――先生のデビューのきっかけは『武装ポーカー』の手塚賞の準入選。
荒木
最初は高校生の頃の投稿でした。その作品はダメで、最終選考くらいの段階で止まっていたので、「何がダメなのか」という批評が全然聞けなかったんです。それで直接持ち込みました。やっぱ編集者の批評っていうか、「マンガって何なんだろう?」っていう話が聞きたかったので…。その後しばらく鍛えられて手塚賞ですね。
――最初小学館に持ち込もうとしていたと伺いましたが?
荒木
ああ、持ち込みの時は(笑)。僕は、講談社や小学館で連載していらっしゃった梶原一騎さん原作のマンガが好きだったんです。『ジャンプ』は「何となく好き」(笑)。持ち込みのときは一番小さいビルに行ったんです。デカいビルより小さいビルの方が入りやすかったから。で、持ち込んだら担当さんがついたのでそのまま。
――持ち込んだ作品は投稿した作品と違うんですか?
荒木
はい。その後ボツとかもありましたし…。それから一年くらいかな、手塚賞まで。
――あっという間ですね。
荒木
一番最初に編集者に言われたのが「先輩と同じような絵を描いてきたらダメ」ということ。「『見習うけれども同じ足跡は踏まない』という作品を描いてこなけりゃ、俺は読まない」と。厳しい人になると、袋からちょっと出して見ただけで「あ、見たくない」って言ってたらしいんですよ。扉絵を見ただけで「見たくない」(笑)。「だから扉絵だけで見たくなるような絵を描いてきて」と言われました。編集者って何百という作品を見てるわけじゃないですか。だから何となく分かるらしいんですよね、そういう感覚が。正直ひどいと思ったけど(笑)。
――そういった編集者からの指導・意見の中から、現在の先生の作風が拓かれたのですか?
荒木
そうですね、「こういうところがダメだ」「そこがダメだ」っていう意見があったら、考えてよりよいものにしていく。その積み重ねですね。
――その当時、ファンタジーの漫画の着想の原点はありましたか?
荒木
まずファンタジー漫画というものが概念としてあったのかな?と思います。『Dr.スランプ』が始まるか始まらないかの時代で、梶原先生みたいな作品が中心でしたから。手塚先生の『鉄腕アトム』はありましたけど、そういう概念じゃないんですよね。
――新人時代に苦労したことはありましたか?
荒木
ネームを作ることなどに関してはあまりなかった。苦労というか気を遣ったのは、描き手の意図がより正確に読み手に伝わるように、分かりやすくすることですね。
ただ、言いたいことと違うところが否定されたことには戸惑いました。具体的には『魔少年ビーティ』というタイトルで作品を描いた時に「“魔少年”って何だよ?」みたいな意見が編集部から出たんです。シャーロック=ホームズの知能を持っていて悪いことをするという、いわば裏返し的な作品なんですけど、そういう内容は全然読んでもらえなかったんですよ。当時、少年漫画のタイトルに悪いイメージの言葉ってありえなかったらしく、「“魔”だからダメ」と言われて…。でも、こちらとしては「ええ?そこ!?そういうところ言いたいんじゃないんだけどな…」と思ってビックリしましたね。最終的にはこのタイトルが通ったんですけど、時間がかかりました。
――“魔少年”という言葉は、先ほどおっしゃった「人を引き込む工夫」のひとつだったのでしょうか?
荒木
そうですね。「“魔”で(読者の心を)掴もう、誰も描いてないだろう」と。『天才少年ビーティ』だったらありそうじゃないですか。“魔”の方が、何かやらかしそうな雰囲気が出るんですよ。当時の担当編集さんは「人と同じような作品を描くな」と日頃から言っている人だったので、その人だけはOKしてくれたんですけど、後で聞いたら、編集部の他の人全員に反対されていたらしいです(笑)。
――審査員の立場で、どういう作品を読みたいと思いますか?
荒木
絵柄で惹き付けるっていうのはありますけど、まずは審査員の心を捉えるような工夫ですね。それがあって、プラス自分の描きたいことを描いているっていうのがいいのかな。あとは僕が選ぶ基準っていうのは、やっぱり「独特なものかどうか」という点ですね。ストーリーも絵も全部平均点以上で、「一応読めるな」「それなりに面白いんじゃない?」っていう作品よりも、「この人にしかないもの」という作品がいい。完璧な作品があればそれに越したことはないけど、どちらかと言ったら独特な作品を読みたいですね。
――お好きなファンタジー映画・漫画はありますか?
