受賞作『マラス 暴力に支配される少年たち』工藤律子

【梗概】

 メキシコで「ストリートチルドレン」と関わり始めて、26年。最近、彼らを支援する現地NGO(非政府系組織)の施設に、中米の子どもが目立つようになった。「マラスから逃れるために母国を出た」という。少年少女を追い詰める若者ギャング団「マラス」とは? 社会のゴミ扱いされるストリートチルドレンが普通の子どもであるように、彼らも根っからの悪党ではないのでは? そんな疑問を胸に、2014年秋、マラスのせいで世界一殺人発生率が高いと言われた中米ホンジュラスの首都テグシガルパへ飛んだ。
 刑務所でのマラスメンバーのインタビューに失敗した筆者とカメラマンの篠田有史は、マラスの理解に役立つと勧められ、「元ギャングの大物」アンジェロに会う。彼は、ギャング団のリーダーに上り詰めた過去と、刑務所で信仰に目覚め、神の伝道師となった経緯を語る。
 アンジェロの地元では現在、マラスが軍警察に追い詰められている。マラスメンバーの多くは、警察や敵ギャングとの戦いで命を落とす。スラムで出会った青年ネリは、そんな生き方に疑問を抱き、教会の力を借りてマラスを抜け、ラップ音楽でギャングの人生を変えようとしていた。
 2015年秋、ホンジュラスでマラス問題が最も深刻な町、サン・ペドロ・スーラに行こうと考えた筆者たちは、その町からメキシコへ来た少年アンドレスを知る。彼はマラスの下っ端だったが、殺人命令を逃れるためにメキシコへ脱出。保護されたNGO施設を出て、新たな人生を歩み出した。
 筆者たちは、ギャングの更生を支援するNGOの元代表のエルネストと、現代表のジェニファーをサポート役として、サン・ペドロ・スーラでマラスメンバーを訪ねる。彼らは皆、貧困や家庭崩壊といった問題から逃れ、ギャング団で自分のアイデンティティを見つけようとして、過ちを犯した人間だった。更生の支援をする牧師、司教らは、少年たちが「権力と金にのみ価値を置く社会」に人生の選択肢を奪われた、被害者だと考える。そして彼らが真のアイデンティティを持てる社会に変えるために闘っていた。


【著者プロフィール】

・氏 名
・年 齢
・現住所

・略 歴

工藤律子 (くどう りつこ)
53歳
東京都

1963年、大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。主なフィールドはスペイン語圏、フィリピン。
著書に、『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局、2002年)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書、2003年)、『ドン・キホーテの世界をゆく』(論創社、2009年)、『フィリピン・私の家族は国家に殺された』(長崎出版、2010年)、『ルポ 雇用なしで生きる』(岩波書店、2016年)など。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。