「インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日」中村安希 受賞作

【梗概】

 26歳の私は、ユーラシア・アフリカ大陸へ二年間の旅に出る。
「その地域に生きる人たちの小さな声に耳を傾けること」を主題に、そして、その小さな声を手がかりに、生き延びる手段を模索し、人間世界を見つめ直していく。
 中国、チベットを抜け、ある仏教僧院で高僧に謁見した私は、生きるために必要な心構えについて学ぶ。その後、東南アジアへ移動し、外国人と地域の人々が接触する世界をゆっくりと歩いていく。そして、犯罪現場や物売りの子供たちの喧噪の中に、声にならない声を聴き取り始める。
 インドを放浪中に、パキスタンに関連した列車が爆破され、大きな岐路に立たされる。「パキスタンへ行くべきか、やめるべきか」。
 その問いは、その後に続く中東イスラム圏の国々をいかにして通過していくかを問うものでもあった。私は、地元の民の言葉の中にその答えを探し出し、パキスタンへの入国を決める。そして、イスラム社会の深い懐の中へと足を踏み入れ、人々との出会いの中に、予想外のユーモアや人生観を発見していく。
 キルギスから先の中央アジアへ向おうとしていた私は、無銭旅行者のロシア人に出会う。彼は、旧ソ連の国々の不当な検問を通り抜ける知恵を私に授ける。それは、 時間 を味方につける戦術だった。
 アラブイスラム圏では、戒律に従い、私は二度の結婚と二度の離婚を経験し、さらに内部へと踏み込んでいく。すると、そこに生きる人たちの意外な内面が見え始める。ムスリムでありながら、リベラルな若者や同性愛者と熱く言葉を交わすうちに、人間の持つ世界観の共通性を実感していく。
 アラビア半島の先端から木造船に乗り込み、アフリカ大陸へ渡る。
 列車、バス、船、トラック……移動の乗り物は見事に全て壊れ、その度に荒野へ放り出された私は、地元の乗客たちと同じ時を過ごし、アフリカ人の視点からアフリカや世界を捉え始める。そして、多くの事件や事故や行事に巻き込まれていく。ウガンダで孤児院を訪ね、タンザニアで宝石掘りをし、ザンビアでガソリンの密輸に加わり、ジンバブエで盗難に遭い、裁判所に出廷し、さらに、襲撃事件に巻き込まれる。ガーナでは、アフリカの高所得者層と関わる一方で、貧乏なラスタマンやリベリア難民との奇妙なキャンプ生活を共にする。そして、慌ただしいアフリカでの毎日を通じて、途上国や先進国の枠に収まりきらない、人間社会の深い闇と確かな希望を発見していく。
 最後の行程として、私の前には二千キロのサハラ砂漠越えが立ちはだかる。ヒッチハイクでサハラを踏破するために、私は『武装解除』という戦術を取り、最終目的地のポルトガルを目指す。


インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸 684日 中村安希
 

【著者プロフィール】

・本 名
・年 齢

・略 歴

中村 安希(なかむら あき)
30歳

1979年京都府生まれ、三重県育ち。98年三重県立津高等学校卒業。03年カリフォルニア大学アーバイン校、舞台芸術学部卒業。日米における3年間の社会人生活を経て、06年ユーラシア・アフリカ大陸へ旅行。47カ国をめぐる。08年帰国。国内外にて写真展、講演会をする傍ら、世界各地の生活や衛生環境を取材中。