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 ——第一章の脇役が、第二章の主人公となり、第二章の脇役が第三章で……と話がつながっていく。こうした群像劇の出発点はどこにあったのですか。
 一章目の「隠れ鬼」は単発の依頼だったんです。でも書き終えた時に、五、六話集めて短編集にしようという話になったんですね。でも僕は寄せ集めの短編集ってあまり好きではないので、どうせなら全部何かでつながりあっているものにしようと思い、こうした形になりました。六話を書き終えた時に物語がきれいに収束してくれて、読み返してみると連作短編集とも呼べなくなった。やっぱりこれは群像劇の長編だなと思います。
 ——全体を通してのコンセプトは考えていたのでしょうか。
 はじめは徹底的に悲痛な印象のお話を六つ書こうと思ったんです。でも第三章まで書いた時に折り返したくなって。第一章からひたすら悲しい方向に進んで、第三章で悲しさがマックスになったので、それまで出てきた人たちも、これから出てくる人たちもみんな含めて、もっと光の射す眩しいほうへ向かわせてあげたくなったんです。それで、第三章の「冬の蝶」から第四章の「春の蝶」へとつづけました。
 ——そこからトーンが変わっていくという。各章に白い蝶が登場します。短編集『鬼の【跫/あし】【音/おと】』では、カラスが登場すると不穏なことが始まるという展開でしたが。
 あれは不幸や不運の象徴だったんですが、これは蝶道をイメージしていました。蝶は毎日飛ぶルートが決まっていて、遠くまで飛んでも必ず元の場所に戻ってくるんですね。群像劇にしようと決めた時に、一匹の蝶がすべての人を見ているというイメージがわいたんです。それで、蝶が元の場所に戻ってくるのと同じように、第一章から第三章で折り返して、最後には元の場所へ戻ってくるわけです。
 ——登場人物のバリエーションは意識しました?
 群像劇という形がじわじわと見え始めた時に、老若男女を出したいと思いました。おじいさんも小さな女の子も出てきて、世の中にはいろんな人たちがいて絡みあっている、と分かるのが群像劇だと思うんです。だからストーリーの枠が許す限りいろんな人を出したかった。
 ——となると、まだ群像劇とは決まっていない、最初の「隠れ鬼」は何を意識して書かれたのでしょう。
 三年くらい前に書いたものなんですが、当時はまだミステリーを書きたいと思っていたので、ミステリーであることと、性的な描写を絡ませることを考えていましたね。
 ——『球体の蛇』で年上の女性との恋が描かれていますが、それに通じるなと思って。
 そうそう。もともとラディゲの『肉体の悪魔』とかコンスタンの『アドルフ』、デュ・モーリアの『レイチェル』、久世光彦さんの『燃える頬』といった、年上の女性によって翻弄される少年、青年の話が好きだったんですね。そうしたスタイルの恋愛を書きつつ、それを外側から包む大きなテーマとして「取り戻せないもの」を書きたかった。主人公の男の人だけじゃなくて、ここに出てくるおばあさんも虚しいですよね。もう取り戻せないものばかりで。
 ——寂しい余韻が残ります。
 長編だと、ひとつのストーリーの中で悲しいことと、それに対する救いを書けるんですよね。でも一本の短編の中で両方を書こうとすると、どちらも中途半端になってしまう。なので、前半はまず人生の影にあたる部分だけを書いていたんですが、三つ目の話を書き終えた時に、ここで逆のほうに向かわせたら全体で人世縮図が書けるんじゃないかって思ったんです。

道尾秀介
(みちお・しゅうすけ)

1975年生まれ。2004年、『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。2007年『シャドウ』で本格ミステリ大賞受賞。2009年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞受賞。2010年『龍神の雨』で大藪春彦賞受賞。『カラスの親指』、『鬼の足音』、『球体の蛇』は直木賞候補に。また、「このミステリーがすごい!2009年版」で作家別投票一位を獲得、『向日葵の咲かない夏』がオリコンによる「2009年最も売れた文庫本」となるなど、各所で絶賛、注目度№1の作家である。
 
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「世の中にはいろんな人たちがいて絡みあっている」
「最初から郡像劇の長篇を書くと決まっていたら、この一冊は絶対できなかった。」
「心情的にも、環境的にも、その時にしか書けなかったものがこの全六章」
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