メディア化の仕事 メディア化担当者対談インタビュー TVアニメ『東京喰種 トーキョーグール』ができるまで

アニメ化・ドラマ化などのメディアミックスは、作品を多くの人に知ってもらうためにとても有効な手段です。『東京喰種 トーキョーグール』もTVアニメのヒットをひとつのきっかけに大ブレイクした作品。そのアニメ化プロジェクトに深く関わった2人の社員が、作品のメディア化についてお話します。

『東京喰種 トーキョーグール』(石田スイ著)2011年から2014年まで『ヤングジャンプ』で連載されたダークファンタジー。2014年7月にTVアニメ化されたのをはじめ、ゲーム・舞台・WEBラジオなど様々な形でメディア化されている。2017年夏には、実写映画も公開予定。現在、『ヤングジャンプ』にて続編にあたる『東京喰種 トーキョーグール:re』が連載中。

【Period 01】「兆し~ヒットの予感~」

――――まずは『東京喰種 トーキョーグール』(以下『東京喰種』)のアニメ化を意識しはじめたタイミングを教えてください。

松 尾:もちろん担当編集者として、アニメ化できればいいなという想いははじめから持っていました。具体的に“兆し”のようなものを感じたのはわりと早い段階で、連載がはじまって半年も経たない頃――この作品の読者層がわかってきた頃ですね。当時の『ヤングジャンプ』はいまよりも男性の読者が中心の雑誌でした。でも『東京喰種』は、ほかの作品と比べて女性からの人気が非常に高かったんですよ。それはつまり、雑誌の購買層ではないところにも、読者がたくさんいるということで、『ヤングジャンプ』ではとても珍しいケースでした。そこに編集長から「このマンガを売り込みにいってみよう」という提案があり、いろいろなアニメ制作会社や映像制作会社などでプレゼンテーションをさせていただくことになったんです。それが最初の動きでしたね。

――――編集部から自発的に仕掛けたのですね。

 :じつは、こういうケースはそう多くはありません。通常はアニメ関連の会社のプロデューサーさんなどから集英社にまずお話をいただいて、そこから企画が進行していくという流れがほとんどですので。

――――編集部とライツ事業部が最初にコンタクトを取ったのはいつ頃ですか?

 :編集部がその売り込みをはじめた頃でしたね。当時、私はライツ事業部のライセンス課という部署に所属していたのですが、プレゼンテーションには編集部とライセンス課のスタッフがチームをつくって臨むことになりました。そこで私が『東京喰種』のライツ担当者として、本格的に関わるようになったしだいです。

――――編集部とライツ事業部は、どのように仕事を分担しているのでしょうか?

松 尾:編集部はひと言でいうと「原作をつくって発信する」部署ですね。才能ある作家さんを支える立場として、あれこれ打合せをしたり、取材に同行したりして、良い作品を生み出していただく。

 :それに対してライツ事業部は「原作を守る」部署です。版権管理の立場になるのですが、原作が作家さんの望まない形で使われてしまわないように関係各社との間で使用条件を決めたり、そこから発生するお金の面の管理をします。つまりは、いまお話しているアニメ化などの企画が立ち上がった際、じゃあどういう条件でそれを実現していくか……ということを交渉して決定していくのがライツ事業部の仕事になります。

【Period 02】「胎動~アニメ化交渉~」

――――プレゼンテーションでの各社の反応は?

松 尾:幸いなことにかなり興味を持っていただけたようで、いくつかの会社から「ぜひやってみたい」というお返事をいただきました。

――――どのようにアニメをお任せする会社が決まったのでしょうか?

松 尾:それぞれの会社からの「うちに任せてもらえたらこんなことができます。こういうアニメにします」というご提案をもとに、こちらで検討させていただきました。

――――検討にあたってのポイントは?

