ファンタジーコミック大賞特別企画第5弾

皆川亮二先生インタビュー!!

「ファンタジーコミック大賞」も締め切りまであと少し! 新人マンガ家のみならず、マンガファン垂涎の豪華審査員へのインタビューもいよいよ大詰め! 第5弾は、ウルトラジャンプでガンアクション・ファンタジー「PEACE MAKER」を連載中の皆川先生だ! ファンを魅了する世界観を生み出し続ける鬼才の言葉を聞け!

皆川亮二(みながわりょうじ)
1964年東京都生まれ。1988年週刊少年サンデーにて「HEAVEN」でデビュー。「スプリガン」「ARMS」などの作品で人気を博す。2007年よりUJにて「PEACE MAKER」、イブニングにて「ADAMAS」を連載中。

―― 昔から漫画家志望でしたか?

皆川
 いいえ、高校生の頃は映画の仕事をしたいと思っていました。とにかく映画ばかり観ていたんです。敬愛するスピルバーグ、ルーカス、コッポラ…あの時代に象徴されるような人たちの作品は基本的に大好きで、気に入ったのは何十回と観ました。レンタルなんてありませんでしたし、入れ替え制がない頃だったので、映画館に入り浸り。朝行って、夜までずっと観ているなんて毎日を過ごしていた時期もありました。それが高じて「いつか撮りたいな」と、頭の中でいろいろ構想を練っていました。

―― 物語作りはしていても、表現する方法は漫画ではなかったんですね。

皆川
 漫画家には、なれるとは思っていませんでした。漫画は大好きでしたよ。細野不二彦先生だとか高橋留美子先生が出てきた時代の『少年サンデー』が大好きでした。『少年サンデー』でデビューしたのはそのせいです。あこがれの高橋先生に会った時、「あなたの影響をすごく受けました!!」と言ったら「ウソつけ」みたいな顔されましたけど(笑)。
 僕が漫画の道に入ったのは、高校時代の同級生に漫画家の神崎将臣先生がいて、その手伝いをしたのがきっかけです。彼は高校時代から漫画が上手くて、卒業してすぐデビューしたくらいでした。デビュー後の『ブル・ドック』『重機甲兵ゼノン』あたりを連載していた頃に、僕が元々少し絵が描けたので「仕事で背景描いてみない?」と誘われました。その時にいろいろ描き方のノウハウを教えてもらって自分も漫画を描き始め、23歳の時に初めて最後まで描いて応募した作品がデビュー作になって、今に至るという感じです。

―― デビュー作はどんなお話だったんですか?また、評価は?

皆川
 最初に描いた作品は、完全に世界観だけのものでした。人間は死ぬと天獄か地獄に行くとされていますよね。「じゃあモノはどうなんだろう?壊された建物なんかも天国に行くのかな?」っていう話だったんです。その天国には、明治や大正に作られた、現在は存在しない建物が全部あるんです。後楽園球場があったりする、そんな世界観をまず作りました。
 そこには生気を失った人間がいるんです。ロックをやっていた主人公が「何でこいつら感情がないんだ?俺が呼び起こしてやる!」と歌うんですが、みんな感情は芽生えない。でもその中に一人だけ感情が芽生えた女の子がいて、神様がその子を「こいつは天国にいるとまずいな」と殺してしまう。天国で死ぬと人間は生き返れるので、来世に生き返って、女の子と主人公が恋人同士になるみたいな話だったんです。
 最初は明治や大正の建物や乗り物を描きたいということからスタートした作品でした。でもそのまま時代ものでやっても面白くない。もともと背景しか描いたことがなかったからそこで勝負したいというのもあり、描きたいものと描けるものの要素にドラマを入れただけで作ったという感じです。人間なんか神崎先生のパクリでしたから(笑)。
 赤塚先生からは絶賛していただきましたね、レトロな建物を描いたあたりを。メチャクチャに酷評した方もいらっしゃいましたけど。

―― それだけ順調だと、ネームで苦労なさったこともないのでは?

