『無頼無頼ッ!』刊行記念スペシャル鼎談

――『無頼無頼ッ!』刊行を記念して、小説、マンガ、ゲーム、というそれぞれのフィールドでご活躍されているお三方をお招きしました。それぞれの創作について語っていただきたいと思います。

矢野ぼくは辻本さんが手がけられている『モンスターハンター』シリーズの大ファンで。いつも雑誌でお顔を拝見してるんですが、こうやって直にお会いできるとは思わなかったのですごくうれしいです。さっきからミーハー全開です。


辻本そこまで言っていただけるとは。新しい小説を出版されるそうですね。おめでとうございます。


矢野ありがとうございます。まだまだ二冊目を出したばかりの、新人です。


長田コミック版『蛇衆』の作画を担当している長田です。ぼくも『モンスターハンター』は大好きなので、お会いするのを楽しみにしていました。


矢野長田さんとは打ち合わせの後なんかに、いっしょにプレイしているんです。


長田『モンスターハンター』って、今までで一番はまったゲームなんですよ。ぼくはRPGとか、一度詰まっちゃうとそれでやめちゃうタイプなんですけど、『モンハン』(『モンスターハンター』の略称)は、一度クエスト失敗になっても「もう一度!」という感じでなかなかやめられない。


矢野『蛇衆』の中に大剣を使う女性が出てくるんですけど、そのビジュアルイメージについて話したときも『モンハン』を例に出したら一発でしたしね。


長田「ゲームに出てくるような感じでアクションさせてほしい」と言われただけで、共通のイメージがバッチリ浮かびました。


――お二人の間で『モンハン』が、重要なコミュニケーションツールとして機能しているわけですね。

辻本『蛇衆』を読ませていただいたときに、太刀の大きさの表現の仕方とかがすごく面白いなと思ったんです。自分の背より高い大剣を持っているという事を迫力あふれる語り口で表現されていた。また、蛇衆六人それぞれが持っている、武器のバランスとかも興味深かったです。大剣や弓矢など『モンハン』にも通じるものがあると思って。


矢野最新作『無頼無頼ッ!』のクライマックスに出てくる強敵がいるんですがそいつなんかは、まさに『モンハン』で出てくる僕の苦手なモンスター・ティガレックスがイメージの源なんです。小説内に登場するのは人間ですが、野性むき出しでガーッと襲って来る感じとか、ぼく自身がゲーム内で味わった恐怖や緊張を再現できたんじゃないかと思います。

一人でのモノ作りと集団でのモノ作り


――現在も、アシスタントさんをあまり使われないそうですね。

長田ほとんど一人で作業してますね。チマチマ細かい絵を描くのが好きなので作業量自体は苦にならないけど、たまに寂しくなったりはします(笑)。


――小説やマンガは一人、ないしは少人数で制作されます。やはり一から十まで全部自分でやる方が、頭の中にあるものを忠実に再現できるのでしょうか?

矢野僕も一人で書き続けているわけですが、個人の嗜好や意思がダイレクトに反映される自由さを感じる反面、一人よがりになりやすい危険性も感じています。ただ、我儘のツケを払うのも自分自身というのは重々承知しているので、その辺のバランスは自分自身で意識したり編集さんとお話しながら決めていきますね。


――逆に、ゲームの様に百人単位で何かを作る場合、個人の意思はどの程度まで反映されるものなんでしょうか。

辻本他の作品では違うかもしれませんが、『モンハン』の場合は最初に定められたコンセプトに沿って、みんなでアイデア出しをするんです。なのでスタッフが思っていることがあったらその場で言えるような環境を作るように努力しています。新人であろうが、これが面白いと感じたら即発言する習慣をつけようというのは大事にしてますね。これは逆にお聞きしたいんですが、どんな風に小説やマンガを書かれていくんですか?


矢野小説の作り方ですか。簡単にたとえると、まずはスゴロクを作るんです。振り出しからのコマからあがりのコマまで、ざっくりと。その中には色々なコマがあって、そのつどイベントが起きるわけです。二コマ進むだったり、一回休みだったり、何かダメージを食らったり。そうすると、そのコマとコマの間にある空白が気になってきますよね。振り出しではこの状況だったのに、次のコマでは違った形になるんであれば、その間で何かが起こっているはずで。そこを頭の中でキャラクターに動いてもらいながら、筆に落としていくんです。


辻本頭の中で、映像が見えているんですか?


