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小説すばる編集部

稲葉 努

2012年入社

文芸書編集部
副編集長

栗原 佳子

1998年入社

校閲室

城 裕也

2013年入社

文芸編集者&校閲者インタビュー

ヒット作『みかづき』が
生まれた舞台裏

「王様のブランチ ブックアワード2016大賞」、「2017年本屋大賞」第2位、「第12回中央公論文芸賞」などを受賞し話題沸騰中!「小説すばる」連載から単行本刊行にいたるまでを担当者が紹介します。

『みかづき』
(森 絵都著)

「教育」をテーマに、塾を経営する家族三代の奮闘、愛憎、そして昭和から現代へとうつりゆく時代のうねりを描いた感動の長編小説。

「小説すばる」

『みかづき』の初出は月刊小説誌の「小説すばる」。1987年創刊以来、人気作家の連載や気鋭の新人の作品を掲載。「小説すばる新人賞」は次世代作家の登竜門として注目される。

———『みかづき』は「小説すばる」で2014年5月号より2年間にわたり連載されました。担当編集者の具体的な仕事とは?
稲葉:私が作者である森絵都さんの担当についたのが2013年の秋。入社2年目でした。じつはそれ以前に、「小説すばる」で森さんに三代にわたる家族の物語を書いていただく話はまとまっていて、すでに森さんと前任者でいくつかの取材も進めていた状態での引き継ぎでした。ですから、私自身が作家に執筆を依頼する、という過程はなかったわけですが、当初は経験も少なかったので、前任者にならいつつ、試行錯誤しながら仕事にあたっていました。通常、執筆前にすべて取材を済ませて、その後は原稿のやりとりのみ、という場合が多いのですが、『みかづき』に関しては非常に長い作品ということもあり、連載途中でも何度も森さんとともに取材先へ足を運んだり、資料を集めたりしました。そうやって書いていただいた原稿の、入稿・校了作業はもちろん、挿絵のイラストを依頼するのも編集者の仕事です。
———長期連載は担当編集者としてもプレッシャーを感じますか?
稲葉:通常、長期連載では“物語がちゃんと収束するのかな”とか不安になることもあるのですが、森さんからいただく原稿のクオリティが毎回非常に高いので、その心配はまったくなかったですね。むしろ森さんに編集者として育てていただいた時間だったと感じています。

連載初回は2014年5月号掲載。最終回は
2016年4月号。

———集英社の文芸部門は、ひとりの作家に対して雑誌・単行本・文庫と、担当編集者が異なります。それぞれの役割とは?
稲葉:まず雑誌の担当編集者は、簡単に言えば、一番最初に作品を読む“読者”と言えると思います。つまり僕がお伝えする感想が、『みかづき』において森さんが最初に受けとる感想になるわけです。ですから、僕がこの作品をどう読んで、どう感じたかを、作家にできるだけ丁寧にお伝えすることが、最初の重要な仕事だと思っています。
栗原:私の場合は雑誌・文庫・単行本の順ですべて経験しているのですが、雑誌担当のときは、意識をほぼ100%作家に向けていましたね。いまより出版業界に余裕がある時代だったこともあり、作家から良い原稿をいただくことだけを考えて過ごしていました。逆に文庫では、意識のかなりの部分を読者に向けるようになりました。いまでは書きおろし文庫も増えましたが、多くの文庫は、すでに単行本として世に出てある程度評価が定まっている作品を、より広く読者に売ってゆくための廉価版です。ですから、店頭で目について買いたくなる本とはどういうものかをずっと考えていました。そして現在、単行本では、作家と読者に意識を50%ずつ向けているようなイメージでしょうか。雑誌で発表された作品を、装丁をつけて一冊の本の形で初めて世に出すわけです。作品によりそいつつ、どうすればより多くの人に興味を持ってもらえるか、書店さんへのアプローチやパブリシティなど、販売部や宣伝部と相談しながら進めています。
———パッケージといえば、『みかづき』はかなり厚い本ですね。
栗原:そうですね。472ページありますし、もっと薄い用紙を選択することもできたのですが、作品が三世代にわたる大河物語で非常に読み応えがあるので、単行本化にあたってはある程度の厚みを出していったほうがよいのでは、と販売部とも相談のうえ決めました。