荒木
『スター・ウォーズ』とか『ロード・オブ・ザ・リング』みたいなのだけをファンタジーとは言うのではないと思うんです。僕はクリント=イーストウッドの映画はファンタジーだと思っているんですよ。『グラン・トリノ』とかそうだけど、リアリティの中にありえない要素が出てくる。人が死ぬのはリアリティだけど、たとえばその死に方のあり得なさがファンタジーだと思ってるんです。『ミリオンダラー・ベイビー』は、かなりマイナスのファンタジーですね。全身不随になったボクサーの娘を置いて、家族がディズニーランドに行っているなんていう残酷さはあり得ないでしょう? そういう定義でのファンタジーって結構いっぱいありますよ。『ボーン・アイデンティティー』シリーズもそう。アクションだけど、ああいう人間ってスーパーヒーローだし、いないですよね。他ではホラー系、ゾンビ映画は好きです。『ドーン・オブ・ザ・デッド』とか。あれも「日常の中に死人が出てきたらどうなる?」って発想だけで出来ていると思うんですけど、その発想があり得ない。だから “剣と魔法”や“スーパーヒーロー”だけじゃなくて、あり得ないほどハッピーエンド過ぎるラブストーリーもファンタジーですよ。でもファンタジーを描くからこそ漫画だと思う。漫画が一番生きてくるのはそういう世界だと。
他に漫画で言えば、忍者漫画は基本ですよね。忍法使うところはSFというか、あり得ないじゃないですか。ただその生活背景などは歴史的にリアリティがある。『カムイ伝』だとか『伊賀の影丸』だとか、忍者漫画っていうのはそういう定義にピッタリですよね。
――リアリティとファンタジーのバランスを保つために気をつけていらっしゃることは?
荒木
僕の場合は「日常を絶対に捨てないこと」です。どんなキャラクターでも、お風呂には入るだろうとかケータイは持っているだろうとか、何を食べているかとか、そういうのが非常に重要。日常のリアリティがあるからファンタジーがあるのに、日常を捨ててしまうと差が分からなくなっちゃうから。
だから、たとえば作品にロボットを描くにしても、ちょっと考えて欲しいんですよね。本当にその世界にいる感じが欲しい。ただガンと出てくるんじゃなくて、樹の陰から出てくるとかね。そういうのってシュールな感じがするんですよ。影が伸びて、ビルに映ってから出てくるとか。
映画の『トランスフォーマー』も、車が変形する時に、車の大きさで変形していって欲しいんですよね。それより大きくならないで欲しいんですよ。「明らかにちょっと身長おかしいだろ」みたいな。そういうリアリティはこだわりですね。
新人の場合は特に、そういう分かりやすいリアリティを、段階を踏んで表現して欲しいです。稀に画力で(作品に)入っていける場合もありますけど…。
――以前、別のインタビューで「必ずスタンドに弱点を作る」とおっしゃっていましたが、最初から「そうするべきだ」という直感があったんですか?
荒木
そうですね。僕は横山光輝先生の『バビル2世』が好きなんですが、戦う敵に必ず弱点があるんです。超能力を使うんだけどだんだん疲れてくるとか、そういうところを描きたかった。長所がある人は、それが裏返しで必ず弱点になるっていう発想が基本にあります。逆に、一見力が全然ない人でも、ある一点だけ強いとか。
――それってすごくリアルですよね。
荒木
スタンドがファンタジーなら、そういう部分がリアリティですね。
――漫画家を志す皆さんへのメッセージをお願いします。
荒木
ファンタジーといっても大切なのはキャラクターです。登場人物をどういう風に面白くするか。あとは動機ですね。「何故戦ってるのか?」「この主人公は何したいのか?」が分からない作品が、過去に漫画賞で審査した中には多い。ただモンスターが出てきて戦っても、戦う意味が伝わってこないと作品としてダメだと思うんですよ。絵・ストーリーと動機を合わせて、作品の面白さは9割くらいキャラクターで決まるかもしれない。それが描けないとキツイと思いますけど、逆に言えば、描ければプロになれるんですよ。
――じゃあ、先生が描くときも、主人公の動機や目的を第一に考えられるんですね。
荒木
もちろんそうです。
――画材は、投稿されていた当時と使用されるものが変わりましたか?
荒木
ほとんど変わってないですね。筆ペンが出来たので、それを使い始めたくらい。何十年も変わっていないですね。むしろ生産中止とかでやめざるを得なくなったものの方が多いです。
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この日、作業をしていたアシスタントは3人。資料を傍らに、原稿を完成に近づけていく。
緻密なストーリーと画面を生み出す要素のひとつは、マンガ・雑誌・写真集と多岐にわたる資料書籍だ。
「この太さがあれば何でもいい」というペン軸。キャラクターに生命が吹き込まれるッ!!
投稿をはじめた頃から画材はほとんど変わらないという。「(当時は無かった)筆ペンが出来たので、それが加わったくらいですね」
スクリーントーンやミリペンといった画材は、棚に整理・ストックされている。種類も量も豊富!
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