皆川
 デビュー作に関しては、掲載の都合でページ数を調整した以外はほぼそのままですけど、担当が付いてからはメチャクチャ言われましたよ。それこそ何度ネームを捨てられたか分からないくらい。
 元々映画がやりたかったくらいだから、コマ割が全部絵コンテだったんです。「これは漫画じゃない」と言われましたね。そこで初めて漫画のノウハウを叩き込まれました。「漫画は開きの文化だ。開いてみんなを驚かせて、あとはどうやってみんなに読ませるか、リズムを考えなきゃダメだ」ということを、最初の担当さんに散々指導された。厳しかったし、最初は悔しくてしょうがなかったし、指摘されたところを直したら「おかしくなってる」と言われて「この前言ってたことと違うじゃないかよ!」みたいなこともあったんですけど(笑)、今はすごく感謝しています。
 漫画の作り方以外でも感謝しています。デビューしてすぐに「こんな原作あるんだけどやらない?」と誘われたのが『スプリガン』。雑誌の人気はほとんどなかったんですが、その担当さんだけが「こいつの漫画は単行本で絶対に売れるから、続けなきゃダメだ!」って推してくれてたんですよ。これは後に知ったことですが、本当に嬉しかったです。

―― 漫画作りにおいて重要なポイントとなるのはどんなことですか?

皆川
 とりあえず分かりやすさですよね。分かりやすく読者に伝えること。また最初の担当の方の話になるのですが、その人からは「ベタでもいいから分かりやすく、基本に忠実に」を叩き込まれました。基本を理解してからアレンジを加えるのは構わないけど、基本が出来ないのでは意味がない、と。
 僕は、人を喜ばせたり惹きつけるものというのは、ベタなものだと思うんですよ。例えば『水戸黄門』みたいなベタさで、漫画って成立するんじゃないかな。人が死んでイヤな気分で終わるような漫画を、僕があまり読みたくないというのもありますが…。自分の中で「ベタじゃねえか」というのを捨てて、そこに立ち返ってみた方がいい。僕自身、かつては雰囲気に走ったわけの分からない映画が好きだったり、「この音楽のかっこよさを漫画的に表現したい!」と考えたことがあったんですけど、そういうのは独りよがりの変なものになるだけです。読んだ人に喜ばれるものを描きましょう。それがプロだと僕は思います。漫画は芸術じゃないです。娯楽ですよ。漫画家はただのサービス業です。
UJ
サービス業ですか!
皆川
 しかもこれだけサービス業が充実している世の中だから、よっぽどサービスしないと(笑)。大暮先生なんか、あれだけの能力でもってあれだけの絵を描いているんだから、究極ですよ。読者が「こんな絵が見たい」と思っているのを、先生が叶えているんですから。
 だから新人が「作家性」だとか「俺の漫画を理解できない方がバカだ」なんて言ってちゃダメなんです。読んでいただくための工夫をしなければ…。読者として自分の漫画を読めるようになったら一人前。ここまで新人に要求するのはキツいかもしれません。僕にもできませんし(笑)。

―― 確かに「自分が読者だったら自分の作品を読むか?」を考えている人は、あまりいないですね。

皆川
 ものすごい絵が一点でも入っていればそれだけで目が留まるんでしょうけど…新人さんでもそうだけど、読む気になれない漫画は、絵に目が止まらなかったりリズムが悪い。そのための工夫や努力がないっていうのは大きいかなあ。「立ち読みの人がページをめくるほんの何秒かのために、どれだけエネルギーを使っているのか?」ってことかな。以前、大友克洋さんとお話をしていて「俺がこのコマを描くのにどれだけ労力を使ったと思っているんだ!」とおっしゃっていたんです。大友さんほど、元々絵に情熱を賭けている方がそうおっしゃるんですよ、飲んだ時にだけど(笑)。当時はよく分からなかったけど、現在になるとよく分かります。

―― どんなファンタジー作品が読みたいですか?

皆川
 単純に「面白い」と言えるもの。僕の中では漫画はみんなファンタジーですよ。野球漫画だってファンタジー。あんなの、あり得ないですもん。野球というスポーツのルールの中でやっているファンタジーです。でもそう言うと「新人コミック大賞」になっちゃうんで(笑)、あえてみんながよく言う、例えば剣と魔法のような「ファンタジー」について考えてみるなら、ちゃんと理解が出来る剣と魔法の世界が見たい。「何故こいつは剣を使ってるのか」というところに必然性が欲しい。あとは…今までにない概念のものを描いてみようと考えながらやった方がいいのかな。今さらマントを着ているような人間が出てくるようなものを描いても、面白くも何ともないじゃないですか。だからないものを考えながらいろいろものを構築した方がいいと思います。その方がみんな面白そうだって見てくれるから。

