英雄『岳飛』解禁。 中国随一の英雄を壮大なスケールで描く。岳飛伝 北方謙三 英雄『岳飛』解禁。 中国随一の英雄を壮大なスケールで描く。岳飛伝 北方謙三
楊令伝の『岳飛』について
楊令に一蹴された若き岳飛
→楊令伝 ニ/辺烽の章

 隆徳府、黎城の西。

 十六歳の岳飛は、二十騎を率いて倍以上の賊徒を蹴散らした。

 それを見ている者がいた。領内を視察している宋の童貫禁軍元帥である。童貫は、岳飛の闘いぶりが気に入ったとみえて開封に誘うが、岳飛はことわった。代わりに岳飛の庇護者だった劉光世が、禁軍に入ることになる。

 相州で生まれた岳飛は近くに隠棲していた老人に学問を教わった。十三歳の時に村で一番強い者を打ち殺して以来、負けたことがなかった。十五歳の時に老師が死んだので、父兄と縁を切ってもらった銀で剣を買った。故郷を離れ、孫範、徐史などの仲間と一緒に傭兵稼業を始めた。童貫に会ったのも、その頃だった。

 その五十騎の黒備えの騎馬隊は、一頭の黒い動物のように見えた。百三十騎の岳飛隊は、丘の上下からその黒い五十騎を挟撃する。しかし、たちまち岳飛隊は全員が叩き落とされた。顔に赤い火傷痕のある頭領らしい若い男に、得物を吹き飛ばされ、眉間に剣を突きつけられる。しかし、「子供か」と火傷痕の若者は言い捨てて去っていった。

 これが、岳飛と楊令の出会いだった。

大規模な宗教の乱を起こした方臘
→楊令伝 五/猩紅の章

 岳飛は仲間を連れて、開封に童貫元帥を訪ねた。童貫は、かつて宋を追いつめた梁山泊を壊滅させた軍神だ。火傷痕の男は幻王・楊令という名で、梁山泊の生き残りだった。そして必ず梁山泊の残党を集め頭領になって童貫と再戦する漢だ、と言われた。それが決め手だった。岳飛は、従者として童貫と共に行動することを決める。梁山泊は水面下の動きに留まっていたが、北では遼に対抗して金国が勢威を増し、南では方臘率いる大規模な宗教乱が勃発していた。

 童貫の禁軍は、南の方臘征伐の命令を受けた。岳飛も従って出陣する。禁軍・地方軍合わせて二十六万を童貫は動員したが、方臘軍には地を覆う七十万の度人と石宝将軍の七万の精強な軍がいた。童貫は砲撃と連環馬で度人を蹂躙する。戦というよりも酸鼻な虐殺が始まった。しかし、叫びながら海のように押し寄せる方臘軍は手ごわかった。しかも、梁山泊の軍師・呉用が名前を変えて、方臘の幕僚にいた。度人の群れは屍を喰らいつつ進撃を続け、禁軍の副将・畢勝まで討ち、ついに方臘も陣頭に立った。しかし、童貫の巧みな用兵に次第に追いつめられていく。そして、石宝は岳飛に首を討たれ、方臘も焼死する。呉用は、武松、燕青に救い出されて梁山泊に帰還した。

宋禁軍・最強の軍人「童貫」楊令に破れる
→楊令伝 九/遥光の章

 北では、阿骨打率いる金と梁山泊連合軍が遼を滅亡させる。楊令が梁山泊の頭領となり、河水沿いの地域を一気に制圧した。童貫は北伐の命令を受け、楊令率いる梁山泊との決戦の決意を固め、十八万の禁軍を梁山泊に布陣する。禁軍先鋒となった岳飛は、瑾、花飛麟とまず交戦した。一歩も譲らぬ闘いが続き、趙安、呼延、三娘など両軍の将軍たちの戦死者も増えていく。岳飛は乱戦のなかで張清の首を討つ。ついに、双方の均衡が崩れ、楊令の吹毛剣が童貫を斬り、遺骸は岳飛のもとに届けられる。童貫を失った宋は、南下してきた金に開封を奪われ宋国の機能は停止した。

 岳飛は隆徳府に逃れて、宋軍ではなく岳家軍を名乗った。賊徒と闘った時に崔如という娘と知り合う。岳飛は崔如を妻にし、崔如のつれていた紀雲以下五人の子供達を養子にした。梁山泊に恨みをいだく軻輔も合流する。楊令の梁山泊は、自由市場を国の礎とし、帝を置かない新しい国造りを目指して成果をあげていった。

 李富は、趙構を即位させて、南宋を建国し、李師師との間にできた子供を皇太子にする。そして執拗な金軍の追尾をかわし続けた。北に還る金軍に岳飛は闘いを挑んだが、名将・蕭珪材の軍に一蹴される。

 岳飛は国のありようについて考え、「盡忠報国」という言葉を背に彫った。軻輔の献策で、梁山泊を襲って軍馬三千を奪ったことから、岳家軍は梁山泊と交戦することになるが、秦容の超人的な活躍もあって再び敗れる。