 :『東京喰種』に関して、そもそもこの作品の本質をテレビの地上波で誤解なく表現できるのか、という懸念がありました。

――――たしかに、原作には刺激の強い描写もたくさんありますね。

松 尾:はい。ただ、この作品の本質はそういった表面上の残酷描写ではありません。そうしたシーンを通して作者の石田スイ先生が本当に伝えたいものが何なのかをくみとり、それを誤解なくアニメとして表現していただけるかどうか。そこが、われわれにとって最も重要なポイントでした。

 :そうなんですよ。そこの判断を間違ってしまうと、ただ残酷描写だけが際だってしまうアニメになり、こちらが望まない話題性が突出してしまう結果にもなりかねません。そうなると作品の価値そのものを貶めることになってしまいますから……。アニメ化というのはそのあたりのさじ加減がとても難しいのです。かといって、じゃあ刺激の強い描写をいっさい排除してアニメ化、という選択肢もまたありえない。それではこの作品の根幹テーマもぼやけてしまいます。

松 尾:私もその点をしっかり判断できるように、当時はいろいろとアニメを観て勉強したり、経験のある先輩に話を聞いたりしました。マンガ原作を映像化する際に、他作品ではどういう基準を設けているのだろうと。

 :最終的に、とても魅力的なご提案をいただいた会社に制作をお任せすることになりました。

――――検討過程で、編集部とライツ事業部で意見の食い違いなどはありませんでしたか?

松 尾:いえ、林さんは頼れる先輩なので(笑)。お互いの立場で建設的に意見を交わすことはあっても、対立なんてことにはならないですね。

 :立場は違えども作品をヒットさせたい、という想いは一緒ですから。編集担当とライツ担当で見るべきポイントは違っていても、結局のところどちらも「作家さんの代理人」であることに変わりはありません。そこをしっかりわきまえたうえで判断すると、自然と同じ方向の意見になることが多いですね。加えて、これは集英社のライツ事業部の伝統なのかもしれませんが、著者の意向を最大限に尊重したいという向きは常にあります。だから、まずは作家さんと日々接して最も近いところにいる編集者、及び編集部がどうしたいかをしっかりヒアリングして、それを実現するために私たちが動くというスタンスになります。

【Period 03】「準備~放送に向けて~」

――――アニメ化に向けての体制が整い、いよいよ実作業がはじまるわけですが、印象に残っていることは?

松 尾:準備期間が思った以上に短かったことですね(笑)。アニメ化決定から放送開始まで、実質1年もなかったんですよ。

 :1年半くらい前から始動するのが一般的だと思いますので、それと比べるとかなり短い。ですので、当初は制作サイドに「クオリティを最優先するために、放送時期を見直す方法もあるのでは?」と相談もしました。でも結果的に、プロジェクトチームの総意として「時間は短いけど、みんなその分勢いに乗って作業を進めている。だからこの熱量を保ったまま突っ走ったほうが、良いものができるんじゃないか」ということになったんです。それでそのまま予定を延期することなく、やり抜こう!となりました。

松 尾:そこからは、時間との戦いでした。体力的にキツい部分もありましたけど、それが決して嫌なことじゃなくて、むしろ楽しかったんですよ。やりがいという意味で言えば、これ以上のものはないくらいでした。

 :みんなの士気というか、テンションが相当高かったのは間違いないですね。

松 尾:期間が短い分だけゴールも見えていたし、なにより濃密だったんですよね。倍速で日々が過ぎていく感じで。それが確実に作品の糧になっているという手応えもありました。

アニメのアフレコ台本。一冊一冊に制作陣の熱い想いが詰まっています。

――――具体的にどういう仕事をするのですか?

松 尾:シナリオはかなり細かくチェックさせてもらいました。まずTVアニメの第一期は1クール(約3か月)で全12話。その中で、原作のどのあたりのエピソードまで収めるのか。連載中の作品なので難しいのですが、そこはスタート段階から石田先生のご意見・ご希望を伺いつつ、制作サイドと相談を重ねました。

 :マンガ原作をアニメ化する際の平均的な感覚だと、出版社とアニメ制作サイド間でのシナリオの打合せってだいたい週に1回、約2~3時間くらいというところでしょうか。でも『東京喰種』の場合はそれがだんだん週2回、週3回となってきて……(笑)。先ほど申し上げたように準備期間が短かったという事情もありますけど、それくらいチームのやりとりが白熱していたという証左でもあります。

松 尾:いわば、お祭りに近い状況でしたね。良いものをつくるために、それぞれの分野の一流クリエイターが集まり、議論をぶつけ合う。その過程では新鮮な発見がいっぱいありました。そうなると、休日で家にいても自然とアニメのことを考えるんですよ。「明日、出社したらこういう提案をしてみよう」とか(笑)。この短い期間、大変は大変でしたけど、私自身もそんな場で鍛えられて少しは成長できたんじゃないかと思っています。

【Period 04】「反響~ヒットの余波~」

――――そうして2014年の7月にTVアニメ『東京喰種』の放送がはじまりました。放送前と放送後で何か変化はありましたか?