―― 漫画以外でお好きなファンタジー作品について教えてください。

皆川
 難しいなあ…何がありますかね? 世の中で言われているファンタジーって結構ピンと来ないものが多くて。何だろう…『ドラゴンクエスト』シリーズ?ゲームだけど(笑)。SFが入ってきちゃうから難しいんですよね。概念としてどこがファンタジーなんだろうという、定義の問題になっちゃうから。
UJ
 確かに『ドラクエ』には、ファンタジーという言葉から想像される要素が集約されている感じがしますね。『ドラクエ』はシリーズすべて?
皆川
 最新作もやってますよ。すれ違い通信しますか?(笑)。でもさすがにもうちょっと飽きちゃったかなあ。8はシンプルで面白かったです。8と3が好きですね。
UJ
 ああいう拡大解釈できる要素があるというのは強いですよね。物語のロマンが共有できて、全体像が拡大解釈できるというのは。
皆川
 たとえそのロマン自体が共有できなくても、それを探す過程での人間ドラマがあるじゃないですか。友情とか成長とか、ある存在を「いない」と言う奴が、いると信じる奴らの並々ならぬ努力で変わっていくとか。それを描ければいいと思うんです。『スタンド・バイ・ミー』などはそうですよね。友達同士で死体を捜しに行くだけの話なんだけど、その過程に、登場人物の間にいろんなバックボーンや友情があるといった、人間ドラマが描かれている。それがキャラ立てであって、物語作りの一つの面白さなんですよ。

―― 漫画家を目指す新人に向けてのアドバイスをお願いします。

皆川
 本当は僕も「キャラクターを作れ!」と答えたいんです。でも以前それをうちのスタッフに話したら「それは一歩上のレベルの人が言うことであって、普通の人には分かりません」と言われました。「考えた世界設定にキャラクターをどうやって当てはめるか、みたいなところから始めないと分からない」と言う。なるほどと思いましたね。だからその辺も考えて…。
 例えば僕が今描いている『PEACE MAKER』は、ファンタジーっぽくはないけれど、僕の中ではファンタジーなんです。「●●国の××大王は…」みたいな自分勝手な専門用語を並べても意味がないじゃないですか。そうではなくて存在するもの、「ピースメーカー」という銃のような元々あるものを素材にして、世界を一度ぶち壊してから、一つ一つパーツを組みあげて作っているんです。何故そうしたかというと、世界観が伝わりやすいからです。「早撃ちというものが世の中にはあって…」みたいなことが、銃というだけで大体分かるじゃないですか。だからそういう手法を取った。これはあくまで僕のやり方だけど、まず新人のみんなが漫画を、特にファンタジーを描くにあたってやらなきゃいけないことは、誰でも分かるように世界観を描けるようになること。
UJ
 投稿作にも設定説明から始まる作品がよくあります。「西暦何年、世界は悪魔と人類が…」と、3ページくらいナレーションで説明するような…。
皆川
 最初から字がいっぱいあるような漫画なんて、読みませんよね。「あなたの設定なんて誰も分かりませんよ」という感じ。なるべく説明せずに世界観を伝えるというのは大切ですね。
 というわけで、あえて新人向けにということで「分かりやすい世界観を作ること」と言っておきます。もちろん前述の通り、本当はキャラクターと言いたいところなんですが…。世界観とのバランス加減というか、まず人に伝わる内容なら、キャラクターも読むじゃないですか。それで初めてキャラクターの魅力が伝わるわけで。まあ、やり方はいろいろあると思うんですが。
 いろんなものを観たり聴いたりしながら、真心を込めて描いてください。他人に伝える難しさを噛み締めて。

―― 使用画材を教えてください。

皆川
 僕の場合は腐った丸ペンを使っていますね。
UJ
 腐った丸ペン?
皆川
 どういうものかというと、アシスタントが使い古した丸ペンです。アシスタントを使うようになってからずっとそんな感じです。何故かっていうと、アシスタントがすぐに捨てちゃうんですよ、丸ペンを。すごい溜まるんですよ。「描けるじゃん、まだ!」みたいなのが。もったいないので使っています。
UJ
 アシスタントさんが新品を使って、先生がお古を使っている?
皆川
 「全然描けるじゃん、これ」と思って。
UJ
 それは技術ですね。
皆川
 技術なのかなあ。描きやすいんですよ。Gペンより太くなく、丸ペンより細くなく。ちょっと馴染んでいるのに捨てるのはもったいないと思うんです。買った時のガリガリした感じがなくていい線が引けるんですけどね。その使い古した丸ペンで一本原稿上げちゃいますよ。今や一生漫画が描けるくらい溜まってます(笑)。
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使い古しの大量のペン先(丸ペン)。「アシが捨てたものを溜め込んでいます(笑)。馴染んでいて使いやすいんですよね」