『MOMENT』スペシャル対談 本多孝好×是枝裕和

 本多孝好さんの『MOMENT』は、病院を舞台にして、現代における死の問題を取り上げた作品です。映画監督の是枝裕和さんも、『ワンダフルライフ』や『誰も知らない』など、死を題材とした作品で、高い評価を得ています。死という重いテーマをお二人はどのようにとらえているのか。文学と映像のそれぞれの立場からお話しいただきました。

◆死の経験を昇華する

【本多】 是枝さんは、小説家と会うことはありますか。

【是枝】 対談というかたちでは初めてかもしれないですね。

【本多】 今回、「だれか対談したい方はいませんか」っていわれて、ぼくは「是枝さん」とすぐに答えたんです。

【是枝】 ぼくは、以前『MOMENT』を映画化しませんかというお話をいただいたことがあって、その辺の経緯もあってのお話かなと思ったんですけど。

【本多】 いや、単純にぼくが是枝さんに会いたかったんです(笑)。お引き受けいただいてありがとうございました。

【是枝】 プロデューサーから、テーマというか、人間を見ている視線みたいなものがぼくと近いんじゃないかといわれたので。読ませていただいて、その意味がとてもよくわかりましたね。
『MOMENT』は病院を舞台にしていますが、本多さんは医学部の出身ではないですよね。どうしてこういうテーマを思いつかれたんですか。

【本多】 もともとの発想として、死というものを正面から扱った小説を書いてみたいという気持ちがあったんです。その当時、家族が入院をしていたので、病院に行く機会があったということと、それに病院というのは、今の社会の中で死というものが一番ナチュラルに存在する場所ですから、そこを舞台にしようという計画がまずありました。
  それから、主人公は医療スタッフでもなく、患者の家族でもないという立場にしようと思って、掃除夫という立場を発想をしたんです。

【是枝】 掃除夫という、ある種距離のあるところからドラマを見ている感じというのがよかったですね。

【本多】 一人称の死でもなく、二人称の死でもなく、かといって三人称というほど離れてしまわない扱い方というのが、あの当時のぼくにとって――今でも同じですけれども――、死というものを見るときに一番親しみやすい視線だったし、その距離で書くのが一番物語を成立させやすいだろうと思ったんです。
  これは、ちょっとこじつけ気味なんですけれども、是枝さんの作品は、原作がある『幻の光』を別とすると、『ワンダフルライフ』は一人称の死を扱っていて、『ディスタンス』では近しい者の死、二人称の死というものを扱っていらっしゃいますね。そして『誰も知らない』のときには、妹の死ではあるんですけれども、ある都市の中の一つの小さな命の死ということで、三人称的な死の視点というのを感じながら観ていたんですけれども、是枝さんご自身は、そういう死に対する角度ということを意識されていましたか。

【是枝】 いえ。今度はこういう角度で、というようなことを考えてはいなかったですね。 『ワンダフルライフ』は、もともと一時間のテレビドラマの脚本として書いたもので、そのときには死んでいくおじいちゃんが主人公でした。まさに一人称で書いていたわけですが、十年近く温めているうちに、死んでいく人たちの思い出を、天国の入り口で聞き出すという役柄の青年が、だんだん主人公として浮上してきて、その青年が死者の話をもとに再現ドラマをつくっていく、ドキュメンタリーのようなかたちになったんです。
『ワンダフルライフ』をつくったのは七年前(一九九八年)ですが、このところ、死者がよみがえったりするという映画がやたらと流行っているじゃないですか。

【本多】 はい。みんな、よみがえっちゃったりしてますね(笑)。

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