【梗概】

 2003年6月23日。カナダ、アラスカを流れる大河ユーコン川の支流テスリン川上流でひとりカヌーを浮かべる。カヌーを漕ぐのも、川を下り野生動物の生息する原野でキャンプをするのも初めてであった。

 目的地は漕ぎ出したユーコン川の約1500キロ先、アラスカ・ビーバー村。そこには訪ねてみたい人がいた。

 その名は安田恭輔。アラスカではフランク安田と呼ばれ、新田次郎著「アラスカ物語」で描かれた人物。捕鯨民族だったエスキモーの人々をアラスカへの民族移動へと導き、内陸狩猟を教えた人である。

 彼の眠るビーバー村は道路へのアクセスが一切なく、村には車すらないので、村に行くには飛行機で飛ぶかモーターボートかカヌーで川を下るしか方法がない。なぜこんなにもフランク安田に惹かれるのか? フランク安田が生きたその土地を訪ねてみたい、そう思った時、私は迷わず、もっともスローなカヌーを選んだ。飛行機で一気に飛ぶのも、ボートで川を下るのも、何となく「心」に近道をしているような気がしてならなかったからだ。

 テスリン川にカヌーを浮かべたものの、全てが初めだったため、思うようにカヌーが進まない。当初がむしゃらに漕いでも進まなかったが、私にとっての試行錯誤はまるで宝捜しのように、また発明をするかのように楽しい自習時間でもあった。

 私はこの旅に必要と言われていた三種の神器ー銃、GPS、衛生携帯電話、そのいずれも持って行かなかった。その代わりにギターと地図と水と保存食を持ち、自分なりの細密な計画を立てた。なぜなら自然を「制す」ことを考えるのではなく、自然に「抱かれたい」と願ったからだ。

 また「あの子はお腹の中に忘れ物をしてきた子だよ」と幼少の頃に言われるほど、わんぱくに育った私は「女のくせに」という周囲の声をよそに、一人で旅する事を選んだ。

 ユーコン川を包む広大な自然は、暖かい日差しを与えてくれたかと思うと、突然の雷雨で体を打ってくる。激しい川の流れはパドルを持つ手元を狂わせ、あっという間に方向感覚を失くす。自然は私に様々な表情を見せてくれた。そして旅先での様々な人々との出会いが私に多くを考えさせた。

「悪魔の5本指」と言われる瀬・ファイブフィンガーズラピッズを前に「楽しんで!」と言ってくれた5人のおばちゃん達。生活のために鮭漁をし、本当は殺したくないと言いながらも、鮭を狙う熊を銃で撃ったレイ。川への自信を失いかけた時に様子を見に来てくれた、悪名高いと言われていたフォートユーコン村に住むインディアンの人々の人情。ある一部分だけで判断せずに実際に会う事、確かめる事を学び、自然との共生の中で、矛盾を感じつつも、生きて行く人々の逞しさに勇気を得たが、一方で文明の発達とともに失われて行く歴史、エスキモー、インディアンの人々の現状にも触れ、言い知れぬ葛藤も覚えた。

 そしてついに、ゴールであるビーバー村にたどり着いた。

 そこで私が見たのは消えかけたフランク安田の歴史だった…。

 

【著者プロフィール】

・本 名  廣川 まさき(ひろかわ・まさき)
・現住所  富山県婦負郡
・略 歴  4年制大学卒業 牧場手伝い