「紙の月」角田光代

【梗概】

 わかば銀行の契約社員だった四十一歳になる梅澤梨花は一億円を横領し、発覚する前にタイに逃亡した。宿を幾たびも変え、チェンマイの地に自分の存在を消そうと彷徨いながら、横領に至るまでの日々を思う。
 梨花は幸せな家庭で育ち女子高を卒業、短大に入り、その後カード会社で働き、友人の紹介で知り合った会社員の正文と結婚した。安定した生活を送っていたが、通いはじめた料理教室で一緒だった女性編集者・中條亜紀の言葉に刺激され、わかば銀行の仕事をするようになる。外回りで担当する顧客は家族との折り合いが悪い一人暮らしの年配者が多く、彼らへの気配り、丁寧な仕事ぶりで上司、顧客の信頼を得て任される仕事の幅が広がっていった。あるとき、梨花は自分の給料から夫にささやかなプレゼントとして、外食の支払いをする。それに対し、自分の方がずっと稼いでいると態度と言葉で示す夫に違和感を覚える。そんななか、信用されていた顧客の孫、年下の大学生・光太と出会ったことが梨花の生活に張り合いをもたらす。夫への違和感が増す一方、光太とは高価な買い物や高級な食事をし、ホテルのスイートに泊まるようになる。ほんの一時的に顧客から預かったお金を借用したのがきっかけで金銭感覚と日常が歪み始めていく。やがて「私には欲しいものはみな手に入る」と思いはじめた梨花は、次々と顧客のお金に手を付けていった──。
 日本では梨花の横領事件を知った、借金を重ね離婚に至り厳しい節約生活の反動から娘が万引きをしたことにショックを受けている中條亜紀、正義感が強く新品の石鹸みたいな梨花を遠くから見つめていた高校時代の同級生・岡崎木綿子、裕福だった子ども時代と現在の暮らしを比較する妻との関係が危うくなっている、梨花のかつての恋人・山田和貴が、梨花との関係を思い出し、自分たちの金銭感覚や日々の生活のむなしさに気づいてゆく。

 

【著者プロフィール】

一九六七年神奈川県生まれ。一九九〇年『幸福な遊戯』で第九回海燕新人文学賞、
一九九六年『まどろむ夜のUFO』で第十八回野間文芸新人賞、
一九九七年『ぼくはきみのおにいさん』で第十三回坪田譲治文学賞、
二〇〇三年『空中庭園』で第三回婦人公論文芸賞、
二〇〇五年『対岸の彼女』で第百三十二回直木三十五賞、
二〇〇六年「ロック母」で第三十二回川端康成文学賞、
二〇〇七年『八日目の蝉』で第二回中央公論文芸賞、
二〇一一年『ツリー・ハウス』で第二十二回伊藤整文学賞、
二〇一二年『かなたの子』で第四十回泉鏡花文学賞を受賞。
ほかに『マザコン』『三月の招待状』『森に眠る魚』『くまちゃん』
『曾根崎心中』『月と雷』『空の拳』、
エッセイ集『水曜日の神さま』など著書多数。