ファンタジーコミック大賞特別企画第3弾

大暮維人先生インタビュー!!

漫画界を変える新漫画賞、ファンタジーコミック大賞が遂に締め切りまで残り1ヶ月! 大好評の審査員インタビュー、3人目に登場するのはウルトラジャンプにて『天上天下』を連載中の大暮維人先生! サラリーマン時代からデビューに至る経緯や、先生の考えるファンタジー論について大いに語ってもらったぞ! 美麗絵師によるグレイトな創作論を、刮目して読むべし!!!

大暮維人(おおぐれいと)
宮崎県生まれ。1995年、『SEPTEMBER KISS』でデビュー。1997年より、ウルトラジャンプにて『天上天下』の連載を開始。

――デビューまでのいきさつを教えてください。マンガ家志望でしたか?

大暮
 元々サラリーマンをしていたんですが、当時パチンコをやっていたのが重なりすぎて、会社に借金ができちゃったんです。まあ、前借ですね。それを返すあてが全然なかった。それで、賞金で返そうと投稿したのが最初です。それまでにマンガを描いたことは、あるにはありましたが、高校生の頃の話。その頃は「なれたらいいな」というレベルで、それよりも「きつそうだな」というイメージが先に立っていたので(笑)、積極的に描こうとは思いませんでしたね。就職してからは時間もないですし、やっぱ彼女とかに気持ち悪がられるんで(笑)。でも絵は描いていました。いわゆるファインアート、抽象画のようなものを。恩師の勧めもあって、その頃は画家になりたかったんです。

――投稿する雑誌は決めていたんですか?また、初投稿作はどんな作品でしたか?

大暮
 元々『ホットミルク』という雑誌に掲載されている作家さんが大好きで読んでいたんです。中でも特に好きだった新貝田鉄也郎先生が表紙を描いた号を見て「コレだ!」と。投稿したのはすごくバカな内容で(笑)峠に現れて素足で走る話(『JUNK STORY』に収録)。バイク好きだったので、バイクで走る話を描きたいと思ったんですが、雑誌が成年誌だったのでエロの要素を入れなきゃならない。それでたどり着いたのが「バイクを使わずにバイクに勝てるキャラクター」にしようという…。まあ、自分で言っててもよく分からない感じの(笑)。

――当時の評価は?

大暮
 後に担当になる人は、完全にスルーしたらしいです。「絵はいいんだけど、この下らない話はどうだろう?」って(笑)。でも編集長だった人が目を留めてくれて、準入選をいただきました。
 その後、僕が会社を辞める時に、その方も編集を辞められるということを聞き、「もう一作読んでもらいたい」と思って二作目を描きました。実は準入選をいただいた後、その編集の方から私的にお手紙をいただいていたんです。「うちで描く必要はないけれども、この先も君にはマンガを描き続けて欲しい」と…。その時がんばって間に合わせた作品が『SEPTEMBER KISS』。デビュー作になりました。今になって振り返ると分かるけど、最初の作品の評価に悪いことばかり書かれていたので、二作目はそれを消すことばかり考えていましたね。

――ちなみに前借りの返済は?

大暮
 いやあ…あまりできませんでした(笑)。

――子供の頃に好きだったマンガや映画作品を教えてください。

大暮
 もちろん『少年ジャンプ』世代なので『北斗の拳』などは読んでいましたよ。原点といえば『リングにかけろ!』かな…僕のマンガのハチャメチャなところなんかは影響を受けていると思います。
 映画で好きな作品はいろいろありますが、『ターミネーター』など、何となく自分の作風と似ていますね。全然違うものでは『ニューシネマパラダイス』。初めて映画を観て泣いたのがあの作品です。

――マンガを描くのは楽しいですか?それとも「やらなきゃ…」という感じ?

大暮
 明らかに「やらなきゃ…」の方(笑)。もちろん初期の頃はすごく楽しかったんですけど、週刊でも描くようになってからは時間に追われて、かなりきつくなってきました。元々体力がないんですよ。絵を描いているとすごく疲れて、4日目くらいになると頭痛がひどい。ストレスを発散しようにも時間がないから、描くことで何とかしようと、自分のやりたいものをストーリーに織り込んでいくんです。でもそうしないと、とてもじゃないけど継続できないです(笑)。

――新人の作品を読むときの評価ポイントは?

大暮
 こういうことを言ってはいけないかもしれないけれど、僕は完成度が高い人をあまり評価しないんです。伸び代を自分で消しちゃっているように思えるのと、まとまっていると心に引っかからずに「転がってしまう」から。それはきっと読者にとっても同じだと思う。転がってしまって心に止まらないくらいなら、むしろ凹んでいるくらいの方がいいじゃないですか。凸凹している方が作家は有利だと思います。
 一番評価しないのは、売れている作品の文法通りにキッチリ作ってくる人。読んでいて面白いけれど、自分の可能性を消しているのと同じだと思うんです。ただお金が欲しいのなら、もうちょっと効率的にお金を稼げる場所がありますよ。賞金目当てで描き始めた僕が言うことじゃないけど(笑)。
 作家には自己顕示欲が必要です。僕だって他人に見せたいからマンガを描くわけで、自分のために描けと言われたら1ページも描けない。だから僕、練習なんて絶対したくないですもん。誰も見ないから(笑)。他人をコピーするということは、自己顕示欲が弱いということ。自己アピールしなきゃいけない場所で、一生懸命に他人の紹介ばかりしているようなものです。作家というものには向いていないメンタリティだと思いますね。

――先生ご自身の絵柄がよく変わるのも、完成度を求めないことと関係しているのでしょうか。

大暮
 自分では「完成したところで終わりだ」という恐怖感を持っています。到達点にいきついてしまったら、洗練はされても上には行けなくなってしまう。それは悔しく、悲しいことだと思います。だからすべてがお試し。例えば最近絵が少しリアルになったのも、意識してのことです。人の顔の形が分からなくなった瞬間があったんです。ずっとマンガ絵を描いているからマンガの絵は描けるんだけど、本当の人の顔を描こうとした時に描けないことにある日気付いた。それで、こりゃ練習しなきゃと思ったのですが、そのための時間は取れないし、したくない(笑)。本番が一番集中できるし、手っ取り早いから。
 変化に対する読者の評価が悪ければもちろんヘコむんですけど、悪いものでない限り、完全に見放されることはないと信じて、今のうちにやれることはやっておきたいんです。

――ご自分では変化の先の到達点が見えているんですか?