矢野そうですね。スゴロクと、そこに乗るキャラクターを作り終えたらストーリー作りの始まりです。毎日原稿を書き始める段になったら、頭の中にある舞台へキャラクターを呼び出して説明する。「きょうの原稿は、ここからここまででこんな事が起きます。ではよろしく」という感じで演技を始めてもらうというか。自分で言ってても頭おかしいなコレ(笑)。でも、始まると自分が思っていたよりもよくなる瞬間がある……という言い方も変ですが、予想を超え「あっ、そういう風に動くんだ」という事が脳内で起きる。その動きを描写していくんですね。

大切なのはテンポ


――満を持して矢野先生の二冊目となる単行本『無頼無頼ッ!』が発売されます。長田先生はカバーイラストを描きおろされていますが、本編もお読みになりましたか?

長田四時間ぐらいで一気に読みました。


矢野うれしいですね。


長田すごく痛快でスピーディーでした。


――今回は、不思議を追い求めてやまぬ商人と、無骨な侍の二人が秘境へと旅をする冒険譚ですね。

矢野映画『インディ・ジョーンズ』や『ナショナル・トレジャー』の様なワクワクする冒険ものがやりたかったんです。


――辻本さんも冒険ものの映画や小説はお好きですか?

辻本冒険ものやアクション等、テンポのいい作品は好きです。気持ちよく楽しめるじゃないですか。テンポを意識して見ることはないんですが、感覚とか本能で心地よさをチェックしている感じです。小説でも、アクションシーンはスピード感と説明のバランスが難しそうですね。


矢野呼吸といっしょというか、本当にテンポで考える感じですね。だーっと、単語だけを並べていくと息が詰まるじゃないですか。だからどこかで「はーっ」と呼吸を入れなきゃいけない。そういう感覚で、言葉の語感や並びを考えます。


――その辺は、やはりお好きな歌舞伎等を参考にされているんですか?

矢野これは歌舞伎より、ジャッキー・チェンの香港アクションに近いですね。あれは殺陣が全部テンポじゃないですか。「パンッパンッ」という効果音が、絵や動きの中心として機能している。


長田その合間にギャグが入ったり。


矢野そうそう。気持ちいいテンポって多分、マンガもゲームも小説も同じだと思うんです。ちょっとでも不協和音が出たら止まってしまうから、それは一番に気をつけなくちゃいけない事の一つだと考えています。


――最後に一言ずついただけないでしょうか。

辻本違う分野の方の考えを直接聞ける貴重な機会を得た上、非常に共感できる所がいっぱい出てきて楽しかったです。年末に最新作の「モンスターハンターポータブル 3rd」の発売も予定していますので、発売したらぜひお二人と協力プレイしたいですね。


長田モノを作るって、非常に楽しい事だと思うんです。これからも、作り手のワクワクが読者にまで伝わるような作品を作っていきたいと改めて感じました。


矢野今日は本当に、ぼくのわがままにお付き合いいただきありがとうございました。今後も、一ファンとしてお二方の作品をすごく楽しみにしています!


――ありがとうございました。読者の皆様、ぜひ『無頼無頼ッ!』をお楽しみください。

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矢野隆/やの・たかし

作家。1976年福岡県生まれ。2008年「蛇衆綺談」で小説すばる新人賞を受賞しデビュー(受賞後、『蛇衆』に改題)。「小説すばる」での連載がこの度『無頼無頼ッ!』として単行本化される。

長田悠幸/おさだ・ゆうこう

漫画家。1975年静岡県生まれ。96年「GLOCK」でちばてつや大賞を受賞しデビュー。著書に『歯車競走』『トト!』『TRIBAL 12』『天の覇王北斗の拳ラオウ外伝』(作画)『RUN day BURST』等。

辻本良三/つじもと・りょうぞう

ゲームプロデューサー。1973年大阪府生まれ。96年カプコン入社。プランナーとしてアーケードゲームやコンシューマタイトルを担当。『モンスターハンターポータブル2nd』よりプロデューサーを務める。