石田
受賞作を読ませてもらいましたけれど、大変おもしろかった。とにかく描写する力があるのがいいですね。
朝井
ありがとうございます。
石田
ぼくはいろいろな新人賞の選考委員をやっていますが、新人である場面をきちんと描写できる人というのはほとんどいないんですよ。その点朝井さんは、描写力がきちっとしている。これまでに小説はかなり書いていたんですか。
朝井
いつか小説家になれるといいなと思って、子どものころからわりと書いてはいました。
石田
それはどこかに発表したりしたんですか。
朝井
二年ほど前、中三のときに書いたものを小説すばる新人賞に送ったことがあります。
石田
それが最初で、これが何回目なんですか。
朝井
小説すばる新人賞は二回目です。
石田
じゃ、ほかの新人賞にも数々応募していたんですか。
朝井
数々というほどたくさんではありませんけど、多分、五回、六回ぐらいかと。
石田
でも二十歳で六回応募って、なかなかいないよね。
朝井
たんに身のほど知らずだったんです。送ればどうにかなるんじゃないかみたいな気持ちでやっていたところがあるので。
石田
小説の中で、映画部の武史という子のせりふで「どうして映画好きの人って邦画好きが多いのだろう」という言葉がありますけど、本も日本のものを読んでいたんですか。
朝井
海外のものはまったくといっていいほど読んでいないですね。
石田
翻訳小説はあんまり読んでないんだ。
朝井
日本のものばかり読んでましたね。内容も重いものではなくて、学生が主人公だったりするような、それこそ『4TEEN』を読んだのは、ちょうど十四歳のときだったんです。
石田
なるほどね。ぼくらの世代だと映画は洋画、小説も翻訳物がメインだったから、その辺はやはり世代差がありますね。ところで、受賞の言葉を読むと、高校時代がすごく楽しかったみたいですね。実際に、この作品で書かれているような感じだったんですか。
朝井
ここにはたくさんのキャラクターが出てくるんですけど、そのどれにもぼくのどこかしらの部分があるというか、全員、高校時代の自分の分身のような感じがします。
石田
ぼくが最初に読んではっと思ったのは、冒頭の体育館のシーンなんですよ。体育館の二階の窓から光が差し込んできてすごくきれいだという、あの感じ。実際にバレーをやっていたんですか。
朝井
高校時代はがっつりバレーボール部でやってました。
石田
バレーボールをやっていながら、余った時間で日本の小説を読んで、新人賞に応募している男の子って、全国にもそうそういないと思うけど。そういうのは、クラブの仲間にはどう思われてたの?
朝井
いや、まったくいってなかったです。小説家になりたいというのは、普通の高校生のもつ夢ではないし、それをいったら多分「えっ?」って引かれるだろうなって。
石田
確かにそうだよね。それに、なりたいといってもなかなかなれるものでもない。
朝井
ぼくも、本当になれるとは思ってなかったですから。
石田
よく新人の人が書くので多いのは、とりあえず事故か何かで人が死ぬというドラマチックな設定から始めて、どんどんストーリーを動かしていくんだけど、朝井さんはそうしないで、一つ一つを丁寧に描写していこうとしているでしょう。なぜそう思ったんですか。
朝井
高校生って日常そのものが結構事件の連続だったというか、毎日生きることに精いっぱいだった気がして、そのことを忠実に書いてみようと思っただけなんです。
石田
その毎日生きてることが結構大変で事件だったという感じが、小説の中ではすごくきらきらしてるじゃないですか。高校時代にはそういうきらきら感があったんですか。空がすごく広く感じたり、体育館がきれいだったりという。
朝井
今思うと、美化されている部分もたくさんあると思うんですけど、やっぱり学校には何か特別なものがあって、今こうして教室にいるだけでも、それは感じます。
石田
朝井さんは、すごくいいものをもっていますね。さっきいった、情景をきちんと描写できるというのに加えて、耳がいいんでしょうね。会話のリズムとかテンポがいい。それから、この中で簡単そうにやっているけれど、五人の人物の視点で切り換えて書いていながら、そんなに違和感がない。視点を変えていく中で、全員にリアリティをもたせてきちんと書き分けるというのはすごくむずかしいんですよ。そのむずかしいところを最初から狙っているんだよね。
朝井
自分ではあまり意識していませんでしたけど。
石田
それから女性視点の文章がちゃんと書けるというのは、すごく大きい。女性視点の文章はよく書いていたんですか。
朝井
男性女性、半々くらいで、女性視点でもあまり抵抗はないですね。
石田
今あっさりといってるけど、女性視点で書けるというのは、これから仕事をしていく上で、ものすごく強い武器になるからね。
朝井
そうなんですね。
石田
これは、阿刀田高さんが直木賞の選評などでよくいうことだけれど、たとえば町を歩いていて道端に花が咲いている、そういう部分を書くだけで、あ、これはいいなという感じがする、それが小説の文章では大事だと。朝井さんには、そういうトーンがあるよね。自転車で二人乗りして町を走っている場面とか。
朝井
あの辺りは、わりと意識して書いたつもりです。
石田
何でもないシーンが、ちゃんと書けているというのは朝井さんの才能だと思うな。