梁山泊再建に尽力した楊令。

 金国は、劉豫を傀儡にして斉を建国させる。また、宋の元皇帝・徽宗と共に捕虜としていた秦檜を南宋に戻して金宋の繫ぎにした。岳飛は南下して来た金国の蕭珪材を一騎打ちで倒す。しかし、税を上げたために民の乱にあい、隆徳府を離れて南宋に合流せざるをえなかった。

 梁山泊は、東の日本から遠く西域を越えた交易路を確保し、自由市場を完成して、中華の経済の覇権を握りつつあった。ところが金国は二代目の帝・呉乞買の遺勅で、梁山泊と袂を分かつことを決めた。その梁山泊の本拠を、河水を下ってありえないほどの巨大な洪水が襲う。梁山泊の中枢が水没した。

 岳飛は南宋軍として出陣し、ふたたび梁山泊と激突する。楊令の神の如き用兵に翻弄されつつ、岳家軍は力戦する。しかし、じりじりと押され、将兵の数を減らしていった。そこに、梁山泊と同盟していたはずの兀朮率いる金軍が楊令に奇襲をかけるが、梁山泊軍はこれも打ち払った。追いこまれた岳飛と最後の一戦に臨む直前、楊令は従者だった刺客の毒剣を浴びる。毒の回った体を駆って、楊令は岳飛の右腕を吹毛剣で斬り落とす。  その直後、楊令は落命した。

楊令伝の『岳飛』について
楊令(幻王)
梁山泊の元頭領。死亡
呉用(智多星)
梁山泊の最長老
史進(九紋竜)
遊撃隊隊長
李俊(混江竜)
水軍総隊長
燕青(浪子)
元諜報担当。子牛山に隠棲
項充(八臂哪吒)
水陸両用部隊隊長
孟康(玉旛竿)
兵站・物流を担当
曹正(操刀鬼)
沙谷津で交易を担当
李立(催命判官)
兵站・物流を担当
顧大嫂(母大虫)
西遼で食堂を営む
孫二娘(母夜叉)
沙門島で交易を担当
白勝(白日鼠)
医師
山士奇(魑刺将)
上級将校
王貴
商隊を指揮。
王英と扈三娘の息子
秦容(狼牙)
隊長。秦明の息子
呼延凌(七星鞭)
隊長。呼延灼の息子
文祥(小華陀)
医師。安道全の弟子
蘇端(斑猫王)
巡邏隊隊長
宣凱
沙門島で交易を担当。宣賛の息子
陳娥
文治省を統轄。郝思文の妻
尹舜(神駆馬)
馬の医師。皇甫端の弟子
蘇琪(照夜玉)
旧楊令軍を指揮
瓊英
日本との交易を指揮。張清の妻
侯真(一撞鬼)
致死軍隊長。侯健の息子
張朔
交易に従事。張清と瓊英の息子
五郎
奥州出身の日本人
狄成(痩臉熊)
水軍。赤手隊隊長
上青(太湖蛟)
西域で交易を担当
倪雲(捲毛虎)
水軍隊長
費保(赤鬚竜)
水軍隊長
蘇良
医師
劉策
大工。李雲の弟子
蒼貴
上級将校。元花飛麟隊
董進
秦容隊の上級将校
党厳
元郭盛隊の副官
周印
上級将校。元郭盛隊
譙丹
上級将校。元郭盛隊
曾潤(遠鐘児)
上級将校。元郭盛隊
葉敬(赤竜児)
史進遊撃隊の上級将校
黄鉞(獅殺将)
呼延凌隊の上級将校
田忠
上級将校
馬霊
上級将校。元韓伯竜隊
羅辰
致死軍所属
高平(鉄釥豺)
鍛冶担当。湯隆の弟子
趙林(急単舸)
水軍造船部隊所属
耿魁
星軺鎮出身の新兵
陳央
呼延凌隊の将校
鐘玄
呼延凌隊の上級将校
卜統
水軍所属
鄧広(列缺鬼)
調練担当
韓成(望天吼)
西夏で商隊を護衛。韓滔の息子
童貫
元宋禁軍の総帥。
楊令に討たれ戦死
岳飛
南宋軍の将軍。岳家軍の頭領
孫範
岳家軍の幕僚。民政担当
岳雲
岳家軍の上級将校。岳飛の養子
呉玠・呉璘
元岳家軍。成都府で金軍と闘う
張憲
岳家軍の将校。調練担当
単琅
岳家軍の馬匹担当
劉光世
南宋禁軍の総帥
張俊
南宋軍の将軍。張家軍の頭領
韓世忠
南宋軍の将軍。
李富
元青蓮寺の総帥。死亡。
李師師
李富の同志
趙昚
南宋の皇太子
秦檜
南宋の宰相
阿骨打
金の太祖。病死
兀朮
金軍の総帥。阿骨打の息子
撻懶
金軍の将軍
麻哩泚
金軍の将軍
胡土児
金の北方に住む少年
王進
元宋の禁軍武術師範。
子午山に隠棲
公淑
王進の妻。秦容の母。
王清
子午山で暮らす。
王英と白寿の息子
蔡豹
子午山で暮らす。
蔡福の息子、実父は蔡慶
范政
漢水の船頭
梁興
漢陽の商人。岳家軍に関わる
毛定
岳州の医師