書評家 大森 望の作品解説
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『ここはボツコニアン』作品解説

書評家 大森 望の作品解説

〈小説すばる〉での連載開始から5年。宮部みゆきの大河(?)冒険ファンタジー、『ここはボツコニアン』全5巻がついに完結した。国民作家・宮部みゆきが5冊もかけて、はたしてどんな大作を仕上げたのか?
 ……と、大上段にふりかぶっても、脱力系のタイトルですでにネタは割れてますね。版元サイトの紹介によれば、「ボツコニアンとは〈ボツネタ〉(*主にテレビゲームネタ)が集まり積み重なって成り立っている世界。そんなできそこないの世界をより良い世界にするため、〈長靴の戦士〉として選ばれたのが双子の主人公ピノとピピ。長靴の戦士の使命は、冒険と戦いの旅の中で、回廊図書館の6つの鍵を集め、6冊の「伝道の書」を見つけること(後略)」
 というわけで、いまや文壇有数のヘビーゲーマーである宮部みゆきが、持てるゲーム知識を総動員して書きはじめたのが、コメディタッチの脱力系ロードノベル『ここはボツコニアン』。作中に作者がひんぱんに顔を出し、プレイ中のゲームのうんちくを語ったり、映画や小説の思い出話に脱線したり、登場人物に突っ込まれたりする破格かつゆる〜い語り口が本シリーズの特徴。
旅の進展につれて、異世界ファンタジー、(二軍バージョンの)三国志、ホラー、SF……と、ジャンルの境界を(文字どおり)横断してゆくのも『ボツコニアン』ならでは。
 4巻の途中から5巻にかけてはSF編なので、アシモフ、ハインラインという名の(ロボットならぬ)ロボッチが大活躍。さらに、サヤインゲンならぬ莢さやニンゲン(ジャック・フィニイ『盗まれた街』が元ネタか)が登場するのはいいとして、その一部は高度に進化したスナップエンドウタイプで、ひそかにロボッチと入れ替わっているとか、そのリーダーはグレッグ・イーガンで、「フクカンは、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアともうしマス」とか言われると、もうどこから突っ込んでいいのやら(誉めてます)。作中で熱を込めて語られるゲームは、そのときどきに作者がプレイしているタイトルなので、最終巻のメインは昨年発売のバリバリの新作ソフト、PSVita用の『ソウル・サクリファイスデルタ』。あ、新しい……。
 ちなみに、宮部さんと知り合ってもう四半世紀になりますが、同年代のもの書きの中でゲームにハマったのは、宮部さんがいちばん遅かったくらい。綾辻行人や我孫子武丸なんかと『ドラクエ』だ『弟切草』だ『ストII』だとゲームネタで盛り上がってるときも宮部さんはニコニコ聞いてるだけだったのに、1994年発売のスーファミ用アクションゲーム『スーパーメトロイド』に突如大ハマリ。すべての空き時間をゲームに投入しはじめたかと思うと、たちまち『トルネコの大冒険』や『タクティクスオウガ』にどっぷり浸かってやりこみ系ゲーマーの道をまっしぐら。 「七つ下がりの雨と四十過ぎての道楽は止まぬ」などと申しますが、30歳すぎてのTVゲームもそれに該当するのか、20年後の今もきっちり新ハードで新作をプレイし続けているところがすばらしい。僕はここ数年、ゲームはほぼ引退状態なので、『ボツコニアン』に出てくるゲームもやったことないのがほとんど。『ソウル・サクリファイス デルタ』なんか、思わず動画サイトでラスボス戦のプレイ動画をチェックして、グラフィックのあまりの進歩に過去から来たタイムトラベラー気分を味わいました。  じゃあ、今のゲームを遊んでないと『ボツコニアン』を楽しめないかというと全然そんなことはなく、「昔はちょっとしたマニア的プレイヤーだったけど最近は半ば隠居した感じで、かつて熱中したゲームの思い出話をするのが楽しいなあという方まで」読者対象に含まれているというので安心して読んでいると、いきなり太くてでっかい文字で、「あなたにとって、もっとも思い出深いラスボス戦を教えてください」と作者から質問され、『ドラクエIII』の大魔王ゾーマ戦を懐かしく思い出したりするわけです。マヒャド、こごえるふぶき。いてつくはどう。大変だったなあ……と遠い目になりつつ、「ゲームにとって〝ラスボス戦〟とは何か?」に思いを馳せるのもまた楽しい。
 思えば宮部さんは、『ブレイブ・ストーリー』の幻界、『ドリームバスター』のテーラ、『英雄の書』『悲嘆の門』の無名の地、『過ぎ去りし王国の城』の絵の世界……とさまざまな異世界を描いてきたわけですが、ボツコニアンはそれらのA級世界のいわばB面。裏側だからこそ自由に本音を語れるところもあって、実は宮部さんの物語観の真実がこのシリーズにあらわれている……かもしれない。
 などという話は抜きにして、作者の肉声の混じる融通無碍自由闊達な語りとともに、ピノとピピの冒険をゆったり楽しみたい。5冊もあるのか。それはちょっと……と思う人もいるでしょうが、意外とどこから読んでも大丈夫です。
おおもり・のぞみ(書評家、翻訳家)
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