松 尾:いちばんは、幸いにもアニメが成功してくれたおかげで、作品の知名度が大きく上がったということですね。アニメの影響はしっかり原作にも跳ね返ってきて、コミックスを手に取ってくださる方も確実に増えました。それに“マンガ”という手法ではなかなか伝えきれないことも、アニメでは動きや音を使ってわかりやすく伝えられるという驚きもありました。

 :マンガの文法とアニメの文法って違うんですよね。じつは準備段階で最も難しい仕事のひとつがそこのすり合わせで、出版社側の感覚とアニメスタッフ側の感覚をしっかりリンクさせていくことが、私たちライツ事業部の大きな使命なんです。そして、つくったものが、きちんとヒットという結果として報われると、つぎからそのリンク作業が格段にスムーズに運ぶというケースがありますね。文法が違う者どうしなんだけど、お互いの信頼関係ができてきますので。

松 尾:やりやすくなるということでは、小さなことですけど『東京喰種』というタイトルを“トーキョーグール”と読んでくださるようになったことですね。連載初期は「読めない」ってよく言われたので(笑)。

【Period 05】「展望~さらなる飛躍~」

――――『東京喰種』をさらに発展させていくための展望や課題などは?

松 尾:難しいのは、この仕事って答えがないんですよね。ある程度のセオリーはありますが、何が正解なのかは、やってみて結果が出るまでわからない。その中でいろいろな判断をし続けなくてはならないというのは、いまでも悩みどころです。ただ、自分の中での判断基準は、このプロジェクトに携わったおかげでだんだん明確になってきました。昔の仕事を振り返ると、「ああ、いまだったらもっと違った判断ができたな」と思うこともあります。でも、いまさらそんなこといっても仕方ないので、今後はそうした反省をしっかりと新しい仕事に活かしていきたいですね。

 :ライツ事業部の人間として実感しているのは、『東京喰種』が成功したおかげで、『ヤングジャンプ』のほかの作品のメディア化オファーが増えてきているということです。それはつまり「集英社もしくは『ヤングジャンプ』と組めば『東京喰種』のような面白い仕事ができるんじゃないか」と考える方がこの業界内に増えてきたということです。その期待や信頼を裏切らないような仕事をこれからも続けていくこと。そうした使命感は募る一方です。

松 尾:『君の名は。』という劇場アニメが空前の大ヒットになっていますよね。あの作品のスゴいところは、普段まったくアニメに興味のないような人や、劇場に足を運ばない人が、こぞって観にいって話題にしているところではないでしょうか。その域まで到達するのは、とても大変だし難しいことだけれど、それができたら本当に面白いと思うんですよね。『東京喰種』がゆくゆくはそこまで達するために、まだまだやらなきゃいけないこと、考えなきゃいけないことはたくさんあります。味方はだいぶ増えてきたと思うので、そういった方たちの力もお借りして、作品のさらなる躍進のために努力していきたいです。

――――最後に、就活生へのメッセージをお願いします。

松 尾:私はマンガの編集部にいるので、マンガ編集者に興味のある方に向けていうのなら、「雑誌」を読む習慣を忘れずに、ということでしょうか。コミックスで読むことに慣れてしまうと、どうしても自分のお目当ての作品やその周辺ジャンル以外にはなかなか辿りつけないような気がしますし、雑誌にはその中で切磋琢磨する文化もあります。雑誌が売れなくなっているのは、ライフスタイルの多様化を考えると自然な流れかもしれませんが、作家さんも編集者もその中で成長できる仕組みは非常に大きいというのが、働いてみて実感したことのひとつです。マンガ業界に興味があるのであれば、まずは「雑誌」に興味を持ってもらうことは大切かなと思います。

 :出版社に入って良かったことのひとつに、自分の関わった仕事の評価が目に見えやすいということが挙げられると思います。どの部署に配属されたとしても、仕事を頑張ってそれが大きく実れば、書店で平積みされたり、ネットニュースに取り上げられたりと、わかりやすく成果を実感できる。もちろん出版社以外のどんな仕事も、世の中に大きな影響を与えているものですが、それを実際に目にする機会が多いのは私たちの恵まれているところではないでしょうか。そういう意味で、やりがいの大きい仕事ですので興味を持っていただければうれしいですね。
※対談は2016年10月に収録しました。

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