幼いころから本を読むのが好きだった。親友は? そう聞かれれば、私は迷わず自分の部屋の本棚を指し示すだろう。学校に行けば、もちろん友人はいる。嫌いな先生の悪口を言い合ったり、好きな男の子のことを噂し合ったりする友人は何人かはいる。けれど、学校の友人の中で、本棚の友人たちよりも深く私の心の中に入ってきた人はいない。そのかけがえのない友人たちをやがて私は失うことになるのだ。
そのとき、私は病院にいた。検査のための短い入院の最中だった。その検査に意味があるとは思えなかった。私の目が抱えた疾患は、ありふれたものではないにしても、過去に例のないものでもなかった。だからあとは、現代医学が作り上げたマニュアルに従って私の目に治療が行われ、現代医学が作り上げた常識に従って私の目は光を失うだけだ。その検査に意味を求めていたのは、担当の医師でも、検査の技師でも、私自身でもなくて、奇跡という名の
その日、予定されていた午後の検査までの待ち時間に、私は文庫本を持って談話室に向かった。見舞い客と入院患者がお喋りできるよう、病棟の各フロアに一つずつそういう部屋が作られていた。中途半端な時間のせいか、談話室には誰もいなかった。私はソファーに座り、時折、本を確認しながら、赤毛の少女の物語を頭の中で暗誦し始めた。光を失う前に、好きな小説をできるだけ覚えておこうと思ったのだ。目を閉じる時間が長くなったのは、頭の中で文章を暗誦していたせいだ。もちろんそんなこと、誰にも言えるわけがなかった。覚え切れるわけがないと呆れられるか、同じ理由で哀れまれるかのどちらかだ。そう。覚え切れるわけがない。わかっていた。それでも私はその作業をやめられなかった。彼女と最初に出会ったのは、そんなときだった。
「火、ないか?」
それが第一声だった。私は頭の中で暗誦していた赤毛の少女の物語を打ち切り、目を閉じたままその声の主を推し量った。どんな人だろう? 女性? もちろん女性。年は若い。二十歳くらい? もう少し上かな。背はどれくらい? 声は上のほうから聞こえてきた気はするけど、でも、ああ、わからない。
私は目を開いた。少し眉をひそめて、私を見下ろしている人がいた。背の高い、肩幅の広い人だった。女性、だよね、と私は思った。
「ごめん。何か、邪魔したかな?」と彼女は言った。
「あ、いえ」と私は言った。目が見えなくなったときに備えて、音だけでどれだけの情報を集められるか練習していた、などと見知らぬ人に言えるわけもなかった。
「火、ないか?」
彼女は手にしていたタバコをくわえ、その前でライターを擦る仕草をした。