◆仇討ちしない仇討ち映画
【是枝】 今回、『MISSING』も読ませていただきましたが、本多さんの作品って、セリフがすごく軽妙でしょう。よくできたアメリカのコメディーというか、すごくしゃれてますよね。あの辺の会話のリズムというのは、どういうふうにしてつくっているんですか。
【本多】 極端なことをいえば、ぼくは、言葉一つ一つの意味はどうでもいいんです。それが全体の流れとしてリズムが整っていれば、言葉としてより適切なものがあったとしても、リズムが合うほうを選んでしまうという書き方をする。会話もその延長というか、むしろ地の文が会話の延長といったほうがいいのかもしれません。とにかくリズムが第一なんです。その中で、あるウイットみたいなものを書いてしまうというのは、ぼく自身の照れなんだと思います。
【是枝】 書きながら声に出して読むんですか。
【本多】 書いているときに実際に声に出して読むことはほとんどないんですけど、推敲していく段階で声に出して読むことというのはけっこうあります。
【是枝】 なるほど。そのリズム感でしょうね、本多さんの作品を映像化したいという人が出てくるというのは。
【本多】 たまに「これってこのまま映像化できる」とかいわれることがあるんですけれども、でも、こういう台詞は小説だからこそ成立するのであって、現実の役者さんがこんな会話をしている画(え)を見せられたら、きついんじゃないですか。
【是枝】 でも、地の部分を含めてリズム感があって、音としての響きもいいので、プロデューサーとか脚本家が読んだときに、映像にしてみたくなるんですよ、きっと。それはぼくもすごくよくわかる。
【本多】 そうであればいいんですけど。
最後に、新作の『花よりもなほ』について伺わせてください。
【是枝】 来年公開予定で、今、ちょうど仕上げの編集作業をしているところです。
【本多】 仇討ちものの時代劇だとか。
【是枝】 仇討ちものだけど、仇討ちをしないという話なんです。
作品には、あるテーマみたいのはあるんです。だけど、それはなるべく表面には出さないで、娯楽映画ですよ、というかたちでつくっておいて、よく観てみると何か……そういうほうがいいかなと。
【本多】 なるほど。じゃあ、これ以上野暮なことは訊かないでおきます(笑)。キャストは?
【是枝】 主役は岡田准一君です。彼が非常によかったんですよ。すごくお芝居できる人だなとは思っていたんですけど、予想以上のよさでびっくりしました。相手役が宮沢りえさん、それから長屋ものなので、長屋の住人たちがいろいろ出てきます。田畑智子さん、古田新太さん、木村祐一さん、上島竜兵さんとか、お笑いの人たちにも何人か出ていただいています。
【本多】 楽しみですね。映画の話を伺っていると、やはり是枝さんに『MOMENT』を撮っていただきたくなりました。
【是枝】 その話はまだ立ち消えにはなっていないと思うから、もしかすると映像化が実現して、またこういう時間がもてるかもしれませんね。
【本多】 いいですねえ。その日が来るのを楽しみにしています。
(構成・増子信一)
*『青春と読書』収録 集英社刊