写真の5冊はすべて帯が違う。受賞や版を重ねるにつれて帯のコピーやデザインを刷新。

———物語の内容も、雑誌連載時と単行本で大幅に変わることもあるのでしょうか。
栗原:『みかづき』に関しては入稿前に著者が文章に手を入れてくださいましたが、内容的にはほとんど変わっていません。作品によっては連載が進むにつれて話に齟齬が生じてしまったり、全体を通して読んだときに、このエピソードをもっと膨らませては、と思う場合も出てくるので、そのときは著者に修正をご提案したりします。
———『みかづき』は登場人物も多く、作中には様々な流行や世相が反映されています。単行本化にあたって、校正・校閲作業にはどんな苦労がありましたか?
城:『みかづき』は半世紀にわたる大長編なので、作品の内容を時系列で整理するために年表をつくりました。登場人物の年齢や作中の出来事以外にも、『アタックNo.1』のアニメが放送されていたとか、「ハンカチ王子」がフィーバーしていたとか、作中にさりげなくちりばめられた情報もすべて盛り込んで、その時代の出来事として適当かどうか、一つひとつ事実確認をしていく必要がありました。
栗原:巨人、大鵬、卵焼きとか(笑)。
稲葉:じつは、雑誌連載中には気づかなかった誤りも、この年表で発見されたんですよね。
城:この作品には“教育”という大きなテーマがあるので、日本の教育制度の変遷についても調べて、年表に落とし込んでいます。私自身、教育学部出身で、塾講師のアルバイトや、教科書出版社勤務の経験もあったので、今回はそういったことも校閲作業の役に立ちました。
栗原:じつは稲葉君も教育学部出身。そして私を含め、3人とも教員免許を持っています。
稲葉:そう。たまたまですが(笑)。

単行本化に向けて作成した年表。A3用紙5枚にビッシリと書き込まれている。

———最後に、文芸作品に関わる喜び、やりがい、仕事への思いなどを教えてください。
稲葉:やはり担当した連載が一冊の本になり、多くの人の手に届いているという実感ですよね。今回は森さんが謝辞に私の名前も書いてくださって、祖母がとても喜んでくれたのもうれしかったです(笑)。
城:校閲はよく、“間違い探しをする仕事でしょ”と言われるのですが、“作品のあら探しをする”のではなくここをこうすれば、いまの設定をいかしたまま、つじつまがあわせられるのでは、とあくまで“作品によりそって”仕事を進めていくことが大切だと考えています。校閲者は作家と直接お会いする機会はあまりないのですが、“熱心な校閲さんにあたってラッキーだった”とか“細かく確認してくれてありがとう”と、メッセージをいただいたりすると、頑張ったかいがあったなと思いますし、今回のように関わった作品が色々な賞を受賞すると、うれしく思います。
栗原:本当にそうですね。私が新人時代に先輩に言われて印象的だったのが“編集者は作家との共通言語を持て”という言葉。先輩が意図したのは、“編集者は作品について、作家と同じ土俵で語れるようになれ”ということだったと思います。作家性をきちんと理解したうえで、作家が何を書きたいのか、同じ景色を見られるようにたくさんの知識を持つ。そして、それを読者のみなさんにも面白いと思っていただける形で伝えてゆくことが、編集者の役目だと感じています。作家と読者の懸け橋になれる編集者でありたい、と思っています。

稲葉 努

PROFILE

すばる編集部を経て現在、小説すばる編集部所属。おもな担当作品は『狭小邸宅』(新庄 耕)、『あのこは貴族』(山内マリコ)など。

城 裕也

PROFILE

教科書出版社勤務を経て入社、校閲室所属。おもな担当作品は『マスカレード・ナイト』(東野圭吾)、『星に願いを、そして手を。』(青羽 悠)など。

栗原 佳子

PROFILE

小説すばる編集部、文庫編集部を経て、現在、文芸書編集部の副編集長を務める。おもな担当作品は『求愛』(瀬戸内寂聴)、『慈雨』(柚月裕子)など。