『誕生日を知らない女の子 虐待──その後の子どもたち』 黒川祥子 受賞作

【梗概】

 はじまりは、小児の閉鎖病棟だった。虐待を受けた子どもを専門に治療する場所になぜ、閉鎖ユニットが必要なのか。虐待は子どもにどんなダメージをもたらすのか。この驚きから、取材はスタートした。
 私たちはこれまで悲惨な虐待死事件を取り上げては、親や関係機関を叩き、残酷さを訴えてきた。では「死なずにすんだ」子どもたちは保護されれば、それで一件落着なのか。決してそうではないことを、病棟の構造が物語る。
 虐待された子どもへの影響は、心だけでなく脳の発達にも及び、子どもたちは発達障害のような症状を呈したり、暴力の衝動性や性行為の連鎖など、問題行動に苦しんでいた。その事実を知って、被虐待児が暮らす場所を訪ねよう、と思いつく。
 乳児院や児童養護施設、情緒障害児短期治療施設など施設も訪ねたが、主な取材先となったのは、「ファミリーホーム」という、二〇〇九年に新設された多人数(五人〜六人)養育を行う家々だった。「ママやパパ」がいる家庭という環境で、虐待からのサバイバーたちは育ち直しの時を生きていた。
 子どもたち一人一人の物語を通し、虐待が子どもに与えるダメージや、その回復につきまとう困難を見つめ、考える機会を得た。
 美由ちゃんは母親から身を守るため、「壁になって」生きてきた。ファミリーホームという「お家」に来ても、母親が恫喝する幻聴に悩まされ、幻聴が命じるまま無意識に行動する「解離」という問題を起こしていた。
 雅人くんは母親によって、目に割り箸を突き刺されたこともある。夜になれば奇声を発して一睡もせず、日中はカーテンの襞に隠れた。
 母親に遺棄され、二歳から児童養護施設で暮らした拓海くんは、施設内虐待の犠牲者でもあった。小学四年で里親宅に来た時、「オレはもう死んだ方がいい」と泣きじゃくった。
 明日香ちゃんは実母の無責任な言動に振り回され、実母の愛にすがり戻った結果、二重に傷ついた。
 虐待により激しく傷ついた子どもたちが、安心できる環境と信頼できる大人を得て、いかに変わって行ったのか。寄り添う大人たちの思いや苦悩とともに、その成長物語は貴重な希望の光でもある。
 一方、癒しの機会を得ないまま大人になった被虐待児は、今も後遺症に苦しんでいた。沙織さんはネグレクト環境で育ったうえ、実父から性的虐待を受けた。別人格の存在、うつ、自殺念慮などの苦しみに加え、娘への虐待が止まらない「連鎖」を抱えながら日々、生きている。
 虐待の後遺症、そのすさまじさこそ、これまで虐待問題に欠けていた視点である。虐待からの生還者である子どもたちの「その後」に、正しい光を当てたい、と強く思った。

誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち

【著者プロフィール】

・氏 名
・年 齢

・略 歴

黒川祥子(くろかわ しょうこ)
53歳

1959年福島県生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。弁護士秘書、ヤクルトレディ、美術モデル、業界紙記者等を経てフリーに。家族の問題を中心に執筆活動を行う。「橘由歩(たちばなゆうほ)」の筆名で『ひきこもりたちの夜が明けるとき』(PHP研究所)、『身内の犯行』(新潮新書)、『セレブ・モンスター』(河出書房新社)、『全国ごちそう調味料』(幻冬舎)などの著書がある。シングルマザー(息子2人)。