社におまかせではなく、きちんと編集部が関わっています。私自身もタイムスケジュールを切ったり、司会をしたことも(笑)。仕事のジャンルがどんどん多岐にわたってきているのを感じています。
門名
これを読んでいる皆さんが入社する頃には、もっとシームレスになっているかもしれませんね。
この先、やってみたいことはありますか?
門名
先ほど、板垣さんは海外のメディアから情報収集すると言っていましたが、私はポッドキャストと文芸誌から情報を得ているんです。そこで語られている個人的なことが、社会的な問題を考えるきっかけやヒントに繋がることはとても多いと感じていて。「SPUR」でもそんな“個人的なもの”を発信できたら。例えばエッセイなど、文芸誌とはまた違った形で表現できるのではないかなと。
板垣
最近、大人の学びたい欲が高まり、ファッションの歴史に興味のある人が増えているのを感じています。そんな人たちと勉強会のようなものができたら面白そう。いろいろな人が集まって、フラットに意見交換できる場所をつくれたら、私も参加したいです。
門名
「SPUR」をはじめとするファッション誌は、仕事の領域がますます広がっているからこそ、やってみたいこともどんどん増えていきますね。
SPUR × Web
エディターのWebリレー連載も大人気

ファッションだけでなく、カルチャーにグルメや旅行まで、エディターが日常で見つけた“ちょっと素敵で役に立つお気に入り”を紹介する連載は、ヒット記事多数。
SPUR × イベント
2024年、伊勢丹新宿店で
期間限定ショップも

「SPUR」35周年時のスローガン「Bring a Smile」と三越伊勢丹グループのサステナビリティ活動の理念「think good」が共鳴。伊勢丹新宿店に「笑顔が生まれるデパート」が出現。
関連部署相関図




