−−本作は自分の前世を知っているだけでなく、人にもそれぞれの前世を見せることができる男・才谷を主人公にした、不思議でやさしい物語です。誰と誰が前世で因縁があったのかなど、ミステリーとしての切り口も新鮮ですが、最初の着想はどういうところから生まれたのでしょうか。

 どの作品もそうなのですが、僕はまず映像が頭に浮かぶんです。この小説の場合、スーツで海辺を歩く男とその隣にいる犬、近くのペンションなどが浮かんできた。「なぜ彼はそこにいるのか。そして何をしようとしているのか」……そこから物語を組み立てていったのですが、「彼は前世からの何かを探しているのでは」とふと思いついたんですね。それと、今まで書いたシリーズものでは喜怒哀楽が大きい人物を登場させていたので、今回はじわじわと感情が変わっていく人物を書いてみたかったし、読後に余韻が残るような空気感を出したかった。それらすべてをうまく取り込んで、今までとは違う世界観の作品を作りたいと考えました。

−−完成までにかなり時間をかけられたそうですが、その間にはいろいろなご苦労があったのでしょうか。

 実は第一稿はだいぶ前に出来たのですが、編集者との話し合いの中で「前世と現世が絡むことでもっと発想を広げられるのでは」と感じました。例えば前世での恋人を現世で探す場合、それはただ会いたいだけなのか、それとも添い遂げたいのか。彼女が幸せだったらそれでいいという愛情の形もあるのではないか。そんなふうに考えていくうちに、前世があるという設定を通して、いろいろな人の気持ちをもっと深く表現できると思ったんです。ただ、現世に前世をどう挿入するのかとか、どうシンクロさせるのかとか、いろいろな悩みも出てきましたが。

−−才谷は特殊な能力を鼻にかけることもなく、いつも飄々とした雰囲気を醸し出しています。とても親近感を持てる人物ですね。

 第一稿では、才谷が特殊な能力を持つがゆえにちょっと目線が高いというか、達観しているような人になっていました。でもそれでは面白味に欠けると思って、書き直しの際に才谷を他の登場人物と同じように現世で悩みを抱えていて、探し人をしているという設定にしたんです。そのことで、彼を含め関わりを持った人たちがそれぞれ前世を知った上で新しく影響しあうという、この小説ならではの人間関係が書けたと思います。

−−才谷は出会った人には縁があると考え、その人に前世を見せて共有させてもらうことで、自分が探している人を見つけようとします。前世と現世はつながっている、前世で縁があったソウルメイトとは現世でも出会うという考え方は運命論的でロマンチックですが、神永さんが目指されたのはそういう方向ではないようですね。

 そのあたりについてはかなり考えました。いつも思っていることですが、小説を書く場合、人の感情をあまりにも現実に即したものにしすぎるとドラマが発生しないんです。例えば「前世が存在する」という設定にしても、リアルな感情からすれば「そんなものはない」でおしまい(笑)。でも、小説にリアリティを感じさせられれば、それがあるという世界が成立するんです。だからと言って、前世の存在を宗教上の理論のように書いてしまうと小説にならない。僕の独自の解釈で前世のリアリティを出さないといけないので、すごく難しかったけれど、すごく面白かったですね。

−−ただ、前世の記憶はないにしても、まるでそれがあるかのような体験をしたことがある人は多いと思います。例えば、初めて見た風景なのに妙になつかしいとか、初めて会った人なのにすぐに心が通じ合うとか。

 そうなんです。育った環境だけでは説明できないことを、誰しも持っていますよね。例えば僕は飛行機がダメなのですが、心当たりなんてないし(笑)、動物の好き嫌いもそうですよね。理屈では割り切れないことを前世の記憶と結びつけたら面白いということは、書き始めた頃から考えていました。

神永 学インタビュー 1 2 3