大暮
 あるんですけど、今描いているものとは全然違っていて…ひとつの画面には入らないと思います。ただ、これは僕の持論というか思い込みなんですけど、本当に好きなことを描いてしまったらもうおしまい、次の週から描けないと思います。それは最後まで取っておきたいんです。最後の最後まで描かないかもしれないけど。
 自分では、技術的にも知識・ノウハウもまだ途中だと思っているのに到達点を描いてしまうと、その時点での自分をすべて肯定することになってしまいますよね。まだ成長していく過程で描きたいテーマも次々と変わっていくと思うので、今やっちゃダメだろうなと思っています。

――大暮先生が考える“ファンタジー”とは?またファンタジーを描く上で何が必要だと思いますか?

大暮
 ファンタジーの根っこにあるのは“大嘘”だと思います。現実にはないものですからね。でもないものだから細部のリアリティが重要。根っこの部分の大嘘をリアルにするのは細部(ディテール)であって、その細部を描くのに必要なのは知識だと思うんですよ。それは絵も話も同じで。
 リアルな物語って、現実の出来事の方が圧倒的に強くて、どうしても敵わない。でもファンタジーはファンタジーであるがゆえに、「リアルを超える何か」があると思います。リアルではないからこそ、人間のある意味でのリアルさを描ける。リアルを超えられる。
 あとは情熱ですね。ファンタジーを描いてくる新人の情熱って、“かつて自分が読んだものへの情熱”の場合が多い。それはそれで重要だけど、それ以上に自分がやりたいことを具現化するための情熱の方が重要だと思います。リスペクトした上で、さらにその作品を超えたいという情熱、というか…。そういう毒というか、野望のようなものが希薄な人が、新人の場合は多い気がします。

――具体例でいえば、先生が『天上天下』を描かれる上で身につけた知識にはどのようなものが挙げられますか?

大暮
 最初は格闘マンガでしたし、元々好きだったので格闘技についてはたくさん調べました。結局あまり使わなかったんですけどね。それは少しもったいないと思っているので、いつか使いたい。過去編では、もともと僕が司馬遼太郎作品が好きで、高校生くらいの頃からいろいろ調べるようになったんです。いつか歴史モノをやりたいという思いもあったので、ちょっとやってみようかなって。今もまだ知識だけは蓄えているという感じです。いつか本格的なものもやりたいですね。

――話が逸れますが、司馬作品では何がお好きですか?

大暮
 『燃えよ剣』とか。あとは『項羽と劉邦』大好きですね。張良だとか韓信、いいですね(笑)股くぐりからなり上がって、最後は殺されちゃうんですけどね。

――「こんなマンガ読んでみたい!」というのがあれば教えてください。

大暮
 本格的なSF作品です。サイエンスの分野は、現実の方が理解が追いつかないところまで行ってしまっていて、描くこと自体が難しくなっていると思うんです。読者が引いてしまうんですよね。でもだからこそ、形を変えればできるんじゃないかな、と思います。『NARTO』が出てきて、一時期は消えかけていた本格忍者マンガが復活したように…。僕はSFを、勝手に言葉を変えて“サイエンスファンタジー”と呼んでるんですけど、SFはファンタジーの一部だと思います。それを本気でやろうとしている人が少ないので、新しい人が出てきてほしいと思っています。

――長年、ウルトラジャンプの漫画賞の審査員をお願いしてきましたが、印象に残っている作品はありますか?

大暮
 ツナミノ君は天才だと思いましたね。もちろん他にも印象に残る作家さんはいたけれど、彼は光っていました。投稿作で既に独自の世界を築いていた。あのタイプは強いですね。

――作家を志す新人達に、日常生活でのアドバイスはありますか?

大暮
 僕は寝るのが大好きなので「よく寝てください」と言いたいですけど(笑)、やっぱり集中することなんじゃないかと思います。ダラダラとネームを切っているのは時間の無駄。僕の場合、実際にネームを切る(=紙に起こす)時間は3~5時間くらいかな…。一日中何となくは考えているけど、ほとんどの時間は、傍からは何もしていないように見えると思います。でも切る時だけすごくテンションを上げて一気に切る。
 あとは月並みですけど、普段から見たものに対して疑問を持つこと。知識は、疑問を持つことから始まりますからね。例えば、よくスタッフに話すんですが「太古の世界にタイムスリップして飛ばされて、そこの長がその時たまたま持っていたペットボトルを気に入ったとする。『これをたくさん作れ! 出来ないならお前を殺す』と言われたときに、君は作れるか?」と。僕や一部のスタッフは、「どういう作り方をすればこの形になるか」という疑問を持って知識を得たから、もちろん時間はかかるし、全く同じものはできないけれど多分作れる。知識は疑問の集大成なんですよ。その蓄積がないと、マンガは描けないと思います。知らないものは人間描けません。別にどんな分野でもいいんです。恋愛でもバイト経験とかでも。見せ方ひとつで、作品がひとつ作れるのがこの世界ですから。
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